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【全文】「ものすごい悲惨な状態で、心の底から怖い」ダイヤモンド・プリンセスに乗り込んだ医師が告発動画

新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船した、神戸大学教授の岩田健太郎医師が、船内の感染症対策のずさんさを告発する動画をYouTubeに投稿した。

新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に感染症の専門家で神戸大学教授の岩田健太郎医師が2月18日に乗船し、船内の感染症対策のずさんさを告発する動画をYouTubeに投稿した。

ダイヤモンド・プリンセスはCOVID-19製造機。なぜ船に入って一日で追い出されたのか。」と題する動画は65万回以上再生され、Twitterのトレンドにも入るなど、大きな反響を呼んでいる。

乗船までの経緯

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岩田健太郎 / Via youtu.be

「ダイヤモンド・プリンセスはCOVID-19製造機。なぜ船に入って一日で追い出されたのか。」

告発動画の全文は下記の通り。

岩田健太郎です。神戸大学病院感染症内科教授をしていますけれど、いまからお話しする内容は神戸大学など所属する機関とは一切関係なく、私個人の見解です。あらかじめ申し上げておきます。

きょう2月18日に「ダイヤモンド・プリンセス」に入ったんですけども、1日で追い出されてしまいました。なぜそういうことが起きたのかについて、簡単にお話ししようと思います。

もともとダイヤモンド・プリンセスはすごくCOVID-19の感染症がどんどん増えているというとで、感染対策がうまくいっていないんじゃないかという懸念がありました。

(日本)環境感染学会が入り、FETP(実地疫学専門家養成コース:Field Epidemiology Training Program)が入ったんですけど、あっという間に出ていってしまって。中がどうなっているか、よくわからないという状態でした。

で、中の方からいくつかメッセージをいただいて、「すごく怖い」と。「感染が広がっていくんじゃないか」ということで、私に助けを求めてきたので、いろんな筋を通じて何とか入れないかという風に打診してたんですね。

そうしたら昨日、2月17日に、厚労省で働いている某氏から電話があって、「入ってもいいよ」と。で、やり方を考えましょう、ということでした。

最初は環境感染学会の人として入るという話だったんですけども、環境感染学会はもう中に人を入れないという決まりをつくったので「岩田一人を例外にできない」ということでお断りをされて。

結局、DMAT(厚生労働省の災害派遣医療チーム:Disaster Medical Assistance Team)ですね。「災害対策のDMATのメンバーとして入ったらどうか」というご提案を厚労省の方からいただいたので、わかりましたと。

奇妙な電話

18日の朝に新神戸から新横浜に向かったわけです。そうしたら、途中で電話がかかってきて、「誰とは言えないけども、非常に反対している人がいる。入ってもらったら困る」ということで。

DMATのメンバーとして入るという話は立ち消えになりそうになりました。すごく困ったんですけど。「何とか方法を考える」ということで、しばらく新横浜で待っていたら、また電話がかかってきて。

DMATの職員の下で、感染対策の専門家ではなくて、DMATの一員としてDMATの仕事をただやるだけなら入れてあげるという、非常に奇妙な電話をいただきました。

なぜそういう結論が出たのかわからないですけど、「とにかく言うことを聞いてDMATの中で仕事をしていて、だんだん顔が割れてきたら感染のこともできるかもしれないから、それでやってもらえないか」という非常に奇妙な依頼を受けたんですけど。

ほかに入る方法がないものですから、わかりましたと言って現場に行きました。そしてダイヤモンド・プリンセスに入ったわけです。

入ってご挨拶をして、最初は「この人の下につけ」と言われた方にずっと従っているのかな?と思ったら、DMATのチーフのドクターとお話をして、そうすると「お前にDMATは何も期待してない。どうせ専門じゃないし」ということで。

「お前は感染の仕事だろう。だったら感染の仕事をやるべきだ」ということで助言をいただきました。DMATの現場のトップの方ですね。

あ、そうなんですかと。私はとにかく言うことを聞くと約束してましたので。「感染のことをやれ」と言われた以上はやりましょう、ということで。現場の案内をしていきながら、いろんな問題点を確認していったわけです。

エボラもSARSも怖くなかったが…

それはもう、酷いものでした。この仕事20年以上やってきてですね。アフリカのエボラとか、中国のSARSとか、いろんな感染症と立ち向かってきました。

もちろん身の危険を感じることは多々あったわけですけど、自分が感染症にかかる恐怖っていうのは、そんなに感じたことがないです。

どうしてかっていうと、僕はプロなので。自分がエボラにかからない方法、SARSにかからない方法は知ってるわけです。あるいは他の人をエボラにしない、SARSにしない方法とか。

施設の中でどういう風にすれば、感染がさらに広がらないかっていうことを熟知しているからです。それがわかっているから、ど真ん中にいても怖くない。

アフリカにいても、中国にいても怖くなかったわけですが、ダイヤモンド・プリンセスの中はものすごい悲惨な状態で、心の底から怖いと思いました。これはもう、COVID-19に感染してもしょうがないんじゃないかと、本気で思いました。

