
――槇原容疑者の逮捕、どう受け止めましたか。
泣きました。泣くでしょう。何でこうなっちゃったんだろうと。だってマッキーは星だから。
同世代の星であり、ドラッグ経験のある人間からすれば、それを克服した星でもある。推測でしかありませんが、いろいろと大変だったのかな、つらかったんだろうなと思ってしまいますね。
ファンだけど「裏切られた」なんて思わない。「裏切られた」という人たちは、一体何を信じていたんだろう?
人間って哀しいものじゃないですか。いかんともしがたい人間の哀しい姿が、ドラッグを媒介して見えてくる部分はありますね。
名曲の価値は変わらない
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槇原敬之 - 彼女の恋人
――ピエール瀧さんの時もそうでしたが、薬物事件があると過去の作品が回収されたり、配信停止になったりしますね。
大反対です。逮捕されたからといって、『彼女の恋人』や『君に会いに行く』といった名曲の価値は何も毀損されない。
マッキーの声は本物だし、その輝きはまったく曇らないと思います。
――槇原容疑者は2018年4月、マンション内で約0.083グラムの覚醒剤を所持した疑いがあると報じられています。
覚醒剤を注射で打つ場合、1回あたりの使用量は0.03グラムか、多くて0.04グラム程度です。注射であれば、2〜3回分ということになります。
「あぶり」の場合は使う量がもっと多いので、1回分にもならないのでは。
最近、カップ麺の容器に覚醒剤を隠してアメリカから密輸したとされる事件がありました。
覚醒剤というと中国や北朝鮮をイメージする人も多いですが、いまは世界的に人気が出ている。化学薬品なので、どこでもつくれてしまうんです。
氾濫する覚醒剤セックス動画

――覚醒剤は「セックスドラッグ」とも言われますね。
覚醒剤はセックスと結びつきやすいドラッグです。
海外のポルノサイトには、覚醒剤を使ってセックスする様子を撮影した動画が無数に投稿されています。
延々とオーラルセックスしたり、マスターベーションを繰り返したり…。
彼らの肌はボロボロで見るからに不健康。はたから見ていると気の毒になりますが、本人たちは最高の気分なんでしょう。目だけがキマッていて、爛々としています。
若い子もいれば、おじさん、おばさんもいる。外国人がほとんどですが、日本人とみられる動画もありますよ。
そこに愛はない

――ええっ!摘発されるかもしれないのに、何のメリットが…。
倒錯しておかしくなってるんでしょう。そうでなければ動画なんてあげませんから。
かつての自分を客観視しているようで、見ていて気分が悪くなりました。自分がやっていたことは何だったんだろうと。
覚醒剤を使ったセックスに愛なんてない。クスリがあれば何でもいい。だから哀しいわけですよ。
圧倒的な緊張と極限の恐怖
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槇原敬之 - SPY
――様々なドラッグを経験してきた石丸さんが「覚醒剤はやめておけ」と口酸っぱく言う理由は。
覚醒剤は一番ヤバイ。ヘロインなどに比べて手に入りやすいということもあるし、セックスというライフスタイルと結びついていることも大きいです。
「覚醒剤はそんなに気持ちいいのか」とよく聞かれますが、楽しいわけでも気持ちいいわけでもない。気分が良くなるのなんて、最初のうちだけです。
あるのは圧倒的な緊張感。極限の恐怖、極限の孤独、極限の怒り…。恐怖のなかの緊張が「最高」だと感じるように倒錯しちゃうんです。
そしてその倒錯から抜け出せなくなる。「誰かが悪口を言っている」「監視されている」「電波が飛んでいる」といった被害妄想もあります。
天井のシミが虫に見えてビクッとすることもあれば、近所で「野球場の歓声が聞こえる」と思って行ってみたら、ただの工事だったり。
人間やめますか?でいいのか
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槇原敬之 - どんなときも。
――かつて「覚醒剤やめますか? それとも人間やめますか?」というCMがありました。「人間ではない」「人生終わり」というメッセージは、薬物依存症患者を追い込みかねないものだと思います。
「廃人になる」「一生治らない」という人もいるけど、そんなことはない。やめられます。
ただ、やめるまでにすごく苦労する。振り絞るようなつらい思いをして、涙を流して…。苦痛なくやめることはできません。
やめよう、やめようと思いながら、また使っちゃう人もいる。
「ほしい」という強い衝動、発作のような欲求がわき起こるんです。やっていない人にはわからないと思いますが、これがつらい。
時間もかかります。若いころに手を出して、やめるために前半生を費やす人もいる。
覚醒剤は割に合わないドラッグ。若い人には「やらない方がいい」と声を大にして言いたいですね。
マッキーの人生を肯定

――槇原さんの今後への思いは。
頑張って、としか言いようがない。
覚醒剤は否定します。でも、マッキーの人生は否定したくない。彼の過去・現在・未来を肯定したいと思います。

〈いしまる・げんしょう〉 1965年生まれ。法政大学中退。実体験を重視し、主観を色濃く打ち出した「ゴンゾ・ジャーナリズム」の日本における草分け。著書に『スピード』『平壌ハイ』『KAMIKAZE』『覚醒剤と妄想 ASKAの見た悪夢』など。