家で、街で、よく耳にするのに何の曲だかわからない――。そんな日常に潜む謎メロディーの代表格「お風呂が沸きました」「ファミリーマートの入店音」「スーパーマーケットのポポポ音」の秘密を探りました。
「この曲なんだっけ」CMに
「タララン、タララン、タラランラン♪…お風呂が沸きました」。毎日のように聞くこの旋律、作曲者を知らない人も多いのではないでしょうか。
湯まわり設備メーカーのノーリツには問い合わせが多数寄せられており、同社は疑問を逆手にとったようなCM「この曲なんだっけ」を4月から放映しています。
通学路やスーパーなど様々な場所であのメロディーを耳にした女性が、何の曲だか思い出せずに絶叫。
最後はお風呂のお湯はり完了の音楽だと気づいて、湯船でホッと一息つくというコミカルなCMです。
ユーチューブでは30万回以上再生されていますが、このCMを最後まで見ても「そもそもお風呂の曲は一体誰がつくったのか」というところまではわかりません。
ノーリツによると、このメロディーはドイツの作曲家テオドール・オースティンのピアノ曲「人形の夢と目覚め」の第2部「夢を見ているところ」の一部。
広報室の担当者は「お風呂に入る時のワクワクした高揚感、夢見るようにリラックスできる幸福感をイメージして選びました」と明かします。
この音楽を搭載した給湯器リモコンは、1997年から昨年末までに累計1300万台販売されています。
1世帯の平均人数を2.49人とすると、日本の総人口の実に約4分の1が聴いている計算になるそうです。
「このメロディーを20年続けており、弊社にとっては財産。今回のCMをきっかけに、『自分の家の給湯器がノーリツだと知った』という方も多いです」
ファミマと言えばあの曲
日常のメロディーと言えば、もはや暮らしのインフラと言えるコンビニも負けていません。
近所にファミリーマートがある人には、「タラララララン、タララララン♪」という入店音は馴染み深いものでしょう。
実はこのメロディーはパナソニックのドアホン用チャイムの音。ファミマ以外の個人宅やマンション、ホールなどの建物でも聞くことができます。
ある意味「国民的」とも言えるメロディーを手がけたのは、指揮者の稲田康さん(68)です。
40年近く前に松下電器(現・パナソニック)の嘱託で家電製品に使う様々な音声の監修を務めていた稲田さんは、それが縁でチャイム音の作曲も担当。
パナソニックによれば、稲田さんの曲を使用したチャイムは、1980年ごろから現在まで販売され続けているといいます。
稲田さんが作曲時に思い浮かべたのは、20代でオーストリアに留学した際に見たザルツブルグの田舎町の風景でした。
「イメージはヨーロッパの教会の鐘の音。毎日のように聞く音なので、飽きられないようシンプルにすることを心がけました」と稲田さんは述懐します。
シンプルで短い旋律ながらも、随所に工夫が散りばめられています。
「甘いイメージの3度の和音で進行していた曲が、途中で5度になり、空虚な透明感が生まれる。そして最後はまた3度で終わる。そんな『ドラマ』を込めました」
長らく「ファミマの入店音」などと呼ばれ、正式名称のなかったこのメロディー。
2015年にライターの西村まさゆきさんから取材を受けたのを機に、商売繁盛などの願いを込めて「メロディーチャイムNO.1 ニ長調 作品17『大盛況』」と名付けたそうです。
曲の背景を知っていると、ファミマに行く度に荘厳な気分に浸れそうですね。
スーパーの「ポポポ音」の正体
最後にご紹介するのは、スーパーマーケットの売り場などでよく耳にする「ポポーポポポポ、ポポーポポポポ♪」という音の正体です。
いきなり種明かしをすると、これは音や光でお客さんにアピールする販売促進マシン「呼び込み君」のBGM。
製造元の群馬電機によると、2000年12月の発売開始以来、累計3万台以上を売り上げている人気商品です。
自宅でエンドレス再生したい方は、同社サイトの通販で購入することもできます。
価格は文字パネル付きが2万9800円、パネルなしが2万1800円です(消費税・送料除く)。
この呼び込み君、実は2種類のBGM内臓しているのですが、実際に店舗などで聞くのは前述した「ポポーポポポポ♪」の曲ばかり。
群馬電機の担当者は「それだけあの『ポポポ』の曲に力があるんでしょうね。遠くで鳴っていても、お客さんを振り向かせてしまうパワーがあると思います」と語ります。
もし、どこかのお店で『ポポポ』ではない、幻の呼び込み君メロディーに出会ったとしたら、それは非常に貴重な体験。足を止めてじっくりと鑑賞した方がいいかもしれません。