弘兼憲史が語る、サザンとエロスと島耕作

    40周年をセレブレーション

    サザンオールスターズの新曲『闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて』が、6月15日に配信リリースされた。

    3年ぶりとなる新曲は、企業社会の明暗を鋭くえぐるメッセージソング。

    ビジネス漫画『課長 島耕作』の生みの親で、松下電器産業(現パナソニック)での勤務経験も持つ弘兼憲史さんに、新曲を読み解いてもらった。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    弘兼憲史

    世間がサザンを見誤っていた

    ――サザンは今年でデビュー40周年を迎えます。

    僕の画業は42周年で『島耕作』が35周年。サザンとは、ほぼ同期という感じです。僕が駆け出しのころに『勝手にシンドバッド』(1978年)で出てきて、最初はコミックバンド扱いで軽く見られてたんですよ。

    でもそのうち『いとしのエリー』(1979年)とかで、やっぱりすごいな、というのがわかってきて。当初は世間が完全に見誤ってましたよね。

    サザンは昔からすごく好きです。僕はいわゆるJ-POPみたいなリズム中心の曲よりは、ちょっと哀感を込めたメロディがある歌謡曲が好みで。

    サザンの曲ってポップ調ではありますけど、歌謡曲的なテイストが入ってますよね。『エロティカ・セブン EROTICA SEVEN』(1993年)とか『東京』(桑田佳祐ソロ、2002年)とか、よくカラオケで歌いますよ。

    ビクターエンタテインメント

    サザンオールスターズ

    メッセージソングにビックリ

    ――新曲の『闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて』はどのように聴きましたか。

    現代の企業社会を痛烈に批判したメッセージソングなので、ちょっとビックリしました。

    《大量の株が売られていった 何故だろう?》とか、完全にインサイダー取引のことでしょう。《弊社を「ブラック」とメディアが言った》なんて言葉も入ってますし。

    映画『空飛ぶタイヤ』の主題歌ということで、映画のストーリーにも沿っている。巨大企業に対抗する中小企業。頑張るぞ、負けないぞ、というニュアンスを感じます。

    《自分のために人を蹴落として 成り上がる事が人生さ》という歌詞も、競争社会に対する皮肉ですよね。

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    松竹チャンネル/SHOCHIKUch / Via youtu.be

    映画『空飛ぶタイヤ』スペシャルムービートレーラー(主題歌 サザンオールスターズ「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」ver.)

    島耕作、2つのルール

    ――島耕作は課長から会長まで出世しますが、決して人を蹴落としたりはしません。

    まったくしてないですね。人を蹴落としてのし上がったら、一方で蹴落とされる人が出るわけですから。

    僕がよく言うのは、人と比較するなっていうこと。ライバルをつくるんだったら自分自身にする。誰かを目標にせず、自分自身のなかに目標をつくるんです。

    ゴルフに行って、1ラウンド90で回ると決めたとする。仮に4人中最下位だとしても、88で回ったら目標達成だから「勝ち」と考える。

    逆にほかの連中がみんな悪くて、95で回ったけど1位だったとしますね。この場合、たとえ1番だとしても、自分自身のなかでは「負け」なんですよ。

    島耕作に関しては2つルールを決めています。

    「人を蹴落として勝つ生き方はしない」

    「自分から女性を口説くことはしない」

    この2点は貫いてますね。

    講談社 / Via amzn.asia

    『会長 島耕作』第1巻

    島耕作が口説かないワケ

    ――「蹴落とさない」は納得なのですが、島耕作って相当なプレイボーイじゃないですか?

