「僕は死にません! あなたが好きだから」
武田鉄矢が道路に飛び出し、ダンプカーを止めて浅野温子に叫ぶ。1991年に放送された『101回目のプロポーズ』のドラマ史に残る名場面だ。
ところが、『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)の著者で、元トラック運転手の橋本愛喜さんには、ひとこと言っておきたいことがあるという。
「よそでやれ!」切実な思い

――「僕は死にません!」って名シーンじゃないですか。何か問題あるんですか?
『SAY YES』がダーンと流れてね。でも、トラックドライバー同士でしゃべってると、「あれはないよね」という話になりますね。
トラックって急に止まれない。現実だったら、武田さんはもうひかれてトラックの下ですよ。
本当に「よそでやれ!」と思います。求愛の仕方、いくらでもあるやろ! なんでトラック使うねんっていう(笑)

――ドラマの中の運転手も「馬鹿野郎コラ、死にたいのか!」と怒ってましたが、トラックドライバー側はひとつ間違えると加害者になりかねない恐怖がある?
そうですね。残念なことですけど、自殺願望のある人の場合、乗用車よりも大きくて破壊力のあるトラックの方に目がいってしまうのかもしれません。
懺悔のメール、逮捕の重み

――それで人の死を背負わされてしまったら、たまらないですね。
たまんないです、本当に。
また、トラックドライバーさんって繊細な人が多いんですよね。懺悔のメールとかも、しょっちゅう来ます。
「実は僕、人をひいちゃいました」「(荷主や会社)に過積載を強いられました」とか。
仮にドライバーが正しく運転していた場合でも、人の命が失われたという事実は変わらないですから。
調べてみると、自分の過失が一切ない「もらい事故」でも、現行犯逮捕される、実名報道されるというパターンが相当数あるんですよ。
――過失がなければ、さすがに不起訴になるのでは。
もちろん逮捕=起訴ではありません。それでもメンタル的に「逮捕されちゃったんだ」みたいな感覚は、やっぱり強く残りますからね。
クライマックスでひかれがち

――そう考えると、「ドラマでのトラックの扱いが気になる」というのも、ちょっとわかる気がします。物語を盛り上げるために、後半9〜10話あたりでメインキャラがひかれがちですよね。
そう、ひかれがち(笑) ドラマのパターンですよ。
ほんまに、なんでトラックやねん!って思いますね。乗用車にせえよって。

〈橋本愛喜〉 フリーライター。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。20代で父親の工場を継いで大型一種免許を取得。トラックで日本中を走り回った経験を生かし、『トラックドライバーにも言わせて』を上梓。ブルーカラーの労働問題や災害対策、ジェンダーをめぐる社会問題などを中心に執筆している。