
「あなたが転んでしまったことに関心はない、そこから立ち上がることに関心がある」
2人の男女の30年にわたる愛の軌跡を「3月」だけに焦点を当てて描いた映画『弥生、三月 -君を愛した30年-』に、波瑠演じる弥生がこう語るシーンがある。
弥生の運命の人、山田太郎を演じた成田凌が考える「許す」ことの意味。そして成田が最近、「俺は許さない」と伝えた人物とは。
「転んでしまったことに関心はない」

――国語教師である弥生が授業中に紹介する「あなたが転んでしまったことに関心はない〜」という格言が胸に残りました。現実には、転んだ人に二度と立ち上がれなくなるほど石を投げつけるような風潮があると思います。
意志がないのに正義感だけがある。そういう感じがあるなと思って。別の言い方をすると、頑張ってる人を標的に、頑張ってない人がグチグチ言ってるというか。
無駄な正義感を持っている人ほど何もしてない。ネットがありますからね。簡単に悪口も書けるので。
別にその人も、そこまで本気で言ってるわけじゃないんだけど――っていうこともあると思います。それをメディアが取り上げる。
もちろん好きとか嫌いを言うのは自由なので、言ってもらって構わないですけどね。
「評論家」にはなりたくない

――テレビのコメンテーターとかが「許せませんね!」と憤っているのを見ると、「あなた、一度でも許したことあるんですか?」と思ってしまいます。最初から「許す」気がまったくない人たちが増えてくると、つくり手としてしんどい部分もあるのでは。
しんどいですし、やっぱり評論家になっちゃうんですよね。それは学生の時からすごく思ってます。
専門学生の時とか、他愛のない未来の話もするんです。18歳、20歳ぐらいの時、「俺たち、『評論家』になるのはやめよう」って約束したことはあります。
どんな人でも、探せば悪口なんて簡単に言える。褒めることができる人って、余裕があって優しい人ですよね。
今のはメディアとかの話ですけど、身近な友達関係でいうと、「許す人」と「許さない人」のバランスも大事だと、僕は思っていて。
一生の付き合いだからこそ
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映画『弥生、三月 -君を愛した30年-』予告
――というと?
ちゃんと「許さない人」っていうのがいないと、その人も反省を生かせないと思うんです。そんな人、僕はいます。
――成田さんを叱ってくれる人、ということですか。
いえ、「僕が」許さない人。友達です。
心の奥底では許してるんですけど、これからも一生付きあっていくので。周りの人たちは遊んだり、仲良くしたりしてるけど、「俺は許さないよ」っていうことを伝えてます。
信頼ありきの関係

――いったい何をやらかしてしまったんだろう(笑)
単純に味方になろうとした時にウソをついたりしたから。守ってくれようとしている人を騙しちゃいけないよなって。
――いつの話ですか。
最近です。別に5年後、10年後に普通に許せばいいかなと思って。どうせ一生、付き合っていくし。信頼関係ありきのそういう関係です。
――じゃあ、このインタビューを読んでも、「あいつ〜!」とはならないんですね。
ならないですよ。僕も思ってないし。向こうは…気にしてるかもしれないけど。
愛のある正義感

――面白い。「いつでも許せるから今は許さない」っていうのは、いいですね。
そうですね。もちろんそれは信頼関係があるからで、ただ無責任に悪口を言うのとは違いますけど。
『弥生、三月』も、「愛のある正義感」っていうものが、すごく伝わる作品だと思います。
――主人公の弥生のキャラクターがまさにそうですね。一本気で、でも優しくて。
そうですね。それは守りたいものがあるから。
やっぱり男は、正義感のある強い女の人が好きなんだなっていうのは、すごく思いました。

〈成田凌〉 1993年11月22日生まれ。埼玉県出身。2013年よりファッション誌『MEN’S NON-NO』の専属モデルとして活躍。2014年、ドラマ『FLASHBACK』(フジテレビNEXTsmart)で俳優デビュー。映画『スマホを落としただけなのに』『ビブリア古書堂の事件手帖』で日本アカデミー賞 新人俳優賞。『カツベン!』で毎日映画コンクール男優主演賞。『愛がなんだ』『チワワちゃん』など話題作に相次いで出演している。