    最初はオフィスラブをテーマに描いていたので、入れ替わり立ち替わり女性が登場していたのですが、ビジネスの方に軸足を移していくに連れ、徐々に変わってきました。

    ただ、男性向けの漫画ですから、1人の女性しか愛さないというストーリーだと、変化がなくてエンターテインメントとして成立しにくい。

    いろんな女性がいっぱい現れて恋愛する形にするのなら、浮気ではなくて自由恋愛できる立場にしたい。そこで、島耕作を離婚させました。

    離婚してフリーになっても、自分から口説いて、また次の女性に…となるとセクハラになる可能性がある。だから、あくまでも女性の方からやってくるんですね。

    来る者は拒まず、去る者は追わず。すごくモテているように見えちゃうんですけど、実はそういう「配慮」の結果なんですよ。

    講談社 / Via amzn.asia

    『課長 島耕作』第6巻

    魔力を持ったオンナ達

    ――島耕作のモテっぷりにそんな秘密があったとは! 《魔力を持ったオンナ達》という歌詞のところでは、馬島典子(銀座のスナックのママ、耕作の上司の愛人)や大町久美子(耕作の恋人、やがて妻に)が思い浮かびました。

    典子は悪い人じゃないんですよ。多情仏心です。いまもまだ中国にいますけど。

    島耕作に登場する女性はみんなキャリア的というか、できる女性が多い。「駅のホームの陰で泣いてます」みたいな、演歌っぽい女性はまず出てきません。

    なかでも久美子は、島耕作も翻弄される強い女。ほかの女性キャラクターはなんとなくモデルがいるんですけど、久美子だけはモデルなしでつくりあげました。

    絶対結婚なんかしないと思ってたんですけど、島耕作も社長・会長になるといろんな女性と接するのも現実的ではない。それなら、結婚させた方がいいかなと。

    だからいまは、島耕作の女性関係は描けないんです。不倫になっちゃいますからね。そういう話は『黄昏流星群』の方で読んでください(笑)

    講談社 / Via amzn.asia

    『島耕作』30周年スペシャルエディション 大町久美子セレクション 永遠の恋人

    セレブレーション◯◯◯◯

    ――久美子といえば、耕作が取締役に昇進した際の「じゃ セレブレーションファックしよか」というセリフが、『アメトーーク!』の島耕作芸人でも取り上げられ、話題になりました。

    『アメトーーク!』は仕事場でみんなで見ていて大爆笑でした。

    「セレブレーションファック」はまあ、お祝いのエッチですね。でも「お祝いエッチ」だとなんだかちょっと物足りない。それで「ファック」とあえて下品な言葉を入れてね。

    ©︎弘兼憲史 / 講談社

    『取締役 島耕作』第1巻より

    東京タワーの名場面

    ――久美子の誕生日に、ロウソクに見立てた東京タワーのライトを吹き消す場面は有名ですね。

    東京タワーの近くに住んでいる友達のところに遊びに行って飲んでいると、12時ぐらいに「見てろ、いま吹き消すから」って言われて。

    すごいイリュージョンだと思ったけど、よく考えたら、そこに住んでるんだから毎日12時に消えるって知ってるわけですよね。

    当時は管理していたおじさんが手動で消してたみたいで、トイレに行ってたりしたら時々遅れるらしいんですよ。

    「そういう時はどうするんだ?」って聞いたら、「待て待て、もう少しで息が届くから」と言えばいいんだと。で、ちょうどそういう場面を描いたんです。

    漫画家っていうのは、ちょっとネタがあったらすぐ「これ使えるな」っていう風に考えるんで。

    (※東京タワーは2008年以降、自動で消灯する仕組みに。現在はリニューアル工事中のため、0時で消灯せず、明け方までライトアップしている)

