荻野目洋子『ダンシング・ヒーロー』のリバイバルや、DA PUMP『U.S.A.』のヒットはYouTubeが発火点になった。
所有からアクセスへ。CD売り上げが低迷し、SpotifyやApple Musicなどの定額制サービスが台頭する時代に、ヒットの形はどう変わるのか。
両曲をはじめライジングプロダクション所属アーティストの楽曲を集めたアルバム『Heartbeat』が発売されたタイミングで、ライジングの平哲夫社長にネット戦略やライブ市場の分析を聞いた。
ますますパッケージレスに
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DA PUMP / U.S.A.
――『ダンシング・ヒーロー』『U.S.A.』は YouTubeやSNSで人気に火がつきました。『U.S.A.』の再生数は2億回を突破しています。ネット戦略をどのように考えていますか。
新聞・ラジオ・テレビの広告費は減少傾向で、ネットが増えている。ウチも会社としてネット会員20万人を目指せ、と指示しているぐらいです。
今後は当然、ますますパッケージレスになっていくでしょう。5Gで高画質の動画を見られるようになれば、ブルーレイだっていらなくなっちゃうかもしれない。
ただ、アメリカで流行っているシステムが、すべて日本でも正しいとは限らない。燦然と輝いていたタワーレコードだって、アメリカではとっくに店舗がなくなっているわけですよね。
モノとして買いたいたい、手に取りたいと思えるパッケージをどう考えていくか。パッケージの中身はCDだろうがチップだろうが、何でもいいと思うんです。
サブスクは日本市場に見合わない

――サブスクリプションサービスについてはどう見ていますか。
日本市場の人口規模を考えてると、サブスクリプションじゃ見合わないんですよ。たとえば1回1円だとして、1000万人が聴いたって1000万円ですから。
レコード会社と我々で原盤の持ち合いをしているので、そこからさらに折半です。 YouTubeなんてさらに10分の1ぐらい。
よっぽどうまく広告を使わないと、売り上げにはなっていかない。
――プラットフォーマーの力は強まる一方です。
音楽配信にしても、外資に何割も持っていかれる。もうこの段階で日本は太刀打ちできないんですよ。
(複数のプラットフォーマーの間で)アーティスト側の収入を増やすような競争にならなきゃダメですよね。
「J-POP」じゃアメリカのモノマネ
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荻野目洋子/ダンシング・ヒーロー(Eat You Up) MV [New Dance Ver.] (Short Ver.)
――世界市場に向けて発信できるメリットもあるのでは。
日本の芸能ビジネス自体が、娯楽としてそこまでレベルが高いのかなと。テレビ、ドラマ、音楽も含めて。
「J-POP」なんて言っちゃった時点で、アメリカのモノマネだよって言ってるのと一緒なわけです。
古賀政男さんが韓国の要素を取り入れて演歌をつくり、服部良一さんはジャズを取り入れて歌謡曲をつくった。いろんなものを取り入れた歌謡の世界がありましたが、「J-POP」じゃ、完全にアメリカのモノマネだと。ポップスっていうのはアメリカの言葉ですから。
日本なら日本歌謡、中国なら中国歌謡が流行ればいいわけで、僕は日本の文化が世界にいくなんて全然思ってないんですよ。
日本が世界に誇ると言われるアニメでも、『アナと雪の女王』のようにドーンとインパクトのあるメロディー、楽曲は生まれていない。その辺に負けない曲をつくれないと、「世界に誇る」という評価にはならないと思います。
ドームツアーをできるのは一握り

――CDは売れない。サブスクやストリーミング頼みでも立ち行かない。となるとライブ市場はいかがでしょうか。
ライブに来てよ!って言っても、歌う方に限界がありますから。1組あたり、せいぜい40本ぐらいしかできない。
定期的にドームツアーをして、客席を埋められるアーティストが日本に何組いるか…。ジャニーズを入れても10組余りしかいないんじゃないですか?
いま「全国ツアーができる」と言ったら、大体ホールツアーです。県民会館とか市民会館とか。これにしたって、1年とか1年半おきに定期的にツアーできるのは、いいところ数十組ぐらいでしょう。
――意外に少ないですね…。
だから、いくら大きい入れ物つくったって、タレントがいないわけです。
興業売り上げは上がっていますが、消費増税によるチケット単価の上昇分もありますからね。
頼みの物販も…

