「いってらっしゃい」は覚悟の言葉 パンクロッカーが語る震災と息子とお弁当

    パンクバンドBRAHMANとアコースティックバンドOAUのボーカル TOSHI-LOWが、『鬼弁〜強面パンクロッカーの弁当奮闘記〜』を刊行。弁当を6年間つくり続けた息子への思いや、東日本大震災の被災者から受け取ったものを語った。

    西槇太一

    BRAHMANのTOSHI-LOW

    パンクバンドBRAHMANとアコースティックバンドOAUのボーカル TOSHI-LOWが、『鬼弁〜強面パンクロッカーの弁当奮闘記〜』(ぴあ)を出した。

    息子のために6年間つくり続けたお弁当を、写真と文章でまとめた愛の記録だ。

    鬼神のようなライブパフォーマンスと、無骨でストイックな性格から「鬼」とも称される彼が、毎朝欠かさず子どもたちを「いってらっしゃい」の言葉で送り出す理由とは――。

    この世とおさらばすることしか

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    ――『鬼弁』には「いってらっしゃい」という言葉がよく出てきますね。

    一番のキーワードですね。子どもができるまでは、人生でどれだけさよならを言って、この世からおさらばするかってことしか、考えてなかった。

    まさか人を見送って、また帰りを待つ人生になるなんて思ってもなかったですけど。

    人生最後になるかもしれない

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    ――TOSHI-LOWさんは東日本大震災の復興支援活動にも積極的に取り組んでいます。震災で子どもを失った父親から「“おかえりなさい”って言えなかった事じゃない。“いってらっしゃい”って言わなかったことに後悔してる」と言われた、という本のエピソードは胸に刺さりました。

    ある日、日常を失った人が一番後悔しているのは、なんであの時「いってきます」「いってらっしゃい」を言えなかったんだろうっていうこと。その話を聞いた時にグサッときて…。

    それは、さよならの挨拶をできなかったっていうことなんだと思うんですよね。

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    OAU / OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND / Via youtu.be

    OAU「帰り道」 テレビ東京系ドラマ24『きのう何食べた?』オープニングテーマ

    ――ドラマ『きのう何食べた?』の主題歌『帰り道』(OAU)の《思い出してよ おかえりの 声が聞こえた日のことを》《思い出してよ ただいまと 扉の開いた日のことを》という歌詞からも、「ただいま」「おかえり」と言える日常の尊さを感じました。

    一回一回、背中を見送るってことは、さよならを言う意味もある。「いってらっしゃい」が人生最後の言葉になるかもしれないし。

    だからこそ、帰ってきて「ただいま」「おかえり」が言えたら、よかったなと思えるわけで。

    漁師からの号泣電話

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    ――朝、お弁当をつくっている時に、震災ボランティアで知り合った漁師の方から電話がかかってきたこともあったとか。

    朝の7時前ぐらいだったかな。石巻の漁師から電話がかかってきて、わーわー泣いていて。

    石巻は震災でも特に被害が大きかった市。その漁師は津波で奥さんと息子を流されてるの。

    自動車のなかに足が見えて、工具も何もないから、いろんなもので叩き割って、少しずつ引っ張り出して。そうしたら、やっぱり自分の息子で。

    水もないから、船から日本酒を持ってきてかけてやったっていう壮絶な話。奥さんはひと月後、瓦礫のなかから見つかった。

    その人から最初に話を聞いたのは、仮の住まいだった。俺は仏壇の写真でしか息子を見たことがないんだけど、一緒に過ごしてきたような気もしていて。

    それから何年か経って、朝、弁当をつくってる時に電話がかかってきたんですよ。

    返す言葉が見つからなくて

    ――どんなことを話したのですか。

    「夢に出てきてよ」って泣いてるわけですよ。息子は高校の剣道部で、次の主将になるはずだったんだけど。

    「息子が一生懸命、剣道の練習してるのをはじっこで見てて。今日も頑張ってるなと思ったら、急に5センチぐらいのところに顔がきて。『父ちゃん、俺は生きていたかった』って言われたんだよ。TOSHI-LOW、俺はどうすりゃいい?」って電話越しで泣いてるの。

