「音楽は、外にも出れずに、どこにぶつけたらいいかわからない気持ちの避難場所になれると思うので」
「逃げたい人とか、いっぱいいると思う。そういう人たちの避難場所になってもいい。生きてたらまた会えるので、どうか生き延びましょう。ライブハウスで会いましょう」
銀杏BOYZの峯田和伸は10月、日本テレビ系の『スッキリ』で生歌を披露し、視聴者へ向けてこんな風に語りかけた。
約6年半ぶりのアルバム『ねえみんな大好きだよ』は制作中にコロナ禍に見舞われ、予定していた全国ツアーも中止になった。
峯田は自粛期間中に何を思い、どんな影響を受けたのか。感染状況が収束したら開きたいという「濃厚接触ライブ」の構想も明かした。
43歳のパンク少年

――前作から6年半ぶりのアルバムです。
6年、長いっすよね。小1が中1ですもんね。大人になってからの6年と、10代の6年は全然違うから。
(記者に尋ねて)おいくつになられました?
――37歳になりました。峯田さんは…
12月で43。ヤバイよね。
――時の流れを感じ過ぎる。GOING STEADY時代に「ドント・トラスト・オーバー・サーティー」って歌ってたのに。(1999年『DON'T TRUST OVER THIRTY』)
ねえ。あんなこと言ってたのに。
自分でも43って言うとビックリするけど、全然わからない。
――大人になったなあ、という感慨は。
ない。子どもとか生まれたら、実感するかもしれないですね。でも、まったくないので。
いまだに独身だから、あまり変わる要素がない。実感できるものがないんだよな。
「大人絶滅」
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銀杏BOYZ - 大人全滅
――今回のアルバムではそんな『DON'T TRUST OVER THIRTY』を、新たに『大人全滅』としてセルフカバーしていますね。
うん。元々は銀杏が今のサポートメンバーになってすぐ、4年前ぐらいから歌ってたんですよ。
2016年にKING BROTHERSと対バンした時にはもうやってた。単純に当時レパートリーがまだなかったから、昔の曲で今やれるのないかなと思って。
昔書いた曲で、もうちょっと今の気分と違うな…みたいな曲っていっぱいあるんですけど、この曲は一周して歌えるなと。
――『大人全滅』では、最後の「ドント・トラスト・オーバー・サーティー」の叫びが、「You Have Your Punk I Have Mine」に変わっていました。
そうね。『DON'T TRUST OVER THIRTY』つくった時、俺20歳だったからさ。大学3年。
あの当時のまま歌うよりかは、何かないかなと思って。
自粛期間はひたすら…

――「お前にはお前のパンクがあるし、俺には俺のパンクがある」っていうメッセージ、いいですね。
パンクは最近、めっちゃ聴いてます。やっぱりパンクはいいですね。
コロナでさ、家から出られなかったじゃないですか?
――自粛期間、つらかったです。
俺、パンクばっかり聴いて、ひとりで超超超アガったよ。ラモーンズ聴いて、ぎゃーって泣いたり。ヤバかった。
――えっ、メンタルやられちゃった感じではなく?
全然。楽しかった。
だってさ、9年アルバム出さない時期とかもあったわけじゃないですか。あの時と同じだもん。
《※アルバム『光のなかに立っていてね』(2014年)は、前作『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』『DOOR』(いずれも2005年)から9年のインターバルがあいた》
初めてじゃなかった

――ひたすら家にいて。
家にいてさ。「どうしよう、何もやることなくなっちゃった」「今日一日、どうやって過ごそう」みたいなの、今回が初めてじゃなかったですもん。
――ある意味、慣れてる。「これ、知ってるやつだ」みたいな?
うん。俺ら1年に1枚アルバム出さなくちゃいけない、とかじゃないじゃん?
毎年ずっと、ルーティンでアルバム出して、ツアーして…ってやっている人からしたら、今回キツイかもしれないよ。どうしたらいいんだ!みたいな。
でも俺、前から別に変わらないから。映画観て、レコード聴いて、女の子のこと考えて。いつも通りですよ
ばあちゃんとの別れ

――なるほど。割と平常運転だったんですね。
ただ、山形のばあちゃんが亡くなって、会いにいけないのがつらかったな。看取れなかったし、葬式にも行けなかった。
ちょっと前まで本当に元気だったの。94歳にしてはすごい元気で、面白いばあちゃんだったんだよ。
そういうことがあると、やっぱりつらいよね。生きてる人にも会えないし、死んじゃう人にも会えないっていうさ。嫌だね、コロナっていうのは。
でも、最近はまた新曲つくってます。やっと、つくる気力になってきた。
2020年の空気感

