これが「死んだ目」に見えますか?

    池松壮亮と蒼井優が出演する映画『宮本から君へ』が公開された。原作・新井英樹、監督・真利子哲也。池松は生気ほとばしる熱演で、主人公・宮本浩になりきっている。

    人気漫画の映画化には、いつも不安がつきまとう。

    物語を台無しにされてしまうのではないか。キャスティングが的外れだったらどうしよう。原作が優れていればいるほど、失望との落差は大きくなる。

    が、こと『宮本から君へ』に関しては、そんな心配は無用だ。熱苦しいほどに熱く、滑稽なほどにまっすぐ――。すべてにおいて過剰な男、宮本浩が確かにスクリーンで躍動している。

    宮本だ。宮本がいる…! 池松壮亮の文字通りの熱演は、「手に汗を握る」という言葉が、比喩でも慣用句でもないことを教えてくれる。

    奥に生命力がみなぎってる

    ――かつて、「死んだ目のできる俳優」として評価されたこともある池松さんですが、『宮本から君へ』では生のエネルギーがみなぎっていました。死んでいるどころか、生ききっているじゃないかと。

    だいぶ前に「あの世代の俳優は目が死んでいて素晴らしい」みたいに言われたことがありました。

    でも心のなかでは、この奥に生命力がみなぎってるぞと、若かりし池松は思ってましたね。

    ――めっちゃいい話。

    一方で、僕が2010年代に前向きでハツラツとした目をすることは絶対にできなかった。それは自分にウソをつくことになるから。俺はウソをつきたくないだけだって思ってました。

    当時から『宮本から君へ』を池松と真利子哲也監督でという話はあって。どこでメラメラするべきか、メラメラすることで説得力を持たせることができるのかっていうのは、ずっと考えてた気がします。

    死んだ目を売りにしたことなんて一度もないし、死んでないって。

    僕ら世代が演じていた欲の深さ。感度の高い人だったら、逆に嫌な生命力を感じてくれたんじゃないかなと。

    生きすぎてないか?

    ――ちゃんと生きてるだろ?と。

    生きすぎてないか? 生きようとしすぎじゃないか?みたいな。

    ――今回の『宮本』を見たら、「死んだ目」なんて言う人はいなくなると思いますよ。

    決して言われたくないってことではないんですけどね。反論としては、まあそういうことです。

    圧力は存分に感じてますよ

    ――主人公の宮本は度を越した熱血漢ですが、原作が描かれた90年代初頭に比べても、いまの時代は熱い人間が疎まれる傾向にある気がします。空気を読むことを強いるような風潮に対してはどう思いますか。

    そういう圧力はもう存分に感じてますよ。僕自身に限らず、映画界自体そういう場所になってしまったし。

    意地やこだわりといったものが、ないがしろにされすぎている。本当にこだわりを持った職人さんたちが、どんどん敗れていく姿を目の当たりにしてきましたから。

    要はこだわりだとか、時間的にもお金的にも面倒くさいことみんなで排除しましょうってことでしょ。完全に時間とお金ですよ。

    人間ファーストじゃないと

    ――突き詰めたら。

    はい。ただ、僕は映画をやっている以上、そこに反発しなければいけないとは思っていて。

    これからますます、機械化も進んでいくでしょう。そりゃあ人間よりAIの方が面倒くさくないですよ。簡潔だし時間もかからない。生産性も上がる。

    でも、目に見えないヒューマニズムみたいなものは、絶対に屈しないと信じてやっていくべきだと思うんです。まず人間ファーストじゃないと、何かが狂っていく。

    日本の自殺率ってすごいでしょ。毎年2万人以上の人が、何かに追い込まれて亡くなっていくわけじゃないですか。それを異常とせずして…ということですよ。

    『宮本から君へ』って人間回帰の物語。こういう時代の変わり目のタイミングで、この作品にかかわることができたのは、なんとなく理にかなっている、つながっていると思うんです。

    一晩だけの達成感

    ――池松さんは過去のインタビューで「人生に対する欲望はすごくある」とおっしゃっていますが、いまの一番の「欲望」は何ですか?

    なんでしょうね。いつだって自分の欲望が目に見えたためしはないし、言葉にできたためしもないんですけど…。

    たとえば『宮本から君へ』を終えて、ものすごい達成感があったのって一晩だけだったんですよ。

    あー、やっと終わった!って。自分を褒めてあげたいとまでは思えなかったけど、ほんの一晩だけ。

    自分が宮本とリンクしているからでもあるのですが、結局、何も救えなかったなと。なんなら無力感がさらに増してしまったような感覚すらあったんですね。

    YouTubeでこの動画を見る

    スターサンズインフォ / Via youtu.be

    映画『宮本から君へ』本予告

    映画の終盤、宮本はウィニングブルーのような感じになります。星とか見上げちゃったりして。

    でも、自分の人生振り返るとずっとそうで。欲深いというか、浸ればいいのに、浸れない。全然そういう回路になれないんですよね。

    『宮本』やったら5年ぐらい働かなくていいや、あるいはもう最後でもいいやと思ってやりましたけど、撮影から1年ぐらいたって、じゃあ次は何をやるかって考えてるし。

    浸れない男の「次」

    ――欲深さゆえに浸れない。

    みんなそうだと思うんですけどね。どの時代だって、どの国だって、どの街だって、みんなその日その日の何かを探しているでしょ。多分、愛を探しているんでしょうけど。

    それが人間。僕は多分、人よりもそれが強過ぎて…。そういう自分に嫌気が差すことも多々あるんですけどね。

    ただし、ちょっと頑張りすぎた感じはあるので、これから3年ぐらいは期待しないでほしいなと思ってます。

    ――この映画を見て、期待するなっていう方が無理ですよ(笑)

    『宮本』はもうぜひ見てもらいたいんですけど、僕個人を見てくれている人がいるんだとしたら、3年ぐらいは期待しないでほしいですね(笑)

    池松壮亮(いけまつ・そうすけ) 1990年7月9日生まれ。福岡県出身。2001年、ミュージカル『ライオン・キング』で俳優デビュー。2003年、『ラスト・サムライ』で映画初出演。以降、『紙の月』『愛の渦』『万引き家族』など話題作に数多く出演。日本アカデミー賞・新人俳優賞、エランドール賞・新人賞、高崎映画祭・最優秀主演男優賞、ヨコハマ映画祭・最優秀助演男優賞など受賞歴多数。最新作『宮本から君へ』が、9月27日から新宿バルト9ほか全国で公開中。