    返す言葉が見つからなくて、ただ「あぁ」って言って…。

    「いってらっしゃい」は覚悟の言葉

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    NOFRAMESTV / Via youtu.be

    BRAHMAN 「ナミノウタゲ」MV

    結局、夢に出てきた息子は何が言いたかったのか。俺なりに歌で返そうと思ってつくったのが『ナミノウタゲ』(BRAHMAN)っていう曲。

    《何年が経ったの 君を夢に見た 波に残した話の続きを聞かせて》

    その話を聞いてから、朝、自分の息子を見送る時もどっか遠くに見えるようになった。

    だって、何があるかわからないじゃないですか。電車の事故に巻き込まれるかもしれないし、暴走した車にはねられるかもしれない。

    その時に、今日みたいな気持ちで「いってらっしゃい」が言えたらいい。だから、「いってらっしゃい」って本当は覚悟の言葉なんだと思うんですよ。

    丸くなったわけじゃなく

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    ――デビュー当時の、まったく人を寄せつけない、すべて燃やし尽くすようなBRAHMANを知っていると、隔世の感があります。

    子どもが生まれるまで、「ありがとう」もロクに言ったことのないような人生を過ごしてたからね。

    そうでもないと実際、やっていけなかった。あの時、いまみたいに「みんなのために」みたいな気持ちでやってたら、押しつぶされちゃったと思うし。

    ――丸くなったな、と思いますか。

    丸くなったというより、もともとの自分が多面体のゴチャゴチャした形なんですよ。ウニみたいに尖ってるところもあれば、一方は真っ平らになってるところもあって。

    昔はどっちかしか出せなかった。それは弱みでもあり、武器でもあったんだけど。

    いまは「かわいいね、子ども預かってやるよ」っていう自分も俺だし、「テメーぶっ殺してやるぞ、この野郎!」ってなるのも俺だし(笑) 実際、どっちもあるんですよ。

    空の弁当箱があればいい

    ぴあ

    『鬼弁〜強面パンクロッカーの弁当奮闘記〜』

    ――6年間、息子さんのお弁当をつくってきてよかったな、と思ったことは。

    きれいに食べてくれるだけで別に十分なんだよね。

    「ごちそうさま」って言われたら嬉しいけど、その言葉がなくても空の弁当箱があればいい。なんなら、残されても本当は嬉しいっていうか。

    お弁当をつくる機会自体、自分の人生のなかでそんなにあるわけじゃない。一生つくり続けるわけじゃないから。子育てってそうじゃないですか。

    親子は「待てる関係」

    『鬼弁』より

    息子手づくりの「大吉」おみくじ。「ライブでいろんなところへいって、いろんな人とあって、大変でしょうけど、みんなおうえんしています。がんばってください」と、たどたどしい文字で書かれている。

    ――本にまとめた後、息子さんから「6年間ありがとう」みたいな言葉ってありました?

    ないない。あっても気持ち悪いし。

    親子間ってそれがないからいいと思っていて。だから「親孝行したい時には〜」みたいな話になるわけで。

    そりゃお互い感謝し合えたらいいけど、そこをちょっと待てるのも親子の醍醐味だと思う。これがもしご近所の付き合いだったら、「お醤油借りたら何か返さなきゃ」って思うでしょ、普通。

    ――ご近所さんには30年後にお礼言わないですもんね。

    言わない。親子だからこそ、いずれわかればいいし、別にわからなくてもやるんだし。

    これやったらいくらになるとか、目に見えることばかり追い求める世知辛い世の中だけど、本当は親子は次の世代にまで「待てる関係」なのになって思う。

    「待てる」っていうのは、お前の息子ができた時にやってやればいいよって、その未来を信頼してるってことだから。

    西槇太一

    TOSHI-LOW

    〈TOSHI-LOW〉 トシロウ。1974年、茨城県水戸市生まれ。1995年にパンクバンドBRAHMANを結成。翌年ミニアルバム「Grope Our Way」をリリース。1999年にメジャーデビュー。2003年に女優りょうと結婚。2005年からアコースティックバンドOAU(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)を開始。9月4日に『帰り道』などを収めた新作アルバム『OAU』を出す。東日本大震災以降は、復興支援活動に心血を注ぐ。2児の父でもある。