「猿とエッチしたらエイズになるわ」――。吉本興業所属のお笑いコンビ「金属バット」のネタ動画について、HIV陽性者を支援するNPO法人「ぷれいす東京」の代表・生島嗣さんに見解を聞いた。
「他人事意識」が根底に

一問一答は次の通り。
――動画の感想は。
HIV/エイズへの関心が下がるなか、取り上げてくれるのは嬉しいのですが、差別や誤解を強化するのはやめてほしいと思います。
何が問題かというと、1点目は、“他人事”意識がその根底にあることです。目の前、周囲には当事者はいない、という思い込みです。
もしそこにHIV陽性者やパートナー、感染不安を心配する人がいたら、顔が引きつりながらも周囲に合わせ、その反応がバレないようにつくり笑いをして、その場をやり過ごしていたことでしょう。
そして内心では、「HIVのことは周りには話していけないことなんだ。もし、バレたら、笑いの対象になるのだ」と感じるでしょう。
その結果起こることは、当事者がその事実を周囲に伝えたいと思っても、恐怖がより大きくなり、言わない方向に作用してしまうということです。
検査のハードルが上がる
2点目は、HIV/エイズは予防なしの性行為をしていれば、誰にでも関係がある病気だということです。
こうした笑いの対象になるなどの差別があると、自分から保健所に予約をしてHIV検査を受けにいくという行動のハードルが思いっきり上がってしまいます。
感染に気づくのが保健所や検査所という人は全体の3〜4割で、ほかの人たちは一般の病院など予想しないなかでHIV感染に気づいています。なかには一歩間違うと、命に危険がある人だっているのです。
実態に照らしてミスリード

3点目ですが、HIVと治療についてのこの部分。
「ちゃうねん。まだ発症はしてないねん。カナのええとこっていうのはな、発症してないのにな、抑える薬打ってないねん、アイツ」
「終わってるやんけ!」
「そこがロックンロールやねん、アイツ」
「死ぬでそんなヤツ」
最近の治療はものすごく進んでいます。治療の基本は、抗HIV薬の服薬です。服薬を続けることで、これまで通りの生活を続けることが可能です。
私たちが2014年に実施し、1000人以上が参加した調査によると、1日に1〜2回の服薬、2〜3ヶ月に1回の外来通院となっており、ほかの慢性疾患と治療のスタイルは変わりません。
HIV検査を受ける人たちは「もし陽性だったらどうしよう」と考えるものの、陽性判明後の生活がイメージしづらいため、漠然とした不安を持ちます。
この部分のやりとりは、言葉のインパクト狙いで意味不明な部分もありますが、実態に照らすとかなりミスリードだと思います。
まったく笑えない
そして4点目は、以下の部分です。
「いよいよやな。そらエイズになるわ。猿とエッチしたらエイズになるわ」
「黒人とかな」
お笑いの人たちのネタにガチでコメントするのも気がひけますが、「猿とエッチしたらエイズになる」は、感染した人たちの感染経路へのネガティブなイメージづけにつながります。
HIVはコンドームなど予防なしの行為で感染するのであって、誰とセックスをしたから、ということではありません。なので、こういう表現は避けてほしいと思います。個人的にはまったく笑えませんでした。
――金属バットや吉本興業に対して意見・要望があればお聞かせください。
金属バットのお2人も経験があるのかもしれませんが、ぜひ一度、検査を受けに行っていただければと思います。