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「オネエ売り」はしたくない 元男子・西原さつきの目指す道

「一生バラエティー番組に出られなくてもいい」

男性から女性へと性別を変えた、タレントの西原さつきさん。自身の体験を踏まえ、女性的な所作や発声法などを教える「乙女塾」を運営している。過剰に誇張したオネエキャラばかりが求められるテレビ界の風潮に異を唱え、「オネエ売りを強制されるなら、バラエティー番組に出られなくてもいい」とまで言い切る。

さつきさんが自分の性別にぼんやりとした違和感を抱くようになったのは、幼稚園生の頃。水泳の着替えの時、男女の体つきの違いに気がついたのがきっかけだった。

小学校では男女でランドセルの色が分かれる。違和感はさらに強まったが、それがなぜなのかはよくわかっていなかった。

中学生の時にドラマ「3年B組金八先生」で、上戸彩が性同一性障害の役を演じているのに衝撃を受け、「自分はこれだ」と確信する。

「背が高いこともあって、身長が伸びるのが嫌でした。普通の男の子だったら、筋肉がついてたくましくなっていくのって嬉しいと思うんですけど、ストレスでしかなかった」

男らしくって何?

髪型や服装も中性的なものを好むようになり、高校生で女性ホルモンを打ち始めた。母親は我が子のそんな変化を見逃さなかった。「男らしくしなさい!」と叱られ、16歳で家を飛び出した。

「男らしくってどういうこと? どうしたら男らしいの? 親も焦っていたのだと思いますが、一番言われたくないセリフを言われて、キレてしまったんです」

行き着いた先はLGBTのコミュニティー。性的少数者同士で集まり、ルームシェア生活を送りながら高校を卒業した。

ショートボブに薄化粧、パーカー、デニム。大学では「ボーイッシュな女の子」のようなファッションで通した。

「男女どちらでもおかしくない格好。最悪、言い訳ができるような感じにしていました」

履歴書は「男」にマル

だが、そんな「言い訳」の通用しない壁にぶつかることになる。就職活動だ。

履歴書には男性の名前を書き、性別も「男」にマルをした。でも写真はどう見ても女性。選考する企業がどう受け取るかは賭けだった。

「当時は『トランスジェンダーは水商売か性風俗しかない』という偏見がありました。そういう生き方自体は否定しませんが、選択肢がないことが嫌で。『昼職』にすごくこだわっていました」

最終的にベンチャー系の広告代理店から採用された。面接でも戸籍や体のことは聞かれず、拍子抜けするほどあっさりと内定が決まった。

トイレは女性用で、健康診断も女性社員と一緒。「普通のOL」としての生活が始まった。

「かなり先進的な企業で、いまでも本当に感謝しています。初めて人間扱いされた、という感じ。セクシュアリティーを売り物にしなくても、人間性で勝負できるんだ、と。人生観が変わりましたね」

「完パス」「埋没」手に入れたのに…

戸籍名を変更し、2013年にはタイで性別適合手術も受けた。手術が終わって麻酔から覚めた瞬間のことは、いまでも忘れられない。

「やっと目が覚めた、と思いました。それまでの悪夢が終わったんだと」

「改造終わってるの?」「カスタマイズいくらかかった?」などと、心ない言葉を浴びせられることもある。

「私としては、体を変化させるというよりは『元に戻す』という発想。再生する、という感覚なんです」

トランスジェンダーや異性装者の人たちが、周囲からまったく気づかれないことを「完パス(完全にパスすること)」といい、自分の望む性別で完全に社会に溶け込むことを「埋没」と呼ぶ。

ところが、身も心も女性になったさつきさんは、せっかく得た「埋没」生活を自ら手放す道を選ぶ。

世界大会で入賞

タイで開催されているトランスジェンダーのコンテスト「ミス・インターナショナル・クイーン」に出場することを決めたのだ。

友人からは「溶け込んで生きているのに、なぜわざわざ元男性であることをアピールするの? 意味がわからない」と反対された。

それでも思い切った決断をしたのには、さつきさんなりの理由があった。

「その頃、恋愛ですごく悩んでいました。本当に好きな人と付き合って結婚するとして、『子どもを産めない』ということを、いつかは言わなきゃいけない。そこはウソをつけないので」

