峯田和伸×岡田惠和「二刀流」の哲学 異色コラボが実現した理由

    小説『いちごの唄』でタッグを組んだ2人が語り合った

    「ひよっこ」「ちゅらさん」の脚本家・岡田惠和と、銀杏BOYZでの音楽活動と俳優業の双方で存在感を発揮している峯田和伸。

    そんな2人が小説『いちごの唄』(朝日新聞出版)を刊行。銀杏BOYZの7曲から着想を得た岡田がストーリーを膨らませ、峯田が挿絵を手がけた。来年には映画化も予定されている。

    異色のコラボは、どのようにして実現したのか。それぞれ脚本と小説、音楽と芝居という2つの領域をまたにかけて活躍する2人が、「二刀流」の哲学を語り合った。

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    クラス中が南くんファッション

    ――最初にお互いの存在を知ったのは。

    岡田:最初はゴイステ(GOING STEADY。銀杏BOYZの前身バンド)ですよ。CDで聴いて、いいバンド名だなって。

    峯田:なんでつけたんだろうな、あの名前。「グローイング・アップ2/ゴーイング・ステディ」っていう青春映画があって、確かそこからとりましたね。ちょっとバカにされそうな感じの映画なんですけど。

    高校生のころ、岡田さん脚本のドラマ「南くんの恋人」(1994年)が放送されていて。武田真治さんのファッションがクラスで流行ってました。

    「奇跡の人」はベストに近い

    ――実際に仕事で組んだのは、峯田さんが主演したNHK BSプレミアムのドラマ「奇跡の人」(2016年)が最初ですか。

    岡田:そうですね。先入観かもしれないですが、峯田くんは連ドラはやらないだろうと思ってたんですよ。

    峯田くんみたいな役者さんを探したんだけど、やっぱりいなくて。それで正面からぶつかっていった。

    峯田:銀杏BOYZのメンバーが抜けて、1人で活動し始めて1年ぐらいした時にその話をいただいて。「これをやったらうまくいくな」という直感がありました。

    障害を持った子どもの話で、自分にとって新しい挑戦。これはやるべきだ、と。

    岡田:30年近くやってるんですけど、「奇跡の人」っていうドラマは自分にとってもベストに近い出来だった。もちろん、それぞれの仕事にいろんなベストがあるんですけど。

    やってる最中は、ほとんど峯田くんに会ってないです。初めて会ったのは、発表になった時だもんね。それまで、プロデューサーから毎日、峯田情報をメールしてもらって(笑)

    矜持を見せなきゃ負け

    峯田:「俺あんまりこういうセリフ言いたくねえな」とか、「こういう設定はなあ」みたいなのが全然ない。まったくストレスがなかったです。

    それって僕にはけっこう大きいところで。いい意味でも、悪い意味でも、本業が役者じゃないので。相変わらず区役所では、職業欄に「歌手」って書いてますから。

    岡田:ある種のピュアネスのなかで仕事をしてきた人が、NHKの連ドラみたいなメインカルチャーの世界に入ってきた時に、こっち側の矜持を見せないと負けだよな、と思ってたところが僕なりにあって。

    峯田くんにそういうところに来てもらって、「ああ、こんな感じか」って思われちゃったら最低だから。そういう意味でも、「書く勇気」をすごくもらいましたね。

    「ひよっこ」宗男おじさん誕生秘話

    ――「ひよっこ」(2017年)の宗男おじさんは、どのようにして生まれたのでしょう。

    岡田:当て書きというか、峯田くんが前提でしたね。朝ドラの話が決まって、峯田くんの力を借りたい、と思っていたところから、あのキャラクターが生まれました。

    いろんなセリフが活きる俳優さんなんです。「奇跡の人」で得た成功体験もあって、単に出てもらうだけじゃなくて、全体のテーマを最も語ってくれる役をお願いしたかった。

    峯田:いままで音楽の現場でやってしまったこととかも含めて、峯田ってこういうヤツだっていうイメージがあったと思うんです。

    だから、「奇跡の人」で文化庁芸術祭大賞をいただいたのは大きくて、客観的に評価されたんだなと。

    僕、いままで賞をもらったことなくて。みうらじゅん賞(2005年、リチャード・ギアらと同時受賞)だけなんで(笑)

