あの日、おつりを受け取ってくれなかったタクシー運転手さんへ

    お笑いコンビ「ずん」の飯尾和樹が初のエッセイ集『どのみちぺっこり』を刊行。まだ売れる前の、ほろ苦エピソードを明かした。

    「おつりは結構です」

    タクシーの運転手さんに伝えたら、「君たちからはまだ受け取れないよ。大事にしなさい」と断られた――。

    お笑いコンビ「ずん」の飯尾和樹は、エッセイ集『どのみちぺっこり』(PARCO出版)にこんなエピソードをつづっている。

    売れっ子芸人が明かした、ほろ苦い思い出の1ページ。

    140円のおつり「君たちからは…」

    ――本で書かれていたタクシーのお話は本当ですか?

    本当です。千円渡して、140円のおつり。

    「おつりは結構です」と言ったら、「申し訳ないけど…」って。「君たちからはまだもらえない。大事にしておけばいいよ」と言われました。

    個人タクシーの運転手さんで、あの当時で50代ぐらい。元気でいらっしゃるんですかね…。

    まだまだ若造?

    ――飯尾さんが何歳ぐらいの時の話ですか。

    38歳とか、そんな感じですよ。

    いまでも忘れません。五反田から、品川区役所の歩道橋のちょっと先まで行って。(相方の)やすと2人、石畳に座りこんじゃったんですよね。

    「いやー。生意気で鼻についたんだな」

    「こんな若造がさ」

    「っていうか、38じゃねーか!」って(笑)

    ――大して若手でもない(笑)

    若造でも何でもないですよ。28歳ならまだね。「俺たち、10年以上遅れてるんだな」と言って。

    ダボダボの服

    ――運転手さんとしても、イラッとしたというよりは、芸人さんを応援する粋なはからいだったのかも…。

    いやー。僕らの言い方が生意気だったんじゃないですか。

    「あっ、おつり結構です」「何だ、お前?」みたいな。

    先輩方のマネをそのまましてしまったのかもしれない。だから服のサイズが大きかったんでしょうね。もうダボダボ。本当に、そんなのばっかりですよ。

    だけど、あの140円のおかげでコロッケが買えました。運転手さん、ありがとうございました。

    関根さんに渡された回数券

    ――めっちゃいい話。

    タクシーと言えば、15年ぐらい前こんなことがありました。

    関根勤さんと映画を見た後、関根さんの家に行くことになったんです。「ちょっと寄るか?」と言われて、「ああ、いいですね」と。

    「僕、いつも電車だよ」ってまず電車移動で。最寄りの駅から歩いて10分以上あるから、さすがにそこからタクシーかな?と思いきや、「はい、バスの回数券」って渡されて。

    「関根さん、タクシー乗らないんですか?」と聞いたら、「いや、いまだに…」って。

    これが仕事中だったら「タクシー!」って手を挙げてパパッと乗れる。でもプライベートだと、若いころのクセがあってタクシー乗るのに躊躇するって言うんですよ。

    ――あれだけのキャリアがあって、そういう風に思えるのがすごい。

    はい。若いころ、交通費浮かせてご飯代に回すために、先行投資でスクーターを買って通ったとかとか。えっ!関根さんってそうなんだと。

    「面白い人には勝てない」

    ――関根さんの言葉で印象に残っているものはありますか。

    これはウド鈴木と一緒に言われたんですが、「技術はもちろん大事だけども、結局その人が面白くなくちゃダメだ」と。

    「だから、面白い人には勝てない」って言ってましたよ。技術は大切だし、プロのなかでも技術の長けている人はいるけど、その「人」が面白いことが大事。

    確かにそうだなと。僕ら世代で言えば、さんまさん、タモリさん、たけしさんも、鶴瓶師匠も、人間的に魅力があって面白くて。

    とんねるずさん、ウンナンさん、ダウンタウンさんもそう。出川哲郎さんなんかまさに、ですよね。

    20代のころはヒマで床ずれするぐらい寝てたので、そうやって関根さんに「インタビュー」ばっかりしてたかもしれません。

    〈飯尾和樹〉 東京都出身。1968年12月22日生まれ。1990年、浅井企画に所属。お笑いコンビ「チャマーず」「La.おかき」を経て、2000年に相方やすと「ずん」を結成、ボケを担当する。バラエティー番組からドラマ、映画まで幅広く活躍中。