レッドとグリーンがぐちゃぐちゃ

レッドゾーンとグリーンゾーンっていうんですけど。ウイルスがまったくない安全なゾーンと、ウイルスがいるかもしれない危ないゾーンをキチッと分けて。

レッドゾーンではPPEという防護服をつけ、グリーンゾーンでは何もしなくていいと。こういう風にキチッと区別することによって、ウイルスから身を守るのが我々の世界の鉄則なんです。

ところが、ダイヤモンド・プリンセスの中はですね、グリーンもレッドもぐちゃぐちゃになっていて、どこが危なくて、どこが危なくないのか、まったく区別がつかない。

どこにウイルスが…ウイルスって目に見えないですから、完全な区分けをすることで、初めて自分の身を守るんですけど。もう、どこの手すり、どこのじゅうたん、どこにウイルスがいるのか、さっぱりわからない状態で。

いろんな人がアドホックにPPEをつけてみたり、手袋をはめてみたり、マスクをつけてみたり、つけなかったりするわけです。

クルーの方もN95(高性能マスク)をつけてみたり、つけなかったり。熱のある方が自分の部屋から歩いて医務室に行ったりするということが、通常で行われているということです。

「御法度」がまかり通る

私が聞いた限りでは、DMATの職員、それから厚労省の方、検疫官の方がPCR陽性になったという話は聞いてたんですけど、それは「むべなるかな」と思いました。

中の方に聞いたら、「我々、自分たちも感染すると思ってますよ」と言われて、ビックリしたわけです。

どうしてかというと、我々がこういう感染症のミッションに出る時は、必ず自分たち医療従事者の身を守るっていうのが大前提で。

自分たちの感染のリスクをほったらかしにして、患者さんとか一般の方々に立ち向かうっていうのはご法度。ルール違反なわけです。

環境感染学会やFETPが入って数日で出て行ったっていう話を聞いた時に、どうしてだろう?と思ったんですけど、中の方は「自分たちが感染するの怖かったんじゃない」とおっしゃっていた人もいたんですが。

その気持ちはよくわかります。なぜならば感染症のプロだったら、あんな環境にいたら、ものすごく怖くてしょうがないからです。僕も怖かったです。

いま某、ちょっと言えない部屋にいますけど、自分自身も隔離して、診療も休んで、家族とも会わずに…。でないとヤバイんじゃないかと、個人的にはすごく思っています。

聞く耳を持たない官僚

いま私がCOVIDウイルスの感染を起こしても、まったく不思議はない。どんなにPPEとか手袋があっても、安全なところと安全じゃないところをちゃんと区別できていないと、そんなものは何の役にも立たないんですね。

レッドゾーンでだけPPEをキチッとつけて、それを安全に脱ぐということを遵守して初めて、自らの安全が守れる。自らの安全が保障できない時に、を守れないときに、他の方の安全なんか守れない。

きょうは藤田医科大学に人を送ったり、搬送したりするので皆さんすごく忙しくしてたんですけど。検疫所の方と一緒に歩いてて、ひゅっと患者さんとすれ違ったりする。

「ああ、いま患者さんとすれ違っちゃう」と笑顔で検疫所の職員が言ってるわけですね。我々的には超非常識なことを、平気で皆さんやってて。みんな、それについて何も思ってないと。

聞いたら、そもそも常駐しているプロの感染対策の専門家が一人もいない。時々いらっしゃる方はいるんですけど。彼らもヤバイなとは思っているんだけど、進言できないし、進言しても聞いてもらえない。

やっているのは厚労省の官僚たちで、私も厚労省のトップの人と話をしましたけれども、ものすごく嫌な顔をされて聞く耳を持つ気がない。

「何でお前がこんなところにいるんだ」「何でお前がそんなことを言うんだ」みたいな感じで、知らん顔すると。非常に冷たい態度をとられました。

「岩田にムカついた人がいる」

DMATの方にも「夕方のカンファレンスで提言を申し上げてもよろしいですか」と聞いて、「いいですよ」という話はしてたんですけど。

突如として夕方5時ぐらいに電話がかかってきて、「お前は出ていきなさい。検疫の許可は与えない」と。臨時の検疫官として入ってたんですけど、その許可を取り消すということで、資格を取られて検疫所の方に連れられて。

当初電話をくれた厚労省にいる人に会って、「何でDMATの下でDMATの仕事をしなかったんだ。感染管理の仕事はするなと言ったじゃないか」と言われました。

「DMATの方に、そもそも感染管理してくれと言われたんですよ」という話をしたんですけど、「とにかく岩田に対してすごくムカついた人がいる。誰とは言えないけどムカついた。お前はもう出ていくしかないんだ」という話をしました。

