妻に先立たれた夫と、母を亡くした娘。容易に消えることのない寂しさと向き合いながら、父娘は一歩一歩成長していく。
重松清原作の小説を山田孝之の主演で映画化した『ステップ』(飯塚健監督)が、7月17日(金)に公開される。
親子を見守る保育士役を演じた伊藤沙莉が、「悲しみとの付き合い方」を語った。
自分の一部にするしかない
――消えることのない「悲しみ」「寂しさ」と付き合っていくことが、作品のテーマのひとつになっていると思います。伊藤さん自身はこれまで、どんな風に「悲しみ」と向き合ってきましたか。
私は付き合うというより、どっちかというと逃げちゃう人間です。なるべく傷つきたくないって思っちゃうし。
そういう風に生きてはきちゃいましたけど、やっぱり自分の一部にするしかないっていうか。
これが起きなければ…って考えるよりは、起きたからこそ違う視点でものが見られるようになったと考える。マイナスの中にあるプラスを見つけ出していかなきゃな、とは感じていますね。
傷つくことで見えるもの
――「傷つきたくない」という割には、結構頻繁にエゴサーチをされているとも聞きましたが…。
傷ついてた時期もありました。今はちょっと笑えますけど。
人間としてはあんまり傷つきたくないんですけど、お仕事に関してはその傷がつくことでひとつ成長する時もある。
目を背けたくなる言葉が、意外と自分の弱点を突いてたりして。弱点を知り、向き合っていくことで自分もステップアップしていける。
だからお仕事に関しては「あえて傷つきにいく」っていうのは、よくやりますね。
名前と「嫌い」で検索した過去
――わざと自分の名前と「嫌い」とかのワードで検索するのも、その一環ですか。
なんで嫌いなのか知りたくて。でも最近は、シンプルに名前でしかやらないです。なんかもう、「わざわざ何やってるんだろう」と思ってきちゃって(笑)
いいことも悪いことももらうけど、「たまたま見えちゃった」ぐらいがちょうどいいかなと思って。わざわざ自分からは見に行かないようにしてます。
――凹んだり、傷ついたりはお仕事上のことが多いですか。
そうですね。「やっぱり向いてない」って、今まで何回思ったんだろう。
だいたい一個うまくいかないと、「やめればいいんだ、こんなの。クソみたいな芝居して!」みたいな感じで、自分に対して言っちゃいますね。
松岡茉優に呼び出されて…
――親友の松岡茉優さんが『万引き家族』の安藤サクラさんのお芝居に衝撃を受けて、伊藤さんを呼び出して「もしかして私この仕事向いてないかもしれません、一緒にやめませんか?」と言ってきたというのは本当ですか。
言われました。なんで誘ってきたんだろう?と思って(笑)
――地味にひどい(笑)でも、親友同士だからこその距離感が伝わってくるエピソードです。
彼女は人から受けるものでそういう風に感じた。誰かを認めることができるのは素敵だなって思いますし。
ただ、私の場合は自分に対する嫌悪感から「やめよう」ってなりますね。
試写では誰とも話したくない
――自己評価がシビアですね。
はい。だから映画の初号試写の時とかも、本当は誰ともしゃべりたくない。
見始める前は久々にスタッフさんとかに会えて、「うわー久しぶり!」ってなるんですよ。
でもいざ始まると「うわ、見てられない」と思って、終わった時には「誰も話しかけないでください」っていう感じになっちゃいますね。
でも結局はそれもちょっとした逃げで、誰よりも自分で自分を悪く言うことで、これ以上傷つかないようにしているっていうのは多分どっかにあると思います。
それでも、今夜はハンバーグ
――ハードルを低くしておけば、傷つかないと。
たとえば「ヘタクソ」って言われたとしても、「はい、もうそれ私が先に気づいてました〜!」って思うし、そういうので保っている部分はありますね。
――肝っ玉系のキャラクターを演じられていることも多いので、ちょっと意外でした。傷ついてしまった時は、どうやってメンタルを立て直すのですか。
私、一定の感情を持続させるのが、ちょっと難しいんです。
「あー、悲しい。もうやってられない。絶対に無理!」と思っても、すぐに「そういえば、夜ご飯ハンバーグだってさ」みたいな感じになれる。
どっちかっていうと、切り替えは早い方。同じことで、グダグダ悩んだりはしません。
ハンバーグでも何でもいい。好きな物が目の前に現れたら、「イエーイ!」ってなっちゃいますね。
〈伊藤沙莉〉 1994年5月4日生まれ、千葉県出身。2003年に『14ヶ月~妻が子供に還っていく~』で俳優デビュー。映画『全員、片想い』『獣道』、ドラマ『ひよっこ』『獣になれない私たち』『これは経費で落ちません!』などに出演。『榎田貿易堂』『寝ても覚めても』などでTAMA映画賞 最優秀新進女優賞受賞、ヨコハマ映画祭 助演女優賞を受賞。アニメ『映像研には手を出すな!』での声の演技も注目を集めている。