「でも、じゃあどのタイミングで、どんな顔して『私、元男です』って言えばいいんだろう。デートに誘われた時? 食事に行った時?それとももっと関係を深めた後?」

「そんなことを考えているうちに、とにかく先に言おう、先に言おうという思いが強くなっていって…それで世界大会に出ちゃったんです」

「完パス」「埋没」ゆえの葛藤を吹っ切るための、壮大なカミングアウト。結局コンテストには計2回出場し、2013年に4位入賞、2015年には特別賞受賞と、好成績を収めることができた。

コミカルじゃなくてもいいはず

賞以上の収穫もあった。各国代表は競争相手ではあるが、共同生活を送るうちに同志的な結束も生まれる。ライバルたちから刺激を受けたという。

「日本のトランスジェンダーの文化って、元男であることをわざと強調して、笑いやネタにするようなところがある。でも、海外は全然違って、いい意味で『女性より女性らしい』人たちがたくさんいる」

「『女性より女性らしい』っていう言葉、昔は嫌だったんです。女と思われてないんだって傷ついてました。でも大会に出て、その言葉がスッと入ってくるようになった。女の子より女の子らしいトランスジェンダーって悪くないなって」

テレビ番組で「オネエ系」タレントを見ない日はない。さつきさん自身、テレビ関係者から「地上波バラエティーだと、トランスジェンダーはオネエしか出られない」と告げられた経験がある。

さつきさんは「そういう方々がつくってくれた礎があるから、いまの私たちがあるので、否定するつもりは全然ない」と断ったうえで、こう続ける。

「オネエというのはタレントさんの『特技』であり、あえて元男性の部分を強調して笑いをとるエンターテインメント。メディアが押したがるのは、それが一番面白いからですよね。キャッチーだし、短時間で伝わりやすいと」

「でも、一般人にはそうじゃない人の方が多いし、みんながみんなコミカルに生きたいわけじゃない。オネエを演じている子たちも、家に帰ったら普通の女子。好きな人の前でオネエ言葉でしゃべっている子、見たことないですから」

「オネエじゃなければ出演できないというなら、私は一生バラエティー番組に出られなくてもいい。コミカル以外の生き方、ロールモデルを提案したいなって思います」

メイクや仕草・発声を指導

その提案のひとつが、「乙女塾」だ。女性になりたい人たち向けに、昨年6月に開講。効果的なメイクの仕方や女性的な仕草、発声法などを教えている。

男性と女性では顔の骨格も異なる。女性のメイクをそのままマネしても、女性らしい顔つきに近づけるのは難しいのだそうだ。

「普通の女の子を際立たせるメイク法はいっぱい世に出ているけれど、男性として生まれたものを女性に変えるものはない。ある意味、特殊メイクにも近い感覚です」

所作の指導も具体的だ。

「男性は体の中心軸に対して、関節が全部外側に向くんですね。足を広げたりとか。それに対して女性は全部内側に入る。それから物をとる時にも、女の子は手をクロスさせるんです」

「そんな風に無意識レベルで女性が行なっていることを、一度理論に落とし込んで、メソッド化しています」

性別・年齢問わず乙女気分を

10〜20代の若い受講者には親を伴って来る人もいる。母親に「よろしくお願いします」と頭を下げられ、時代の変化を感じるとともに、教える側の責任も実感したという。

一方で、40代以上の世代も少なくない。「性同一性障害」という言葉が広く知られる前に青春時代を送り、就職して家庭を築いてから自分もそうだと認識した人たちだ。

「本当は女性になりたかったのに、社会が許さなかった」。そう告白されたこともある。

「子どもが独立したから来たという人もいれば、離婚する覚悟で来たという人もいる。鬼気迫るものがあります。そういう方々をきちんと受け入れられるように、組織を整えてきたいですね」

「なかには、女性だけど受講したいというニーズもあります。生まれた性別や見た目、年齢に関係なく、乙女な気分を楽しめるスクールにしていけたら」

(にしはら・さつき) 1986年、愛知県生まれ。タレント・モデル、「乙女塾」代表講師。2015年のミス・インターナショナル・クイーンで特別賞の「ミス・フォトジェニック賞」を受賞。ニックネームは「さつきぽん」。


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