1998年の長野オリンピックのスキージャンプ団体戦をめぐる実話をもとした、映画『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』が公開された。
リレハンメル五輪で惜しくも金メダルを逃し、長野大会で日本代表に落選した西方仁也(田中圭)は、代表選手の華々しい活躍に複雑な思いを抱きながらも、裏方のテストジャンパーとして大会を支える。
聴覚障害のあるテストジャンパーを演じた山田裕貴が、「嫉妬」や「自己嫌悪」など負の感情の乗り越え方を語った。
命を懸けて飛ぶ選手

――実際にスキージャンプをご覧になったことは?
スキージャンプを見に行きたいと思っていたところに、(札幌で開かれた)「HBCカップジャンプ」という大会のゲストに呼んでいただいて。
着地に失敗して、大ケガで救急車に運ばれてしまう様子とかも間近で見ました。一回一回、選手生命――だけじゃなく、本当に命を懸けて飛ぶ。
そんな姿を拝見して、すごいな、なぜこのスポーツをできるんだろうと。だって、めちゃくちゃ怖いじゃないですか。
でも皆さん、飛んだ時の感覚がやっぱり忘れられないみたいで。スタート台に立って、あの恐怖に打ち勝つ……。そこからジャンプして離れる瞬間、ですよね。
「怖いですよ、でも…」

――聴覚障害のあるジャンプ選手、高橋竜二さんの役を演じていますが、ご本人に会って話を聞いたりもしたのでしょうか。
はい、お会いしてお話を聞かせてもらいました。怖くないですか?と質問したら、「怖いですよ。でも、飛んだ時はすごく気持ちいいんです」と。
「音がないから、自分の世界で飛べる。気にしなくて済むのはいいところかもしれない」
「聞こえないからといって特別扱いはしてほしくなかった」
と仰っていました。
音のない世界

――ろう者の発声方法なども勉強されたのでしょうか。
一度、勉強会というか聴覚障害のある方たちにお話を伺って。手話をどれぐらい使うのかとか、口話についてもお聞きしました。
音のない世界で、舌の動きや振動だけで声を発する。そこの難しさは、なかなか想像がつかないので。
小学校の頃、硬式野球のクラブチームに入っていて、先輩のお父さんが聴覚障害のある方でした。コーチをやっていて、めちゃくちゃ球が速かったですけど。
その方が「サ行やタ行が発音しづらい」と言っていたのを思い出して、参考にもしました。
「すごい嫌なヤツでした」

――「どうして俺がここにいて、お前がその舞台にいるんだ、原田」「落ちろ、お前なんか落ちればいい」という主人公の田中圭さんのセリフには、うわ〜!となりました。山田さんは、そんな風に嫉妬や悔しさがないまぜになったような思いを抱いたことはありますか。
めちゃくちゃあります。「なんでお前が出てんだ」って思ったこと、何回もあります(笑)
毎日、思ってました。テレビつける度に。23歳から27歳ぐらいまで、ドラマとか映画見るのが嫌で。当時はすごい嫌なヤツでした。
――あんまりイメージないです。
想像つかないかもしれないですけど、家帰ったらもう「見たくない、見たくない、見たくない」。オーディション落ちても、「ああ、やっぱりね。どうせ誰々でしょ?」みたいな。
――山田さんにも、そんな風に腐っていた時期があったんですね。
いや、もう全然。皆さんが思うほど明るくもないし。特に昔はそうでした。
きっと、自分の弱さを認められなかったんですよね。
俳優仲間からの言葉

――その状態から、どうやって脱却したのでしょう。
脱却……人と比べなくなったからじゃないですかね。
俳優仲間に「一回バーンっていった後もつらいよ」「だから山田君は、今すごくいい状態だよ」と言葉をかけてもらったり。ブレイクしちゃうつらさもあるんだな、とか。
この前、先輩から「裕貴がポスト〇〇って書かれてるけど、そうなの?」って聞かれたんですけど。「わからないっす」と答えて。
まだ全然、出られている感覚もないし。もしかしたら、世の中的には誰かの代わりってことなのかもしれない。それは世の中が決めることだから、気にしても意味ないし。
だから、今は何も思ってないですね。考え過ぎたし、思い過ぎたし。本当に最後は「無」になるんだなと。
明日いなくなっても

――以前のインタビューで「死んだ時にニュースになる俳優になる」ことが目標だと言ってましたが、すでに叶っているのでは。
これ、あんまり重く受け止めないでほしいですけど、「明日いなくなってもいいや」というぐらいの感覚で生きられたらすごいな、と思っていて。
「この作品に出たい」とか多少はありますけど、「山田君にこの役やってほしい」と言われた方が燃える。求められてるから生きていられる、みたいなところはあります。
だからこそ、「別にいいや、明日この世からいなくなっても」っていう。もちろん、願わくば寿命でと思ってますけど。
天職かもしれない

――いい意味での投げやり感というか。
そうなんです。いい意味での投げやり感なんです、まさに。
『ヒノマルソウル』の時も、竜二さんを生きることを一生懸命やる。俺はどうでもいいから、この人が生きてるってことを伝えたい、みたいな。
いつも思うんですけど、お芝居やってる時の方が生きてる感覚がありますね。
自由に生きるなんて最初からできないから、役の方が自由というか。だから、いい風に言ったら「天職」かもしれない。そっちの方が生きてるって思えるんです。

山田裕貴(やまだ・ゆうき)
1990年、9月18日生まれ。愛知県出身。NHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019年)の雪次郎役をはじめ、テレビや映画などで幅広く活躍。舞台『終わりのない』で文化庁芸術祭賞 新人賞、NHKドラマ『ここは今から倫理です。』で2021年3月度ギャラクシー賞月間賞。『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』に続き、『東京リベンジャーズ』『燃えよ剣』などの出演映画が公開を控えている。日本テレビ系ドラマ『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』が7月7日(水)夜10時より放送開始予定。