簡単に大学をやめない方がいい。中退経験者だからこそ言えること

    ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンのヒット映画を、吉永小百合と天海祐希の共演でリメイクした『最高の人生の見つけ方』。天海の秘書を演じるムロツヨシが語った「最高の人生」とは?

    ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンのヒット作を、吉永小百合と天海祐希の共演でリメイクした映画『最高の人生の見つけ方』。

    ムロツヨシは、天海演じるセレブ社長の秘書役として物語を盛り上げている。「喜劇役者」を自称するムロにとっての「笑い」そして「最高の人生」とは?

    いまはこんな答えしか

    ――ムロさんが考える「最高の人生」を教えてください。

    やりたいことがある人生。やりたいことを考え、思いつこうとすることが大事なのかなと。

    43歳の僕はいま、やりたいことをやらせてもらえている。それはしっかりと自覚しないといけないと思います。

    もう少し人生経験を積んだら、洒落のきいた粋な言葉も言えるのかもしれないですが、いまはこんな真面目な答えしか出てこないです。

    飲み屋で隣のおじちゃんから…

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    ワーナー ブラザース 公式チャンネル / Via youtu.be

    映画『最高の人生の見つけ方』予告編  2019年10月11日(金)公開

    ――映画、テレビ、舞台などで幅広くご活躍ですが、忙しすぎて消耗することはないですか。

    ありがたいことに、すごく忙しくさせていただいているのですが、意外としっかりお休みもいただいています。

    飲み屋で隣になったおじちゃんとかにも「休む暇ないでしょ?」って言われるんですけど、「実はきょう日本酒飲めるぐらいの休みはあるんですよ。明日も午前中は大丈夫ですし」と答えたりして。

    小学生から「ムロツヨシ!」

    ――街で声をかけられる機会も増えたのでは?

    小学生からフルネームで「ムロツヨシ!」って声をかけられます。新橋とか歩いてると、サラリーマンの方から小声で「ムロツヨシ、ムロツヨシ、ムロツヨシ…」と言われますからね。

    ――小声でつぶやかずに声をかければいいのに。

    同僚とかに教えてるんでしょうね。聞こえないフリしてますけど。

    立ち食いそばでも「ムロツヨシいる、ムロツヨシ」って。「ムロツヨシさんいる」は聞いたことないです(笑)

    ――思わず呼び捨てにしたくなる親しみやすさがあるのかもしれません。吉永小百合さんやタモリさんは「さん」付けですけど、古田新太、阿部サダヲ、ムロツヨシ!的なお茶の間との距離感。

    僕だって子どものころは「志村けん」って呼んでましたからね。小学生に名前を覚えてもらえるだけで嬉しいですよ。

    もちろん、この世界飛び込んだらそんなことは言えないですけど。

    大学をやめた理由

    ――ムロさんは大学を中退して俳優の道に進まれましたが、夢を追いかけている若い世代に伝えたいことはありますか。

    僕が大学をやめたのは経済的な問題もありまして、家族や親戚に負担をかけたくなかったんです。

    だったら入学するなって話なんですけど、入学してからやりたいことが見つかった。さらにそのころ家の経済状況が一気に悪化したということもあって、決断しました。これ以上、負担はかけられない。自分の力で生きていくしかない、と。

    家族は「やりたいことなんてそう簡単にできない」という考え方だったので、自分がそういう姿を見せられたら、という思いもありました。

    なので、「やりたいことが見つかったから大学やめる」っていうのは反対です。

    せっかく大学に通わせてもらえる親御さんがいて、学力と意志があるのであれば、まずはやめずにやりたいことをやってみるべき。大学も経験した方が、社会に出てから見える景色もまた違うと思うので。

    いい役者も、いい魚屋も

    画家になりたい、歌手になりたい、役者になりたい、なんでもいいです。

    結局、いい絵描き、いい役者、いいお医者さん、いい魚屋さん、いい居酒屋さんになろうと思ったら、確率としては同じぐらい難しいと思うんです。

    だからこそ、やりたい職業の「いい〇〇」を自分なりに目指してもらえたらと。学生さんにお会いした時には、そうお伝えしています。

    自分で自分を笑かせたい

    ――複雑な家庭環境で経済的に恵まれなくても「かわいそう」とは思われたくない。著書『ムロ本、』では、そんな心境も明かしています。

    役者になる道を選んだ時点で、かわいそうな人を舞台上で見たくないなと。何が「普通」かっていうのは難しいですけど、あまり多くはない家庭環境で育ったものですから。

    親が離婚したからかわいそうだとか、家庭環境が複雑だからグレるっていうのは違う。

    少数タイプの家庭環境で生きてきた人間として、それをいかにプラスにできるかというは高校生ぐらいから考えてきました。

    育ててくれた人たちのためにも、自分で自分を笑かせるぐらいな人間になりたいなと。

    「喜劇役者」の矜持

    ――自分を笑かせる。いいですね。

    最後はその一点ですね。それがまた、難しいんですけど。

    どんな役者ですか、と聞かれると「喜んで劇をする役者という意味で、喜劇役者です」と答えています。

    笑い声がある時はケンカが起きない。自分の家がそうだったからこそ、そのルールは信じて良さそうだって思えるんです。

    だったら自分は、人を笑わせる何かになりたい。ピエロになってもいいし、ヒーローになっても人は笑いますからね。

    〈ムロツヨシ〉 1976年、神奈川県生まれ。1999年、作・演出・出演するひとり舞台で俳優活動をスタート。テレビ、映画、舞台で幅広く活躍している。代表作にNHKの大河ドラマ『おんな城主 直虎』、連続テレビ小説『ごちそうさん』、『大恋愛』(TBS系)、映画『空飛ぶタイヤ』など。『最高の人生の見つけ方』『ダンスウィズミー』が現在公開中。