Posted on 2020年8月2日

    大瀧詠一さんに、夢でもし逢えたら

    鈴木雅之がデビュー40周年記念アルバム『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』を発売。収録曲を手掛けた故・大瀧詠一や、大瀧との縁をとりもった「福生福生太郎」の思い出を明かした。

    Photo by 黒羽政士

    鈴木雅之

    鈴木雅之がデビュー40周年を迎え、記念盤『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』を出した。

    『夢で逢えたら』『Tシャツに口紅』『Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba 物語』…。3枚組のアルバムには、2013年末に逝去した大瀧詠一の手がけた名曲が多数、収められている。

    インタビュー連載の最終回は、謎の人物「福生福生太郎」がつないだ大瀧との縁や、楽曲制作の秘話をマーチンが回想した。

    連載第1回:「今日で解散します」と言うはずだった。バンドの未来を変えた運命のイタズラ

    連載第2回:鈴木雅之は告らせたい。1300万回再生された男は、「うるせぇバーカ」に涙した

    連載第3回:鈴木雅之が「違う、そうじゃない」と思うこと

    「福生福生太郎」が結んだ縁

    Photo by 黒羽政士

    ――ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』を聴いて、大瀧さんに対する深いリスペクトを感じました。

    『ゴー・ゴー・ナイアガラ』っていう大瀧さんのラジオ番組のスタッフに、福生福生太郎(ふっさ・ふさたろう)ってヤツがいて。

    もともとは番組に投稿していたリスナーで、「音楽に詳しいし面白いから、ラジオの編集とかを手伝いに来い」って福生の大瀧さんのところへ呼ばれて、スタッフになったんだけど。

    その彼がたまたま、シャネルズのアマチュア時代のメンバーの予備校仲間だったわけ。で、その福生福生太郎がシャネルズのリハーサルスタジオに来たんだよ。

    そこで、「大瀧さんを手伝ってる」「本当に大瀧さんのところでやってるの?」っていう話になった。

    福生福生太郎は音楽まわりに明るかったから、シャネルズのデモテープとかライブのミキシングもやってもらうことになって。それで彼が、大瀧さんに俺たちのライブの音源とかを渡してくれたんだよ。

    大瀧さんのところに直接テープを持っていって、「ドゥーワップといえばシャネルズ」っていうの言葉を呪文のように植え付けてもらった(笑)

    「メンバーになっちゃえ!」

    EPIC Records Japan / Via amazon.co.jp

    大瀧詠一の楽曲も多数収めた、鈴木雅之のデビュー40周年記念盤『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』

    ――福生福生太郎さん経由で刷り込んで(笑)

    そう! それを大瀧さんがすごく気に入ってくれて。「一度、遊び来い」と言われて、シャネルズのメンバーで福生に行くようになったんだ。

    福生福生太郎はパーカッションもできたから、「じゃあメンバーになっちゃえ!」って、アマチュア時代のシャネルズのメンバーにもなってるんだよね。

    最終的にフジパシ(パシフィック・ミュージック・パブリッシャー/現フジパシフィックミュージック)に就職して、コマーシャルとかをつくるディレクターになっていくんだけど。

    朝妻さん(朝妻一郎フジパシフィックミュージック現会長)から「ちゃんとケジメつけないと、二足のわらじみたいなことは無理だよ」と言われて、フジパシの方に入っていったんだ。

    ※「福生福生太郎」の名前は、大瀧詠一(本稿では「大瀧」表記で統一する)の名盤『A LONG VACATION』にもパーカッション奏者のひとりとしてクレジットされている。原盤ディレクターとして、本名の「寺川知紀」でも記載されている。

    落雷の翌日に

    Photo by 黒羽政士

    ――大瀧さんとの初対面の記憶は?

    福生の大瀧さんの家に、雷が落ちた時があるのね。その翌日じゃなかったかな、行ったのは。だから、「雷、大丈夫でしたか?」っていうのが、最初の言葉だった。

    雷が落ちたっていうお風呂を見せてもらったり、福生45スタジオを見せてもらったり。スタジオって言っても普通の部屋を段ボールか何かで防音しているような感じだったね。

    その後、大瀧さんの『LET'S ONDO AGAIN』(1978年)っていうアルバムで、俺たちは『禁煙音頭』と『ピンク・レディー讃歌』の2曲を歌うんだけど。

    そのころには45スタジオはクローズしちゃってて、大瀧さんが都心のスタジオに来ることが多くなった。

    だから、残念ながら俺たちは福生でレコーディングしたことはないんだよね。大久保のフリーダムスタジオとか、(銀座の)音響ハウスとかでやってたね。

    「シャネルズでやってたら…」

    ソニー・ミュージックレコーズ

    来年発売40周年を迎える大瀧詠一『A LONG VACATION』。のちに鈴木雅之率いるゴスペラッツがカバーした『Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語』の原曲のほか、シャネルズがコーラス参加した『FUN×4』も収められている

    ――大瀧さんの『Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語』(1981年)には原型になっているコマーシャルソングがあって、そちらにはシャネルズも参加しているんですよね?

