「猿とエッチしたらエイズになるわ」――。吉本興業所属のお笑いコンビ「金属バット」のネタ動画について、NPO法人「日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」代表の高久陽介さんに見解を聞いた。
ショックというより「呆れた」

一問一答は次の通り。
――動画の感想は。
コメントを寄せるだけでも炎上商法的なお笑いに加担しているようで嫌なのですが、率直な感想を言うなら、ショックというよりも「呆れた」です。
金属バットのお2人は、「言ってはいけないことを言って笑いをとる」という確信犯でやっているような印象を持ちました。
小さい子がウンコちんこと叫んで笑っているのと同じレベルにしか見えなかった。めっちゃダサいし、何も面白くない。
私はこのお2人のネタの露悪的手法よりも、それを聴いて観客が笑っているということに、より絶望を覚えます。
いまだに、エイズに対して、蔑んだりバカにされて当然のものだと内心思っている人がいるんだなと。「あいつはエイズだ」って、面白いですか?
現在、日本には約3万人ものHIV陽性者が暮らしています。
一緒にネタを聴いてる観客の中にも当事者がいるかもしれない、という想像力があったら笑う気にならないと思うのですが。
そして、もし実際に当事者がいたら、わざわざ足を運んで見に来たお笑いライブで、ネタを聞いて笑うのではなく自分の一番笑われたくないことを笑われて、ものすごく悲しいでしょうね。
私はこの2人組は初めて目にしましたが、「金属バット」というグループ名は、自分よりも弱い立場の人間をバットでボコボコに叩くというようなイメージなのでしょうか?
ネットに流さないで

――金属バットや吉本興業に対して意見・要望があればお聞かせください。
お笑いは尖ってないと面白くない、という考え方がありますよね。
あれもこれも言っちゃダメ、では成り立たない…という面もありますが、尖るなら、もっとチャレンジングな対象をネタにしたらどうなのかなと思います。
また、ライブはクローズな場で、本当に聞きたい人だけが来るのだから、いわゆる「やばい」ネタでも自由にやる!という考え方もよく聞かれます。
たまたま初めて、このグループを知った私がとやかく言うなと思う人もいるでしょう。
しかし、いまの時代、こうしてネット動画で大勢の目に触れるということは、テレビに流れるのと同じ前提で、倫理観を持たないといけないはずです。
もし、どうしてもこんなひどいネタをやるという芸風ならば、ネットに流さないでほしいですね。
批評性や皮肉は感じない
――金属バットが「黒人が触ったもの座れるか!」などと発言する別のネタに関して、「ネタ全体で差別の構造を皮肉っている」「綺麗ごとを言っていても結局差別するヤツは差別する、という風刺」といった擁護論を展開している人もいます。
違うネタについては何とも比較しようがないです。件の金属バットのネタについては、批評性や皮肉は何も感じませんでした。
そもそも差別は、人々がみんなで意識や行動に反映していかないと変えられないもので、「差別するヤツは差別する」とわざわざ口にする人は、自分は誰かを差別していたい、という意思表明でしかないと思っています。
――ネタにされた三倉茉奈さん自身は、Twitterで賛意を示しています。
三倉茉奈さんが肯定している点については、私の問題意識としては彼女個人への中傷はポイントではないので、特に意識しなくて良いかなと思います。
少なくとも彼女はHIV陽性ではないのでしょうし。でも、彼女の大切な人がHIVに感染していると判明したら、きっと彼女に打ち明けることはないでしょうね。