    ©︎弘兼憲史 / 講談社

    『部長 島耕作』第1巻より

    ヘアまで描き込む理由

    ――作品におけるエロスについて、どのように考えていますか。

    エロスは大切です。でも、エロを描くためのエロじゃない。必然的にシーンのなかに出てくるものでないと。

    ベッドインして、象徴的な絵を入れて、終わった後のシーンを入れて。直接的な場面を描かなくても、エロスを感じるような言葉や雰囲気は盛り込んでいますね。

    ――女性の体型など、描き方にリアリティーがありますね。

    『黄昏流星群』でも『島耕作』でも、腰のあたりや二の腕のたるみ含めて、リアルに描くようにしています。写真を見て研究したりして。

    解禁される前から、ヘアも描いてましたね。あまりにリアルだとマズイけど、影のようにシャシャシャと直線で描く分にはいいだろうと。

    何もないと、マネキンみたいでリアル感がないんですよ。もし何か言われたら「これは影だと言い張ろう」って編集者と話してました。

    ――『エロティカ・セブン』や『マンピーのG★SPOT』(1995年)をはじめ、サザンにも現代の春歌と呼べる作品が多いです。

    知り合いの国会議員がカラオケでよく「マイ フェラ レディ」(1998年)を歌うんですが、めっちゃうまいんですよ。

    桑田さん独特の外国語っぽい発音で、最初聴くと何を言ってるのかよくわからないんだけど、歌詞を読んで驚くっていう(笑)

    僕も覚えて歌いたいんだけど、難しくてねえ。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    「何もないと、マネキンみたいでリアル感がないんですよ」

    漫画の道を決断した「勝負時」

    ――『闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて』に《一か八かの勝負時》という歌詞がありますが、弘兼さんにとっての「勝負時」はいつでしたか。

    僕の場合は会社員時代、漫画家になるかどうか考えていた時ですね。

    「ニューヨークに赴任しないか」という打診があって、ちょっと迷ったんですけど、ここで辞めなきゃ機会を失うと思った。あれは勝負でしたが、結果的には正解でした。

    周囲はみんな「辞めた方がいい」「絶対サラリーマンより漫画家が向いてる」と言ってくれて、すんなり会社を辞めて。逆にもっと引き止めてくれないかな、と思ったぐらい(笑)

    人生には必ず「いまが勝負」という時があります。言い方を変えると、これはチャンス。この時を逃したら、なかなか次のチャンスは巡ってこない。

    「一か八かの勝負時」にチャンスをうまくキャッチできる人間が、のし上がっていくんでしょうね。

    講談社 / Via amzn.asia

    『課長 島耕作 New York,New York!』

    「戦場」に必要な武器は…

    ――サビには《戦場で夢を見たかい》とあります。ビジネスという「戦場」で生き抜くために必要な武器は。

    やっぱり一番の武器は「信頼」です。それから、お互いの利益を考えなきゃダメ。ウィン・ウィンでないと、ビジネスはうまくいきませんから。

    もうひとつ「不器用」も、やり方次第では武器になります。

    本当に不器用じゃダメですけど、不器用に見せて相手を油断させる。意外にデキることがわかると「そんなに不器用じゃないじゃん」と評価が上がる。先に期待値を下げておくんです。

    不器用さが誠実さを醸し出す面もある。あまりに才気煥発でバリバリやる人は嫌味に受け止められて、親しくなってもらえないかもしれません。

    会社の部下が一生懸命調べて「こういうものがあります」と提案してきたとします。その内容について百も承知だったとしても、「そうなの? 知らなかった!」と受けた方が、部下のモチベーションも上がりますよね。

    あえて知らないふりをする。バカなヤツだと思わせろ、ということですね。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    「やっぱり一番の武器は信頼です」

    〈ひろかね・けんし〉 1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部卒。松下電器産業(現パナソニック)を退職後、1974年に漫画家デビュー。主な作品に『課長 島耕作』をはじめとする『島耕作』シリーズ、『ハロー張りネズミ』『加治隆介の議』『黄昏流星群』『ラストニュース』など。講談社漫画賞、小学館漫画賞、文化庁メディア芸術祭優秀賞など受賞歴多数。


    デビュー40周年を迎えるサザンオールスターズの3年ぶりの新曲「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」は、すべての働く者たちへの賛歌。BuzzFeedでは、各界の一線で活躍する著名人に、サザンとその新曲を通して「闘う」仕事論を聞くインタビュー連載を配信している。

    ・有働由美子が語る「一か八かの勝負時」 サザンの新曲に思い重ね
    ・池井戸潤が語る、サザンとヒットとAmazonレビュー

    BuzzFeed JapanNews