JASRACが映画音楽の徴収強化へ 福井健策弁護士の見解は

    「パーセンテージ制は合理的だが…」

    映画音楽の上映使用料の規定を抜本的に見直す方針を決めた、日本音楽著作権協会(JASRAC)。外国映画1本あたり18万円という現行の定額制を改め、映画館から興行収入の1〜2%を徴収することを目指している。著作権に詳しい福井健策弁護士に見解を聞いた。

    パーセンテージ制自体は合理的

    ――JASRACは外国映画の上映使用料について、18万円の定額制から興行収入の1〜2%に変更し、これまで支払いを担ってきた配給業者ではなく、映画館から直接徴収したい意向を示しています。

    興行収入によるパーセンテージ制自体は合理的だと考えています。大ヒット作でも18万円定額はさすがに安過ぎるでしょう。

    舞台やコンサート、放送、ウェブなどほかの分野では、むしろ収入比例が原則になっているケースが多い。その際、個別に徴収するのは大変なので、団体が包括的な処理をしてその分安くする、ということも珍しくありません。

    とはいえ、長年続いたルールには恐らく背景がある。それに基づいて様々なビジネスが組み上がっている以上、現場が混乱しないよう、導入するとしても段階的にする必要はあると思います。

    音楽教室とは 「問題の性質が違う」

    ――6月に音楽教室での演奏について著作権料を徴収すると発表したばかりです。音楽教室に続いて映画館もかと驚きました。

    ひとつの問題が解決する前に、次へ次へと進んでいくのはアグレッシブな感じがしますね。従来から課題と目されていて、現場の反対が強くて進まなかったことを、一気に棚卸ししている印象を受けます。

    ただ、上映使用料の件は音楽教室とは問題の性質が違いそうです。

    音楽教室の問題は、実質的に「教える」という行為に権利が及ぶのか否かが問われる大転換。それに比べると、今回は権利が及んでいることは間違いない。そのうえで、いくら取るかという話ですから。

    現場の負担考え実証ベースの議論を

    ――JASRACは映画館が閉館せざるを得なくなるような事態は「まったく望んでいない」としていますが、ミニシアターが立ち行かなくなったり、チケットが値上げされたりすれば、反発が広がることも予想されます。

    街の映画館が潰れてしまうとか、「バカらしくてやっていられない」というようなことがあってはいけない。現場にとって過剰な負担になっていないか、しっかりと見ていく必要がありますね。

    事業者の側も単に「苦しい」というだけではなくて、積極的にデータを開示していく方がいい。そのうえで、適正な相場がどれぐらいなのか、実証ベースで協議していくことです。

    コンサートとの比較は

    ――興行収入の1〜2%という数字は妥当なのでしょうか。

    1〜2%が適正かどうかについては、検討が必要です。

    たとえばコンサートの場合、入場料×会場の最大キャパシティー× 80%を「想定興行収入」とします。80%は原則で、年間契約を交わしたりすると、これが50%になる。

    そして、想定興行収入の5%がコンサートの場合の使用料になります。つまり、最大キャパの何%ぐらい埋まるか、最初に想定してしまうんです。

    上映の場合も個別に興行収入を確認するのは難しいので、この想定興行収入的なものを使う可能性がありますね。

    映画は脚本家や映像をつくる人にも使用料を払わないといけないですから、音楽の寄与度は相対的に下がる。それも踏まえて1〜2%が適切なのかどうか、ということですよね。

    テレビと同じでOK ?

    ――放送との比較ではいかがでしょう。

    放送の場合は放送事業収入全体の1.5%。今回の1〜2%とほぼ同じです。放送に合わせたというよりは、1〜2%だという西欧基準に合わせたのかな、とは思いますが。

    「映画も放送も同じ映像ビジネスなんだから、1.5%でちょうどいいんじゃないか」という意見もあるかもしれないけど、テレビ局と中小の映画配給では利益率が比較にならない気もします。

    「羽振りのいいテレビの世界の常識を映画の世界に持ち込まれても困るよ」という声が出てくる可能性もある。

    それぞれのビジネスごとの利益率や、どれだけの権利者の間で対価を配分しなければいけないのか。そうしたことに基づいた議論が必要です。

    「諸外国は諸外国」

    ――映画音楽の上映使用料に関しては、10年以上前から欧米の団体から強く要望があったそうです。

    権利者団体のなかでも、特に音楽は諸外国の団体とのつながりが強くて、その影響が大きいようです。

    JASRACは欧米を見て、「諸外国はこうだからもっと上げよう」という印象が強いですが、諸外国は諸外国の歴史や事情でやっていることです。

    各分野、高めで取れている国の水準に互いに合わせていけば、世界的にどんどん徴収額が上がっていくことになりますから、それだけを理由にはできないでしょう。

    ヨーロッパ至上主義には疑問も

    ――著作権の保護期間延長問題でも、海外団体からの影響が大きかったそうですね。

    そもそも欧米での保護期間延長は、権利者団体のロビイングの産物です。

    欧米は過去の遺産があり、古い著作権で稼ぐことができる。そうした国々が「著作権をもっと長期にしろ」「世界的にもっと徴収しなきゃイカン」と主張するのはまだしも合理的です。

    しかし日本は、特に古いコンテンツでは大輸入超過国です。日銀の2016年のデータでは、著作権使用料の国際収支は過去最大の年8645億円もの赤字になっています。

    もしJASRACが日本も同じ立場だと考えているのだとしたら、ちょっと勘違いがあるのかなと。青くさい話になりますが、そうしたヨーロッパ至上主義に対しては疑問がありますね。

    欧米こそが世界水準であり優れているという発想ではなくて、日本固有のビジネスの事情も踏まえて議論をしていくべきではないでしょうか。

    JASRACは権利者だけの代理人なのか

    ――外国映画の上映使用料が安く済むのなら、日本のユーザーとしてはむしろありがたい話かもしれません。JASRACが権利者の団体である以上、そうしたユーザー目線を期待するのは難しいのでしょうか。

    JASRACは権利者だけの代理人ですか、という点は今まさに問われていると思います。万人が発信者で万人が利用者という時代に、権利を集中管理しているわけでしょう。それはやっぱり公益的性格を持っていますよね。

    著作権自体が公益性と切っても切り離せない制度です。準公共財と言われる情報財を使っているわけで、管理にあたっては当然に一定の公益性を求められる。

    「いやいや関係ない。私益団体です」というならそういう扱いを受けるだけの話ですが、それはJASRACの真意ではないはずです。

    権利の集中管理の重要性が年々増しているからこそ、ユーザーを含めて広く社会を見ることを期待したいですね。

    パーセンテージ自体は合理的だと思いますが、現場やユーザーに悪影響が出ないよう、実態を踏まえて次第に変えていくような運用が求められるのではないでしょうか。

    (ふくい・けんさく) 弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部・神戸大学大学院 客員教授。1991年、東京大学法学部卒業。1993年に弁護士登録。米コロンビア大学法学修士課程修了。2003年に骨董通り法律事務所を設立。内閣「知的財産戦略本部」など政府委員を歴任。著書に『18歳の著作権入門』(ちくまプリマー新書)、『誰が「知」を独占するのか -デジタルアーカイブ戦争』(集英社新書)など。

    BuzzFeed JapanNews