    岡田:なかなか、狙ってとれるものじゃない(笑)

    峯田:だから、「ひよっこ」も恩返しじゃないですけど。

    「奇跡の人」の後に岡田さんと食事をした時に、「朝ドラやるんだよね。峯田くんがビートルズに絡んだら面白そうだと思って」と言われて、これだったら自分もできそうだなって。

    峯田・和久井の2ボランチ

    ――宗男が武道館の前で「ありがとう! ビートルズ! 俺は笑って生きてっとう! おめえも生ぎろ!」と叫ぶ場面は感動的でした。

    峯田:すごく「ひよっこ」っぽくて、いいですよね。

    岡田:ちょっと朝ドラっぽくない熱量でしたね。自分と峯田くんが組まなきゃできないことだよな、と思って書いてました。これを朝ドラでやるんだ、という感動もあって。

    半年間の朝ドラのなかで、峯田くんの役と和久井映見さんの役(愛子)は2ボランチみたいな感じですよ。サッカーで言えば。この人たちの発言がいろいろなことに響いて、ドラマを支えている。

    音楽はかえって自由に

    ――「宗男おじさん」としてお茶の間の認知度が上がっていくなかで、前々からの銀杏BOYZの激しいイメージとのギャップの間で揺れることはなかったですか。

    峯田:ちょっとあったかもしれないですね。でもその分、バンドではもっとワガママに、自分の好きなことをできる面もある。

    お芝居で評価されたり、声を掛けられたりというのがあるので、バンドの方では「売れたい」「有名になりたい」みたいなことを、そこまで考えなくていい。

    いや、もちろん売れたいですけど、かえって自由になってる感じはあるんですよね。この2、3年。いままで通り、確固たる音楽を好き勝手にやる。そこは揺るがないので。

    岡田:昔からのファンに「魂売った」みたいに言われない?

    峯田:多少あると思います。原理主義じゃないですけど、「音楽が丸くなった」って感じてる人もいると思うんですよ。

    そこは意識していきたいし、「見なくていいよ」とは思わない。やっぱり、そういう人にも、ちゃんと顔向けできるようなものをやっていきたい。

    岡田:そうだよね。

    脚本と小説はバンドとソロ

    ――「二足のわらじ」ということで言うと、岡田さんもずっと脚本を書いてこられてきたなかで今回、小説『いちごの唄』を発表しました。

    岡田:手強かったですね。脚本と小説は似ているようで違う。脚本家ってチームプレーだし、脚本作業は現実との戦いです。

    僕の書いた一文字一文字は、世の中には出ない。もちろん放送後に出版されることはありますけど、本来は設計図なので。

    撮影する人と、スタッフと俳優がわかればいい。一般的な「読者」は想定してないわけですよ。

    何をどこまで伝えるか、どこまで書くかという点で、小説とは大きく違う。だからこそ、新たな難しさがあって、楽しかったのは確かですけどね。

    脚本と小説、どっちが楽しいかって言われると難しい。たぶんバンドとソロみたいなものなんじゃないかな。ひょっとしたら、向いているのはバンド作業なのかもしれません。

    峯田:脚本はアーティストでいうところのレコーディングに近くて、お客さんの前には立たないで曲をつくるだけ。それが小説になると、ライブもしなくちゃいけない感じですかね。

    岡田:多分そうだと思います。全部見られてる感じというか。

    作風は人生で変わる

    ――ミュージシャンと俳優、脚本と小説という2つの世界を行き来することで、互いに良い影響がありますか。

    岡田:具体的にどうあるのかわからないけど、きっとあると思う。今回、こういう形でやれたことはすごく嬉しかったし、誇りに思います。小説だからって、自分語りをしてないし。

