
『笑ってはいけない』シリーズで爆笑をさらい、野性爆弾・くっきー!のプロデュースのもと番組の企画でR-1ぐらんぷり予選にも出るなど、俳優でありながら笑いの世界にも貪欲に挑んできた斎藤工。
企画・プロデュース・主演する最新映画『MANRIKI』でも、芸人・永野のアイディアを予測不能なブラックコメディーへと昇華させている。
そんな斎藤が語る「笑い」、そしてバラエティー番組への思いとは。
ジャンル分け不能な怪作

――『MANRIKI』はブラックコメディーであり、サイコホラーでもあり、ジャンル分け不能な怪作です。斎藤さん自身は「小顔矯正スプラッタ」とも評していましたが。
「小顔矯正スプラッタ」というのは、入り口のドアノブに過ぎません。その奥に何があるかっていうのは、見た方それぞれだと思うんです。
こういう映画って海外だといわゆるB級スプラッタ・ホラーになっちゃうと思うんですけど、今回はあえてアートチームでつくりました。
ただただエグい描写のゴアムービーというよりは、メイド・イン・ジャパンのカッコ良さを目指しています。特に撮影の荒井俊哉さんは、ファッション・フォトグラファーの巨匠。彼の画って美しくて新しいんです。
背伸びして海外のマネをするのではなく、国産でどうカッコ良く見せるか。そこに挑戦できたし、満足がいくものになったと思っています。
実家が金持ち映画?

――笑いの要素も散りばめられていますね。詳細なネタバレは避けますが、「実家が金持ち」というセリフが出てくるくだりは思わず吹き出しました。
ありがとうございます。「実家が金持ち映画」という括りでもいいかもしれないですね。
――『笑ってはいけない』への出演やR-1予選出場など、お笑いに対しても旺盛に取り組まれています。
R-1予選の出場前は本当に緊張しました。何てことを提案してしまったんだろうと。
バラエティーでも期待のハードルが上がるんですよ。「お前は何かやるだろう」というような。「ここで何か一言」と託されることもありますし…。
自分でそういう道を選んできたんですけど、恐ろしいことではありますね。
海外との温度差

――斎藤さんにとって「笑い」とは。
コメディアンとアクターって職業としては分かれてるんですけど、同期している部分もある気がしていて。
海外の映画祭に行くと、最大のリアクションって笑いなんですよね。
日本だといわゆる娯楽映画でもない限り、みなさん結構かまえて「笑っていいのかな?」という見方をしている部分がある。
海外だと笑いがひとつの基準になっていて、どれだけ笑いを確保できたかがそのまま映画の評価になったりすると思うんです。
だけど、撮影現場だけ面白くて、完成後に通して見るとめちゃくちゃスベってるみたいなことも結構ある。そのジャッジは難しいですね。
笑いと作為

――楽屋オチにならないように。
はい。監督した『blank13』っていう映画も後半はほぼエチュード (即興劇)で撮ったんですけど、いかに作為的な笑いを避けるか、ということを日々考えていました。
たとえば、新ドラマの役者さんを集めて番組をつくったりするじゃないですか。
司会の方は頑張って「笑い」ベースにしようとするんだけど、やっぱり「カッコイイ人・キレイな人」ベースになっちゃうんですよ。僕はそれがあまり好きじゃなくて。
ファンの人たちは嬉しいと思うんです。でも、一般の視聴者としては…。時には、これって誰得なのかな?と考えてしまうこともあります。
お茶の間目線を忘れない

――ある種の予定調和。
ひとつのフォーマットで成功したら、フランチャイズでチェーン展開するみたいな発想。役者さんが入れ替わっても変わらない。それってパーソナルじゃないですよね。
だからこそ、代わりのきかない何かを提示しなきゃ、そこに呼ばれた意味がないし、自分が見ていたとしてもチャンネル変えるなって思うんです。
スタジオに来ている人たちは興味を持って観覧に来ているし、スタッフさんたちもいいものをつくろうとして前のめりになっている。
でも、テレビって何かしながら見るメディアで、日常のなかでチャンネルを止めるかどうかはお茶の間にイニシアチブがある。その目線を忘れたらアウトだと思っています。

〈斎藤工〉 1981年8月22日生まれ。東京都出身。パリコレクション出演などモデルとしての活動を経て、2001年に映画『時の香り リメンバー・ミー』で俳優デビュー。映画・テレビ・舞台で幅広く活躍する一方、「齊藤工」名義で監督作も発表。映画『blank13』は上海国際映画祭アジア新人賞部門の最優秀監督賞をはじめ、各国の映画祭で8冠に輝いた。趣味は旅、合気道、サッカー、写真。