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「Momo自殺チャレンジ」騒動で抗議殺到 勝手に画像を使われた日本人造型師の困惑

SNS時代の「口裂け女」はいかにして生まれたのか

子どもたちを自殺に追いやるゲームとして、SNS上で話題になった「Momoチャレンジ」。

しかし、そうしたゲームの実在は確認されておらず、英BBCをはじめ「デマ」だと報じているメディアもある。

この狂想曲に翻弄された一人の日本人がいる。映画やテレビドラマなどの特殊造型を手がける「LINK FACTORY」の代表、相蘇敬介さん(43)だ。

相蘇さんは自らの作品「姑獲鳥(うぶめ)」の画像を盗用され、子どもたちに危険な命令を下し、自傷に追い込むという触れ込みのキャラクター「Momo」へと仕立てあげられてしまった。

騒動の拡大に伴い、「死ね」「恥ずかしくないのか」など、海外から罵詈雑言のメールが殺到したという。

「いろんな意味で、なんで?という気持ちです」

「Momoチャレンジ」に振り回された相蘇さんが、BuzzFeedの取材に複雑な胸中を明かした。

パンチのある怖いものを

――「姑獲鳥」はいつごろ制作したのですか。

2016年の夏です。東京・銀座のヴァニラ画廊であった「幽霊画廊」(8月15〜27日)というグループ展にお声掛けいただいて、つくりました。

「姑獲鳥」はお産で亡くなった女の人の妖怪。「幽霊画廊」ということだったので、パンチのある怖いものをつくろうと。

もともと個人の作品として、「怨念ガールズコレクション」と銘打って、口裂け女とか雪女とかをつくっていたりしたので、その一環ですね。

許可した覚えはない

――作品はどこに保管されているのですか。

去年の夏前ぐらいに破棄してしまいました。シリコン樹脂でできているのですが、オイルが垂れて傷んでしまって。残骸はまだウチにあると思いますが。

――「Momoチャレンジ」の画像として「姑獲鳥」の写真が使われていますが、相蘇さんは許可しているのでしょうか。

勝手に使われていますね。まったく許可した覚えはありません。

「死ね」と誹謗中傷のメール

――盗用にはいつ気づいたのですか?

去年の夏ぐらいに、英語とかスペイン語で誹謗中傷のメールが届くようになって。

「死ね」だとか、「そんなものをつくって恥ずかしくないのか」だとか。調べてみたら、どうも世界的な騒ぎになっているらしい、ということがわかったんです。

多い時は1日30通ぐらい、そういうメールが来てました。いったん収まったのですが、最近になってまた増えていますね。僕の不在時にはイタズラ電話もあったみたいです。

「姑獲鳥」を別の人形作家の方の作品だと勘違いした情報が拡散され、その女性作家さんのところにまで、ひどい嫌がらせのメールが届いたと聞いています。

いろんな意味で「なんで?」

――「自殺ゲームのキャラクター」という誤ったイメージが世界中に拡散されてしまいました。

複雑な心境です。日本でもほとんど知っている人がいないのに、どういういきさつで世界に広がっていったのか…いろんな意味で、なんで?という気持ちですね。

僕自身、「口裂け女」「人面犬」「カシマさん」といった都市伝説が物心ついたころから好きで、楽しんできました。

夜中にトイレに行けない。お風呂のすりガラスが怖い。電柱の陰に何かいるかもしれない…そうした体験も、いまではいい思い出になっています。

子どものうちに、怒ったり、悲しんだり以外の「怖い」という振れ幅の大きな感情に触れ、育むこと自体は悪いことではないと思います。

ただ、実際にお子さんが亡くなったというような話になると、面白がってはいられない。困ったなという思いもあって、これまで静観してきました。

(※アルゼンチンで12歳の少女が自殺した事件で、警察が関連を調べているとFox Newsなどが報じた。しかし最終的に、少女の死とMomoチャレンジの関連性は証明されなかった)

かわいいキャラに進化

2016年の幽霊画廊に展示されたLINK FACTORYの相蘇敬介さんの「姑獲鳥」が海外に話題になってます。海外のSNSアプリ内で姑獲鳥の顔使ってるMOMOというアカウント連絡するとグロ画像などで返事来る事でネット伝説になった。しかし原作と妖怪の情報で逆にキモカワのゆるキャラとして人気になりました。

――他方、海外では自殺ゲーム的な文脈から離れて、姑獲鳥(Momo)を愛らしくキャラクター化して、SNSに絵を投稿する動きもありますね。

最初のヴァニラ画廊での展示の時はビックリするぐらい話題にならなかったので、周知されてきたことは嬉しいですね。

すごく上手なものもあって、個人的に保存しています(笑)アジアや南米、ヨーロッパ、ちょっと遅れてアメリカでも、そういう動きが出てきました。

――海外メディアからの取材もあるのでは?

スペインやイギリス、アメリカのメディアから取材依頼がありましたね。

死なない方がいい

――なぜ姑獲鳥(Momo)は世界中で話題になったのだと思いますか。

自分ではよくわからないんです。これまで僕がつくったもののなかでは「キャッチーな顔をしている」と周りの仲間に言われますけど…。

――間違っても影響されて自殺する子どもが出てこないように、相蘇さんから一言メッセージをお願いします。

(Momoが)家を訪ねてくるとか、呪われるんじゃないかと怖がっている子どもがいるかもしれませんが、そんなことはないから大丈夫。死なない方がいいよ、と言いたいですね。

――今後また、姑獲鳥をつくることはあるのでしょうか。

仕事ではこういうものはつくれないので、個人作品として怖いもの、気持ち悪いものをつくっていけたら、と思っています。

〈相蘇 敬介〉 あいそ・けいすけ。1975年、札幌出身。特殊造型・特殊メイク業。代々木アニメーション学院でSFXを学び、シリコン樹脂の代理店でラブドール制作などに従事。フリーランス期間を経て、2006年に「LINK FACTORY」を設立。テレビドラマやバラエティー、映画、CMなどの仕事を幅広く手がけている。