    1人1作は自分語りでいいものを書けるじゃないですか。「自分」だけはオリジナルだから、書く技術さえあれば。でも、そういうものとは全然違う話になってるので。

    峯田:「ひよっこ」の時はビートルズをすごい聴いていて。もう朝起きて聴く、ぐらいの感じ。レコードに針落として、その気分で風呂入ったり、ご飯食べたり。

    そういう生活を心がけてたら、「恋は永遠」みたいな曲ができた。半年ぐらい「ひよっこ」モードになってたから、生まれた曲なのかなって思います。

    「奇跡の人」でも、宮本信子さんが下宿で絵を描いてる女の子に言うじゃないですか。

    岡田:「作風っていうのは、人生によって変わっていくんじゃないの?」っていうセリフですね。

    峯田:そう、それかなって思いました。やっぱりビートルズ聴いてる生活から曲が生まれるんだったら、それは正直でいいんじゃないの?みたいな。クラシック聴いてたら、出てくる曲もまったく違うだろうし。

    生活に左右されるものがあってもいいのかなって。「こういうバンドのこういう曲をつくりたい」って狙うよりも、純粋だなと思うんです。

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    GINGNANGBOYZofficial / Via youtu.be

    銀杏BOYZ「恋は永遠」

    ビートルズで好きなのは…

    峯田:ビートルズのアルバムでどれか1枚選ぶなら、岡田さんは何を選びます?

    岡田:「ラバー・ソウル」。ただ、リアルタイムに経験したのは「レット・イット・ビー」だけなんです。小学生の時にリアルに経験してるから、ちょっと特別な思いはあります。

    峯田:僕の場合は、本当にその日その日で変わりますね。「ホワイトアルバム」の時もあれば、ファースト(「プリーズ・プリーズ・ミー」)の時もあれば。

    岡田:前期から中期に才能が爆発していって、でもまだ3分間で曲をつくってる時期。これからフリーダムになる直前ぐらいにシンパシーを感じます。

    変な話、僕はいわゆるテレビっていうメインカルチャー的なところにいて、そこはやっぱり、あまりフリーではないわけですよ。

    7つの楽曲がひとつの物語に

    ――『いちごの唄』は「東京」「恋は永遠」など、銀杏BOYZの7曲を下敷きにした、みずみずしい青春物語です。

    岡田:大枠のストーリーはありつつ、曲からインスパイアされるエピソードを各章に当てはめていきました。

    最初はまったく関係のない7編の短編集を書くというアイディアもあったけど、それだとどこか散漫で、もったいない気がして。

    峯田:いやもう、めっちゃ嬉しかったですね。岡田さんがひとつの物語に紡いでくださって。

    自分の曲がこういう形で作品になるなんて、曲をつくってる段階では思ってもみなかったし。ミュージシャンでこういう思いをできることって、なかなかない。

    自分の主観でメロディーも歌詞もつくるけど、違う人が違う角度から見たら、こういう景色もある。自分が見てる景色とは違うのかもしれないですけど、その発見が「なるほどな」って。

    岡田:また今度、何か違う形の組み方をできたらいいですね。

    峯田:銀杏でアルバムとかを出す時に、歌詞カードにお話を書いていただけないかなって考えてます。もし、機会があったら…。

    岡田:ぜひぜひ!

    〈おかだ・よしかず〉 脚本家。1959年、東京生まれ。NHK連続テレビ小説「ひよっこ」「ちゅらさん」、フジテレビ系「最後から二番目の恋」、日本テレビ系「泣くな、はらちゃん」など、数多くの名ドラマを手がける。「ちゅらさん」で橋田賞と向田邦子賞をダブル受賞。峯田和伸主演の「奇跡の人」(NHK BS)では、文化庁芸術祭テレビドラマ部門大賞を受けた。著書に『TVドラマが好きだった』など。

    〈みねた・かずのぶ〉 ミュージシャン・俳優。1977年、山形生まれ。99年、ロックバンド「GOING STEADY」としてデビュー。2003年に解散し、「銀杏BOYZ」を結成。代表作に「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」「DOOR」「光のなかに立っていてね」など。映画「アイデン&ティティ」「ボーイズ・オン・ザ・ラン」、ドラマ「奇跡の人」「ひよっこ」に出演、演技の世界でも活動の幅を広げている。


    インタビュー後編では、互いに対照的な人生を歩んできた岡田惠和さんと峯田和伸さんが、ちょっと意外な仕事論を語ります。

    「好き」が仕事じゃなくていい 峯田和伸×岡田惠和の人生論

    BuzzFeed JapanNews