    EPOが歌って、シャネルズがコーラスで。サントリーレモンのコマーシャルソングになる可能性がある、みたいな話だったんだよ。

    ※『NIAGARA CM SPECIAL』収録、EPO・シャネルズ『大きいのが好き』(1980年)

    ――えっ! CMで流れなかったんですか。もったいない

    結局、ボツになったの。アパッチの『レモンのキッス』(1980年)っていう曲があって、そっちが正式に採用されたんだよね。

    EPOは当時まだ学生だったのかな。俺たちも大森の不良みたいな感じだったから(笑)

    あれも音響ハウスだったな。EPOが最初に歌を録って、その後にシャネルズが録って。あのコーラスワークは『Pap-Pi』の元ネタになってる。

    『Pap-Pi』のコーラス部分は全部シンセになってるんだけど、大瀧さんが「一度、シャネルズの生のコーラスで聴いてみたかったな」「シャネルズでやってたら、どうなってたかな」みたいなこと言ってくれた時があって。

    俺はそれを覚えていて、2015年にゴスペラッツでカバーしたんだよね。

    幻のCMソング

    Photo by 黒羽政士

    ――めっちゃいい話。『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』では、まさにそのゴスペラッツ版を聴くことができると。

    今回のアルバムに収録されている『星空のサーカス』(1983年)にも、元になっている『スパイス・ソング』(1979年)っていう曲があったんだよ。

    実はこれもアマチュアの時にハウスの香辛料のコマーシャルソングになるっていう話で、もしかしたら大瀧さんのプロデュースでレコードになるかも…なんて言われてたんだけど、やっぱりボツになっちゃって。

    ただ、そのコーラスワークの一部は『星空のサーカス』にも生かされてる。シャネルズからラッツ&スターになった時に、大瀧さんが書き下ろしてくれたこだわりの一曲なんだ。

    『星空のサーカス』は、満を持して出したラッツ&スターのファーストアルバム『SOUL VACATION』(1983年)にも収録した。

    プロデュースが大瀧さんで、ジャケットデザインがアンディ・ウォーホル。いま振り返ると、すごく贅沢なアルバムだね。

    ナイアガラ門下生として

    Photo by 黒羽政士

    ――ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』には、大瀧さんとの思い出もたくさん詰まっているわけですね。

    大瀧さんと出会って、大瀧さんの曲を「ちょっとこれ歌ってみろ」って言ってもらったりして。歌手として、ものすごく背中を押してもらった。

    実現はしなかったけど、大瀧さんの曲でデビューするかも…みたいな話もあったぐらいで、アマチュアの俺たちにとっては夢のような話だったから。

    そして1996年、ラッツ&スター再集結の時にカバーしたのが『夢で逢えたら』。

    アマチュア時代、初めて福生の大瀧さんのところへ向かう途中、車のラジオから流れていたのが『夢で逢えたら』だった。

    以前は、この歌をこれほどまでにステージで歌い続けることになるとは思ってなかった。

    でも大瀧さんが亡くなって、自分より先に亡くなってしまった人たちの思いを歌い継いでいくことが、遺された者の使命なんだって考えるようになったんだ。

    それまで以上に大瀧さんの音楽を届けたい、という気持ちになったんだよね。

    新型コロナ禍で、まだまだ自粛の毎日が続いているけれど、音楽の力を信じて伝えていきたい。だって、俺はナイアガラ門下生のひとりだから。

    Photo by 黒羽政士

    〈鈴木雅之〉 1956年、東京都大田区生まれ。

    1980年、シャネルズ『ランナウェイ』でデビュー、100万枚超を売り上げた。1983年にラッツ&スターへと改称してからも『め組のひと』『Tシャツに口紅』など、多くのヒット曲を残す。1986年、『ガラス越しに消えた夏』でソロデビュー。代表曲に『もう涙はいらない』『違う、そうじゃない』など。

    2011年、初のカバーアルバム『DISCOVER JAPAN』で日本レコード大賞「優秀アルバム賞」。2016年に日本レコード大賞「最優秀歌唱賞」。2017年には、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した。

    近年はTikTokで『め組のひと』が話題となり、人気アニメ『かぐや様は告らせたい』の主題歌も手がけるなど、「ラブソングの王様」として幅広い世代に親しまれている。

    2020年、デビュー40周年記念アルバム『ALL TIME ROCK 'N' ROLL』を発表。収録曲『Motivation』がドラマ『ハケンの品格』の主題歌に。7月15日には、同アルバム収録の『Ultra Chu Chu Medley』を7インチのアナログ盤としてリリース。

    Animelo Summer Night in Billbord Live」(8月30日)、「音市音座2020」(9月5日)など配信ライブへの参加も予定している。