『今日から俺は!!』のヤンキー高校生、『弱虫ペダル』のクールな自転車部員…。
漫画原作のキャラクターを巧みに演じ、鮮烈な印象を残してきた伊藤健太郎だが、実は「原作を読み込みすぎない」というマイルールを課しているという。
やはり漫画を原作とする映画『とんかつDJアゲ太郎』(10月30日公開、二宮健監督)で主人公のライバルDJ役を演じる伊藤に、その理由を聞いた。
生身の人間が演じる意味
――あえて原作を読まないようにしているというのは本当ですか。
そうですね。僕らが演じているのはアニメではないので。
――その割には『今日から俺は!!』の伊藤真司も、今回の『とんかつDJアゲ太郎』の屋敷蔵人も再現度が高くて「そのものじゃん!」と思ってしまいました。
台本がつくってくれた人物像があったので、それに沿ってやらせてもらっただけです。実写化する以上は「実写化した意味」を見出さないといけない。その責任があると思うんです。
完全に漫画の通りにやってしまったら、あまり実写化する意味がないと思って演じています。
――だったら漫画を読めばいい、ということになってしまいますもんね。
漫画に沿わないといけない部分は、衣装部さんやメイクさん、監督がつくってくれる。生身の人間が演じる意味っていうものは、僕らが出さないといけないと思います。
大切なルーツ
――主人公・アゲ太郎の師匠、DJオイリーは「ルーツを知って継承していく。そうやってクラブカルチャーは続いていくんだよ」と語っています。伊藤さんが大切にしている「ルーツ」はありますか。
地元の仲間ですね。中学・高校の時に仲の良かった友達は、やっぱり一番大事です。
そこから自分自身、伊藤健太郎というものができあがったので、それを忘れたら多分ひどい人間になってしまう気がします。
初舞台の「魔物」
――劇中のセリフでは「初舞台に棲む魔物に勝って、みんな一人前になっていく」という言葉も印象的でした。伊藤さんはドラマ『昼顔』がデビュー作ですが、うまく「魔物」に打ち勝てましたか。
いや、全然ですよ。芝居の“し”の字もわからない状態で怒られていたので、なんで怒られてるのかわからなかった。
「違う」と言われても何が違うのかわからないし、その説明をされても「何を言ってるんだろう?」みたいな。
悔しさが原動力に
――それでも続けてこられたのはなぜでしょう。
初めて受けたオーディションに落ちて、すごく悔しかったんです。悔しさだけで、ほかの感情は何もなかった。
「この悔しい気持ちがなくなったら、芝居をやめてもいい」ぐらいな感じだったんですけど。
その悔しさはいまだになくなりませんが、気づかないうちに(芝居を)すごく好きになっていたというか。だから10代のころは「超楽しい!」みたいな思いはあまりなかったんです。
挫折を挫折と思わない
――意外でした。カメレオンのように様々な役になりきっているので、すごく器用な方なのかなとばかり。
いえいえ、とんでもないです。
――映画でアゲ太郎は大きな挫折を経験しますが、伊藤さんにもそういう体験があったのですね。
後付けになっちゃいますけど、それはすごくあったと思います。
ただ、端から見たらたぶん挫折なんでしょうけど、自分ではあんまり挫折と思ってないんですよ。割と気楽な気持ちだから続けていられる、っていうのはあるかもしれません。
〈伊藤健太郎〉 1997年生まれ、東京都出身。モデルを経て、2014年にテレビドラマ『昼顔』(フジテレビ系)で俳優デビュー。近年、ドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)や連続テレビ小説『スカーレット』(NHK)など、話題作に出演。映画『コーヒーが冷めないうちに』で、2019年の日本アカデミー賞の新人俳優賞と話題賞を受賞した。今年も映画『今日から俺は!! 劇場版』『弱虫ペダル』など出演作が相次いで公開され、注目を集めている。