• mediaandjournalism badge

川崎殺傷「容疑者宅にテレビやゲーム機」報道に「ウチにもある」と批判殺到

フジテレビ系と日本テレビ系で相次いだ報道。炎上はなぜ起きたのか

川崎市登戸の路上で児童ら19人が相次いで殺傷された事件をめぐり、メディアの報道姿勢に批判が殺到している。

フジテレビ系のFNN PRIMEは5月30日午後5時10分に「部屋にテレビとゲーム機 岩崎容疑者の自宅」と題した記事を配信。

《警察は29日、岩崎隆一容疑者(51)の自宅に捜索に入ったが、部屋は整然と整理されていて、テレビのほか、ポータブルのゲーム機やテレビにつないで遊ぶゲーム機などもあったことが新たにわかった》と報じた。

部屋にテレビとゲーム機 岩崎容疑者の自宅 https://t.co/aNelJEIcwm #FNN

また日本テレビ系の日テレNEWS24も、午後5時49分配信の「川崎死傷 男の自宅からテレビやゲーム機」というニュースで、以下のように報じている。

《警察が29日、岩崎容疑者の自宅を家宅捜索したところ、部屋からテレビやゲーム機が見つかったという》

川崎死傷 男の自宅からテレビやゲーム機 https://t.co/MCuNsuSpDU #日テレNEWS24 #ntv

これらの報道に対し、Twitter上では「テレビやゲーム機があるのは普通」「うちにだってある」「つまりテレビが危険ってことですね」と疑問の声が相次いだ。

《うちにだってあるわテレビやゲーム機》

だからそういう報道やめろって言ってるんだよ テレビやゲーム機があったからなんなのさ。なんで暗に、アニメやゲームに関わった人間は殺人をするみたいに言うんじゃ。 うちにだってあるわテレビやゲーム機。

「まさか犯人の家には冷蔵庫もあったのでは?」「冷蔵庫と電子レンジがあることも判明した。寝るときは枕を使っていたようだ、とかも全部報道すればいい」と、ありふれた家電などを引き合いに出した皮肉も拡散。

30日夜には「テレビとゲーム機」という言葉が、Twitterのトレンドに入った。

《白米を食べていた恐れもある》

テレビとゲーム機を所持していたと聞いて震えてる… まさか犯人の家には冷蔵庫もあったのでは?電子レンジとかポットも… それに白米を食べていた恐れもあるし、ましてやパンを食べて生活していた可能性もあるし、新聞なんてものを読んでいた暁には大問題だ。規制も視野に入れなければならないと思う。

《「冷蔵庫と電子レンジがあることも判明した。寝るときは枕を使っていたようだ」とかも全部報道すればいい》

だから何だよ(笑)。いっそのこと「岩崎氏の自宅に冷蔵庫と電子レンジがあることも判明した。寝るときは枕を使っていたようだ。」とかも全部報道すればいいよ。 部屋にテレビとゲーム機 岩崎容疑者の自宅 - FNNプライムオンライン https://t.co/WA4UcQXR8A #FNN

宮崎勤事件とオタクバッシング

こうした報道はいまに始まったものではない。

1988〜89年に起きた東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件では、宮崎勤元死刑囚の部屋に残された雑誌の山や、うず高く積まれたビデオテープなどが報じられ、オタクへのバッシングが巻き起こった。

その後も凶悪犯罪や大きな事件が起きるたび、メディアは容疑者宅から押収されたマンガやゲームなどを報道。「犯行への影響」を印象づけるような報じ方も少なくなかった。

変わったオタクへの意識

しかし、宮崎事件後の30年で、アニメやマンガ、ゲームは当たり前のものとなった。

楽天が今年4月、フリマアプリ「ラクマ」利用者の女子高校生1230人を対象の実施したアンケートでは、「自分は〇〇オタクだと言えるものがありますか?」という質問に、女子高生の83.5%が「ある」と回答した。

「オタクにどんな印象を持っていますか?」という問いにも、

「尊敬できる」(13.5%)

「好きなこと、夢中になれるものがあるのは良いことだ」(67.9%)

計81.4%が肯定的な回答を寄せている。

アプリ利用者へのアンケートだから、サンプルには偏りがある。30年前と比べて「オタク」の定義が変わってきている面もあるだろう。

それでも、オタク趣味が決して「特殊」なものでなくなりつつあるのは確かだ。

にもかかわらず、従来通りの押収品報道が「伝統芸能」のように続けられている。

今回の炎上によって、メディアと実社会との認識の落差が、はからずも浮き彫りになったかたちだ。

続報圧力と内向きの競争

もうひとつ、今回の報道の背景として考えられるのが、メディア内の「続報圧力」と、報道各社の「内向きのスクープ合戦」だ。

社会的な影響の大きな事件であればあるほど、現場の記者は絶え間なく「続報」を出すことが強く求められる。

新聞であれば夕刊、朝刊。テレビであれば朝昼夕や夜のニュース番組へ。新たなネタを仕入れるべく、記者は捜査関係者に夜討ち朝駆けし、情報収集に奔走する。

視聴者不在の思考停止

筆者もかつて、新聞社で事件記者をしていた時期がある。取材競争の厳しさと、続報を求める圧力の強さは身をもって体験した。

競争が健全に働けば、そこから価値あるスクープが生まれることもある。

一方で「逮捕へ」を他社よりも半日早く書くとか、「現場で白い車が目撃された」とか、読者不在の「抜き」「抜かれ」レースに追われ、取材現場が思考停止に陥ってしまうこともある。

続報を出すことが自己目的化すると、「その情報は社会にとってどんな意義があるのか」という、報道機関にとって一番大切な視点が抜け落ちてしまう。

今回の「テレビやゲーム機があった」というニュースには、どんな意味があったのだろう。

むやみに続報を出し続けるよりも、「一回休み」の後により深い詳報を世に問う方が、よほど意義があるのではないか。