「カジノ税収を保育士や介護士に」カイジ作者が提言

    映画『カイジ ファイナルゲーム』の原作者でオリジナル脚本を手がけた福本伸行が、日本版カジノ・IRのあり方を提言。ギャンブル依存症対策や、収益の使途などについて論じた。

    ざわ…ざわ…。ギャンブルの申し子カイジが、再びスクリーンに帰ってきた。

    映画『カイジ ファイナルゲーム』(1月10日公開)の舞台は、帝愛グループが営む地下カジノ「帝愛ランド」。現実世界でも、カジノを含む統合型リゾートについて定めたIR実施法が2018年に成立し、各地で誘致レースが熱を帯びている。

    一方で東京地検特捜部が汚職事件の捜査に着手するなど、IRをめぐる「闇」にも注目が集まる。原作者で映画のオリジナル脚本も手掛けた福本伸行に、日本版カジノの是非や将来へ向けた提言を聞いた。

    入場には一定の制限を

    ――今作では地下カジノ「帝愛ランド」を舞台に、カイジたちが一世一代の大勝負を繰り広げます。えげつないギャンブルがたくさん登場しますが、あのカジノは合法という設定なんでしょうか?

    うーん。カイジの世界では、まあ一応、合法ということになってます(笑)

    ――現実の日本でも、カジノの開業に向けて法整備が進んでいます。ギャンブル依存症など問題点を懸念する声もありますが。

    ギャンブル依存症にならないような手はずは、いろいろ打てるはずです。

    シンガポールでは、自国民にけっこう高めの入場税を課しています。そういう風にしておけば、基本余裕のある人しかカジノに行かないと思うんですよ。

    《※シンガポールの入場税は1日あたり150シンガポールドル(約1万2千円)。昨年4月に100シンガポールドル(約8千円)から引き上げられた。


    日本のIR実施法では、日本人や国内に住む外国人の入場料は6千円。入場回数は7日間で3回、28日間で10回まで。マイナンバーカードで本人確認を行うことが定められている》

    お金のない人がどんどんハマってしまわないように、入場の際に所得制限を設ける方法もあります。つまり、所得の少ない人の入場は限定的とする。

    そうやっていろいろな条件をつければ、ほかのギャンブルに比べても依存症の心配は小さいんじゃないか…と思います。

    鉄火場ではなく社交場に

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    東宝MOVIEチャンネル / Via youtu.be

    映画『カイジ ファイナルゲーム』予告

    ――ターゲットはあくまでも日本人ではないと。

    海外のお客さんに楽しんでもらうというのが基本。飛行機代を払ってまでカジノに来るのはお金持ちの人たちですから。

    「鉄火場」ではなく、おしゃれな格好をしていく「社交場」としての雰囲気をつくっていくことも大事かもしれない。

    お金持ちが遊んで落としたお金が税金として国のために役立つのであれば、僕はいいのではないかな、と思うんですけどね。

    収益で保育士・介護士の待遇を改善

    ――税収の使い道としてはどのような形を想定していますか。

    保育士や介護士の給料が安いので、カジノからの収入で国が補填できたらいいですね。一から決められる新しい税収なわけですから、あえて使い道を限定して。

    それから、カジノの運営はできるだけ日本企業にやってほしい。果実を外資に渡してしまうのはもったいないですよ。

    ディーラーの教育にしても、イカサマ防止のシステムにしても、日本の能力で問題なくできるはず。だけど、どうもそういう風には動いていないように見えますね。

    どんな力が働いているかわからないけど、どうしても外資を絡ませないといけない理由があるんでしょうか?

    五輪後のディストピア

    ――劇中の日本は東京オリンピックの後に不況に陥り、経済格差が大きく広がっています。誇張はあるにせよ、あり得る未来だなと思ってしまいました。

    オリンピックが終わって不況が来るっていうのは、よく言われる説ですよね。

    映画ほどひどくなることはないだろうけど、そういう極端な世の中になってしまったっていうところからスタートしないと、今回の『カイジ』の物語は始まらないので。

    僕はザクッと「不況」「帝愛カジノ」「ゲームの内容」といった状況を脚本に書いただけで、細かいところは決めていない。あの世界観をつくりあげてくれたのは佐藤東弥監督だと思います。

    苦しい時代でも…

    ――派遣やギグエコノミーなど不安定な働き方が広がるなかで、労働者が使い捨てにされるような映画の描写にはリアリティーを感じました。

    今でもすでに、そういうところがありますよね。それがもっと進んでいった時に、映画のなかで起こるようなことを政府が画策する。

    でも、そういう苦しい時代でも、みんなでまとまって助け合って頑張ろうぜ!というエールが映画にはあります。

    「30歳までは漫画にくれてやる」

    ――『カイジ』には名言がたくさんあります。負けを知っている人間でなければ出てこない言葉だと思うのですが、福本さんにもそんな時代があったのでしょうか。

    《胸を張れっ…! 手痛く負けた時こそ…胸をっ…!》


    (『賭博黙示録カイジ』第155話)

    《明日からがんばるんじゃない…今日…今日だけがんばるんだっ…! 今日がんばった者…今日がんばり始めた者にのみ…明日が来るんだよ…!》


    (『賭博破戒録カイジ』第7話)

    アシスタント時代は落ちこぼれでしたね。それでも、20代のころは「30歳までは漫画にくれてやる」と思ってました。30歳までの自分の人生を、ポンと賭けたんです。

    才能あるとかないとか、そういうことに一切、迷わない。悩まない。ただ一生懸命描いていくだけ。そんななかで、新人賞を獲ったり、マイナー誌の仕事をもらってきたりしてました。

    漫画家として成功するか失敗するかわからないけど、やるだけのことはやろうと。

    自分の武器を考えて

    ――なかなか芽が出なくても、自分を信じ続ける。

    『カイジ』を始めたのが37歳ぐらい。その前から『アカギ』とか『銀と金』とかヒットはありましたけど、本格的に売れたのは『カイジ』からだと思います。

    自分の武器は何なのか?っていうことを考えてやっていけば、どんな人にも成功のチャンスはあると思っています。

    単に「真面目に労働する」というだけじゃなくて、いろいろ考えていかなきゃダメ。こういう商売がいいんじゃないかとか、もっとこんな風にしてみたらどうだろうとか。

    そうやって考え続けられた人は、いつか成功の道、成功のあり方に気がつけるんじゃないかな?

    〈福本伸行〉1958年12月10日生まれ。神奈川県横須賀市出身。1979年、『よろしく純情大将』で漫画家デビュー。1996年に『賭博黙示録カイジ』の連載をスタート、1998年に講談社漫画賞を受賞。シリーズ累計の発行部数は2100万部を超える。代表作に『最強伝説 黒沢』『天 天和通りの快男児』『アカギ 〜闇に降り立った天才〜』『銀と金』など。