「でも、僕がいなくなったら、今度は感染対策をするプロが一人もいなくなっちゃいますよ。構わないんですか?」と聞いたんですけど。

このままだと、もっと何百人という感染者が出て、DMATの方も…DMATの方を責める気はさらさらなくて。あの方々は、まったく感染のプロではないですから。

どうも環境感染学会の方が入った時に色々言われて、DMATの方は感染のプロたちにすごく嫌な思いをしたらしいんですね。それは申し訳ないなと思うんですけども。

アフリカや中国より全然酷い

別に彼らが悪いとは全然思わない。専門領域が違いますから。しかしながら、彼らがリスクの状態にいるわけです。自分たちが感染する。

それを防ぐこともできるわけです。方法はちゃんとありますから。ところがその方法さえ知らされずに、自分たちをリスク下に置いていると。そしてそのチャンスを奪い取ってしまう、という状態です。

彼らは医療従事者ですから、帰ると自分たちの病院で仕事をするわけで。今度はそこから院内感染が広がってしまいかねない。

もうこれは大変なことで、アフリカや中国なんかに比べても全然酷い感染対策をしているし、シエラレオネなんかの方がよっぽどマシでした。

日本にCDC(疾病管理予防センター)がないとは言え、まさかここまで酷いとは思っていなくて。

もうちょっと専門家が入って、専門家が責任をとって、リーダーシップをとって、ちゃんと感染対策についてのルールを決めてやっているのだろうと思ったんですけど。まったくそんなことはないわけです。

もう、とんでもないことなわけです。これ拙い英語で収録させていただきましたけれども、とにかく多くの方にダイヤモンド・プリンセスで起きていることをちゃんと知っていただきたいと思います。

できるならば学術界とか国際的な団体が、日本に変わるように促していただきたいと思います。

SARSの時の方が「はるかに楽」

考えてみると、2003年のSARSの時に、僕も北京にいてすごく大変だったんですけど。特に大変だったのが、中国が情報公開を十分してくれなかったっていうのが、すごくつらくて。何が起きているのかよくわからないと。

北京にいて本当に怖かったです。でも、その時ですらもうちょっとキチッと情報は入ってきたし、少なくとも対策の仕方は明確で。

SARS死亡率10%で怖かったですけれども、今回のCOVID、少なくともダイヤモンド・プリンセスの中のカオスの状態よりははるかに楽でした。

思い出していただきたいので、COVIDが中国・武漢で流行り出した時に、警鐘を鳴らしたドクターがソーシャルネットワークを使って、これはヤバイということを勇気を持って言ったわけです。

昔の中国だったら、ああいうメッセージが外に出るのは絶対許さなかったはずですけど。中国は今、BBCのニュースなんかを聞くと、オープンネスとトランスペアレンスをすごく大事にしているとアピールしています。

それがどこまで正しいのか僕は知りませんけど、少なくとも透明性があること、情報公開をちゃんとやることが国際的な信用を勝ち得る上で大事なんだということは理解しているらしい。

中国は世界の大国になろうとしていますから、そこをしっかりやろうとしている。ところが、日本はダイヤモンド・プリンセスの中で起きていること全然、情報を出していない。

院内感染が拡大するリスク

院内感染が起きているかどうかは、発熱のオンセットを記録してカーブをつくっていく統計手法、エピカーブというのがあるんですけど。そのデータを全然とってないということを、きょう教えてもらいました。

PCRの検査をした日をカウントしても、感染の状態はわからないわけです。

このことも厚労省の方に何日も前に申し上げていたんですけど。全然されていないと。

要は院内感染がどんどん起きていても、それにまったく気づかなければ、対応すらできない。専門家もいない。ぐちゃぐちゃな状態になったままにいるわけです。

このことを日本の皆さん、世界の皆さんが知らないままになっていて。特に外国の皆さんなんかは、悪いマネジメントでずっとクルーズの中で感染のリスクに耐えなければいけなかったということですね。

失敗の隠蔽はもっと恥ずかしい

これは日本の失敗なわけですけど、これを隠すともっと失敗なわけです。確かにまずい対応であることがバレるのは恥ずかしいことかもしれないですけど、これを隠蔽するともっと恥ずかしいわけです。

やはり、情報公開は大事なんですね。誰も情報公開しない以上は、ここでやるしかないわけです。

ぜひこの悲惨な現実を知っていただきたいということと、ダイヤモンド・プリンセスの中の方々、それから、DMATやDPAT(災害派遣精神医療チーム:Disaster Psychiatric Assistance Team)や厚労省の方、あるいは検疫所の方が、もっとちゃんとプロフェッショナルなプロテクションを受けて、安全に仕事ができるように。彼ら、本当にお気の毒でした。

ということで、まったく役に立てなくて非常に申し訳ないなという思いと、この大きな問題意識を皆さんと共有したくて、この動画をあげさせていただきました。

岩田健太郎でした。

UPDATE

岩田健太郎医師は2月20日朝に動画を削除。Twitterで「動画は削除しました。ご迷惑をおかけした方には心よりお詫び申し上げます」「これ以上この議論を続ける理由はなくなったと思います」とコメントした。

動画は削除しました。ご迷惑をおかけした方には心よりお詫び申し上げます。