――コロナ禍でアルバム制作にも影響が出たのでは。
ひどかったのは緊急事態宣言の時。ちょうどレコーディングの終盤で、まだあと2曲完成してなくて。
そのうち1曲が『GOD SAVE THE わーるど』。
いつもだったらスタジオに集まって、あーだこーだやるんだけど、スタジオ行けないから。メールでデータのやりとりをしながら、「もうこの曲、生演奏なしでいいや」って。
打ち込みだけ、データだけの方が今の空気感に合ってる。2020年っぽいやと思って。
だから室内のノイズをガンガンに後ろにまぶして。渋谷のクラブで踊るっていうよりかは、家のベッドでぴょんぴょん跳ねてる感じにしたかったの。
濃厚接触を渇望
――1曲目の『DO YOU LIKE ME』は「現時点で最も演奏不可能な曲」と解説に書いていましたが。
《聴衆との物理的な濃厚接触が多分にみられる銀杏BOYZライブにおいて、現時点で最も演奏不可能な曲であり、また逆説的にみれば2020年作品の1曲目に配されるにはこの曲の誕生は必然でした。今、僕が最も欲していて、最も遠い場所で鳴るべき音楽はハードコアパンクです》
(峯田和伸による覚書「解説のようなもの」)
原体験っていうか、ロックって家で聴くものでもあるし、ライブハウスで直接音を体感するものでもある。
自分の隣にいる男の汗のにおいとか、前の女の人の髪の香りがない交ぜになって。耳鳴りだか音なんだかわからないなかで、意識が朦朧としてくる――。
ロックとかパンクでしか体験できない。ライブハウスのあの感じ。あれを渇望してますね。もしかしたら、二度と体験できなくなるかもしれないっていう危機感もあるし。
だからこそ、銀杏BOYZのライブを早くやりたい。実現させたいっていう気持ちで書いたのかもしれないね。
焦りはない。でも…

――もともと、アルバム発売にあわせてツアーを予定していたんですよね。
全国くまなく行く予定だったの。30カ所くらい。主要都市ツアーとかはあったけど、くまなく周るのは2005年以来だったから、楽しみにしてたんですよ。
――やはり内心、忸怩たる思いがあったのでしょうか。
ううん、別に。しょうがねえや、みたいな。
だって、俺も感染したくはないし。楽しみが持ち越されたってだけで、焦ったりとかはないな。
ただ、一緒に働いてる照明チームとか音響チームの人たちが大変で。うちら音響も照明も舞台監督も、ずっと同じチームなんだ。ゴイステの後期ぐらいから。
レコーディングもそう。エンジニアも全然変わってないよ。『さくらの唄』(2001年)から全部。みんな一緒だから、ちょっと家族みたいな感じなんだよね。
ライブがなくなると照明さんとかは仕事がなくなっちゃうから、それが困る。ライブハウスのなかには、なくなっちゃったところもあるしね。
縦型動画の生々しさ
――無観客ライブについてはどう思います?
面白い形を考えたらやる。あえてスマホで撮るとか。画質も粗くて、音質も悪いみたいな。
8月に渋谷La.mamaでスマホライブやったの。手持ちのスマホで撮影するからブレたりするんだけど、それも全然アリで。やってみると面白いんだよね。
スマホの縦画面っていいんですよ。ふつう横でしょ、映像って。
――テレビとか映画はそうですよね。
でもさ、たとえばエロ動画でも何でもいいんだけど、見る時って縦じゃない? 友達から送られてくるバカ動画とかを見てる感じ。
だから、スマホライブも「縦でいこう」って言って、2台で編集した。縦って身近で、すごい生々しいんですよ。
《※このインタビューの後、無観客生配信ライブ「銀杏BOYZ 年末のスマホライブ2020」を12月26日に開催することが発表された》
歌声なんて聴こえなくていい

――これからやりたいこと、野望や展望ありますか?
やりたいのは、濃厚接触ライブ。
ステージにバンドメンバーがいて、フロアにお客さんっていうのはもうやめます。もうね、フロアにバンドセット置いて、お客さんに囲まれながらライブやりたい。
――くっそ面白い! いいですね。
ぐっちゃぐちゃになって。横浜アリーナとかクアトロとか、大きいところで。もう、それをやるしかない。
できるようになるまでは辛抱します。やっぱり、もうちょっと落ち着かないとね。
音とか聴こえなくていいんだ、別にもう。そんなんじゃないんだ。何なんだこれは!?っていうライブをやりたい。そういう光景をつくっていきたいですね。
ペンライト振って、みんなで楽しむっていうライブの「ひな型」があるじゃないですか。
でも、俺が思うライブって、そういうものではないんですよ。やっぱり、においと汗と絶叫と、あの空間だよね。あれを今、俺は待ち望んでるから。
そのために、ライブでみんなが歌いやすい歌ばっかりつくってる。『アーメン・ザーメン・メリーチェイン』とかもそう。
だから、俺の歌声なんて聴こえなくていいんですよ。受け取った人が自分の歌にしてくれれば。
怒号と熱狂

――早くできる日が来るといいなあ…。
やっぱり今、音楽にしてもエンターテインメントにしても、スマホの中でしか起きてない感覚があるからね。
それはそれで面白いけど、「非日常は現実の中でつくれるんだ」っていうのも見せていきたい。
俺、サッカー見るの好きでさ。海外リーグの試合も始まってるんだけど、無観客なんだ。
もちろん、選手同士は試合してるんだよ? でもやっぱり、ゴール裏で発煙筒たいて合唱してっていうのがないと、全然違うんだよね。
プレーを見るだけじゃない。サポーターがいて、拍手があって、怒号があって…。そういう雰囲気、全部含めてサッカーだったんだろうな。ロックもそうだと思うんだよね。

〈峯田和伸〉 ミュージシャン・俳優。1977年、山形生まれ。1999年、ロックバンド「GOING STEADY」としてデビュー。2003年に解散し、「銀杏BOYZ」を結成。代表作に『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』『DOOR』など。最新作『ねえみんな大好きだよ』は、前作『光のなかに立っていてね』以来、約6年半ぶりのオリジナルアルバム。音楽活動のかたわら映画『アイデン&ティティ』『ボーイズ・オン・ザ・ラン』や、ドラマ『ひよっこ』『いだてん』『高嶺の花』などに出演。演技の世界でも高い評価を受けている。無観客生配信ライブ「銀杏BOYZ 年末のスマホライブ2020」を12月26日に開催予定。