Posted on 2017年9月29日

    初音ミクからアンドロイドへ 渋谷慶一郎が新作オペラで描く「不気味な美」

    豪アデレードでいよいよ公開

    アンドロイドが歌い、演じるーー。音楽家の渋谷慶一郎が手がける新作オペラ「Scary Beauty(スケアリー・ビューティ)」が、9月30日と10月1日の2日間、オーストラリアのアデレードで世界初演された。

    5年前にもボーカロイド・初音ミクのオペラで注目を集めた渋谷が、「人間ならざる者」にこだわり続ける理由とは。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    オペラに主演するアンドロイドの「スケルトン」=東京・お台場の日本科学未来館

    人間らしさと不自然さの同居

    9月21日、東京・お台場の日本科学未来館で「Scary Beauty」の公開制作が行われた。

    ステージに姿を現したのは、ロボット研究者の石黒浩・大阪大教授が開発したアンドロイド「スケルトン」だ。石黒教授はあの「マツコロイド」の開発者としても知られる。

    渋谷の楽曲に合わせて歌うスケルトンの声は、どこか物悲しく、男性のようにも女性のようにも響く。

    渋谷慶一郎さん提供 / Via video-player.buzzfeed.com

    オーストラリアで上演された「Scary Beauty」の模様

    ソフトウェアで声を生成したという渋谷は「まず、両性具有であること。それから子どものような声を目指しました。アンドロイドも子どもも、未完成なものだから」と明かす。

    スケルトンの動きや表情は、オーケストラの演奏に反応してリアルタイムで変わる。この日は録音を使ったが、本番はアンドロイドと人間による異色のアンサンブルが繰り広げられることになる。

    ゆらゆらと体を揺らしたり、小首を傾げてみたり。人間らしさを感じさせる仕草を見せたかと思えば、突如として不自然な挙動に出る。その落差に戸惑う。

    共同開発者で東大大学院の池上高志教授は「『人間性』の背後にある『生命性』に迫りたい。ゾウリムシやネズミの根本にある生物としてのダイナミズムを、人間もまた持っているはずです」と語る。

    YouTubeでこの動画を見る

    「Scary Beauty」公式サイトより

    目や口を動かし、表情を変えるスケルトン

    ボーカロイドからアンドロイドへ

    渋谷は2012年、初音ミクを主役にすえたオペラ「THE END」を上演。翌年にはパリ・シャトレ座での公演も成功させた。ボーカロイドからアンドロイドへ。共通するのは「生命」に対する独特の眼差しだ。

    「人間以外の存在に人間が感動したり、喜んだりする。それは何なのかっていうのが、ずっとテーマとしてありますね」と渋谷は話す。

    ロボットを人間に近づけていくと、「不気味の谷」と呼ばれる現象に直面する。人間に似せたロボットは、いかにも機械然としたロボットよりも奇異な印象を与える、という説だ。

    アンドロイドの研究は、この「不気味の谷」を乗り越えるための努力を重ねてきた。

    Ryosuke Kamba / BuzzFeed

    スケルトンの後頭部=東京・お台場の日本科学未来館

    だが今回、渋谷はあえて「不気味さ」に焦点を当てたという。作品名の「Scary Beauty」も、そのものズバリ「不気味な美しさ」を意味する。

    「ScaryとBeautyって、本来なら結びつかない言葉ですよね。日本で言えば『キモカワ』みたいな感じなのかな」

    「テクノロジーを使ったアートってたくさんあるけど、キレイでカッコ良くて整っていて、というものが多い」

    「でも、ピカソであれ、フランシス・ベーコンであれ、気持ち悪い部分、怖い部分があって。不気味だけど美しい、感動するっていうのが、同居してないとダメなんじゃないか」

    渋谷慶一郎さん提供

    オーストラリアでステージに立った渋谷慶一郎とスケルトン

    「ディストピアじゃない」

    物語の設定は、人類が滅びた後の地上で、唯一残されたアンドロイドが歌い続ける、というもの。

    現実世界でも、人工知能が人間を凌駕する「シンギュラリティ(技術的特異点)」に対する脅威論は根強い。

    渋谷は言う。

    「シンギュラリティはいずれ来る。それを恐れるのは人間中心主義だからですよ」

    「アンドロイドが人間に取って代わり、人間にわからない言葉で楽しそうに歌ったり、しゃべったりする。それって僕にとってはディストピアでも終末でもなくて、ユートピア。全然それでいいんじゃない?って思うんです」

    「あっけにとられていた観客が…」

    オーストラリア公演後の取材に対し、渋谷は「大成功です。観客は最初あっけにとられていて、全部終わったらブラボーという感じでした。本当に見たことがないものになっていたから」とコメントした。

    「Scary Beauty」は今後、巡回を予定しているという。

    「今回形にしてみて、やれることがもっと見えてきた。曲も増やしてアップデートしていきたいです」

    ATAK提供

    渋谷慶一郎

    (しぶや・けいいちろう) 1973年生まれ。音楽家。東京芸術大学作曲科卒業。ドラマ「SPEC」をはじめ、映画やCMの音楽も多数作曲。音楽レーベルATAKを設立し、国内外へ向けて電子音楽作品を発表している。

    BuzzFeed JapanNews

    更新

    2017/10/02 12:50

    オーストラリア公演の動画や、上演後の渋谷さんのコメントを追加しました。

    Contact Ryosuke Kamba at ryosuke.kamba@buzzfeed.com.

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