――ライブで稼ぐにしてもそこまで楽観できない?
儲けようと思っている人たちは物販をやりますよね。最近は中国よりもバングラデシュとか、とにかく安いところでつくる。
ドームクラスの会場を使う場合、会場費に加えて物販の売り上げの2〜3割を持っていかれることもありますから。
――そんなに!
だからドームツアーといったって、ほとんど儲からないと思いますよ。
観客の「帰り方」に注目

――ライブにはよく足を運ばれるのでしょうか。
東京公演は全部行ってます。昔はゲネプロも全部見てたんですけど、最近は本番だけで。
客席でお客さんの反応を見ます。自分がダレるなと思った時にお客さんはどんな風に見ているか。ノリがいいな、と思う時はどうか。
終わった後もすぐには楽屋に行きません。お客さんの帰り方を見ているんです。
ライブがよかった時って、やっぱり余韻に浸りたいから、お客さんもゆっくり帰る。よくなかった時は「電車も混むし、早く帰ろう」と思うでしょう。
僕はその様子を見てから楽屋に行くんです。自分がいい、悪いと思った部分と、そういうお客さんの反応が合ってるかどうか確認して、タレントに教えるようにしていますね。
青山から原宿へ

――2015年、原宿・竹下通りの入り口に常設劇場「原宿駅前ステージ」をオープンし、ライジング本社も同じビルに移転しました。
もともとは青山だったんです。社員がオフィスにいるような商売じゃないので、昼間ガラーンとしちゃうと青山通りって意外と寂しいんですよ。
もうちょっとにぎやかなところに移りたいな、と思っている時にここが見つかった。
ここへ来てから『ダンシングヒーロー』や『U.S.A.』がヒットし、三浦大知も『ミュージックステーション』に出て一気に全国区になった。大ヒットなしで全国区になったのは、ウチのタレントでは三浦大知だけですよ。
流行の「風」を感じて
天皇陛下在位30年記念式典 式典では沖縄県出身の歌手・三浦大知さんが、両陛下の作られた歌を独唱しました。 沖縄県のハンセン病療養所の人たちとの交流を通じて、天皇陛下が作詞され、皇后さまが作曲された歌です。 https://t.co/KKEQlkMPSs #nhhk_video
――天皇陛下在位30年記念式典での三浦さんの歌唱は、大きな話題を呼びました。
僕の努力でもなんでもない。ここに来てからツキの方が多いんです。
これまでヒット曲をつくってきて、ツキのおかげだと思ったことはなかった。夜中までレコーディングをやってきたし、サラリーマンディレクターには言いづらいようなことも作家にお願いして、直してもらったりしましたから。
曲がヒットして「ついてますね」なんて言われても、ああそう、というぐらいのものでした。
でも『ダンシング・ヒーロー』のリバイバルなんて、ツキ以外の何物でもない。やっぱりここの「風」がいいんでしょうね。
人気商売、流行商売ですから、会社もエネルギーのあるところにあった方がいい。タレントは来づらいでしょうけど(笑)

〈平哲夫〉 ライジングプロ・ホールディングス代表取締役
1946年8月24日生まれ。福島県本宮市出身。1985年、荻野目洋子のマネジメントのためライジングプロダクションを設立。「Johnny Taira」名義でプロデューサーとしても活躍。安室奈美恵、SPEED、MAX、DA PUMP、三浦大知ら、数々のアーティストを世に送り出した。阪神・淡路大震災、東日本大震災などでの支援活動にも尽力。2016年の熊本地震後には所属アーティスト14組56人で復興支援コンサートを開催、売り上げ全額を寄付した。