「無許可でダンス」警察が有名バー立ち入り 風営法の拡大解釈に経営者は反発

    ロバート・デニーロやヒュー・グラント、ノエル・ギャラガーも来店

    ダンスクラブ「青山蜂」の風営法違反容疑での摘発で波紋が広がるなか、警察側がさらなる取り締まりの強化へ動き出した。

    六本木のショットバー「GERONIMO東京」に警視庁麻布署の捜査員が立ち入り、「客が踊っていた」と指摘。無許可営業の疑いがあるとして、経営者の呼び出しを要請したのだ。

    店内にはDJブースはおろかダンスフロア、ミラーボールもなく、改正風営法で許可取得が義務付けられた「特定遊興飲食店」に該当しない可能性が高い。経営者は「ただのバーにまで許可取得を求めるのは、法律の拡大解釈ではないか」と異議を唱えている。

    無許可でダンスをさせてはいけない

    BuzzFeed Newsは、GERONIMOを運営する「モガンボ」代表の田中雅史さん(49)と警察に対応した担当者に取材した。

    2月15日の午前3時過ぎ、スーツ姿の警察官4人が店を訪れた。当時、田中さんは不在。電話連絡を受けた担当者があわてて別の店舗から駆けつけると、警官の1人からこう告げられた。

    無許可でダンスをさせてはいけない。お客さんが踊っているところを確認したので

    当時、店内にいた客は15人ほど。担当者が見る限り、うち数名が音楽に合わせて体を軽く揺らしているだけだった。

    「これぐらいで取り締まるんですか」と食い下がったものの、「あなたが来る前にはもっと踊っていたんですよ」と言われ、警察署への呼出状を手渡された。

    呼出状には、こんな風に書かれていた。

    貴営業所に立入りを実施したところ、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反(無許可)があり、お尋ねしたいことがありますので、次によりおいでください。

    デニーロやヒュー・グラントも来店

    GERONIMOがオープンしたのは1994年。欧米を中心とする外国人客が8割を占める。外国人観光客向けの口コミサイトでも「東京で最高のバー」「素晴らしく楽しい雰囲気」などと高い評価を誇る。

    ロバート・デニーロやヒュー・グラント、オアシスのノエル・ギャラガーら海外セレブも多く訪れる有名店だ。

    風営法に定められた「深夜酒類提供飲食店」としての届出も済ませており、警察からこうした指導を受けたのは、開店24年で初めてのことだったという。

    突然の立ち入りに、田中さんはこう憤る。

    「健全な営業に努めてきたのに、無許可と言われたのは心外です。海外のお客さんは、音楽が鳴れば体を動かすのが普通。いちいち『踊らないで』と肩をたたいてまわれとでも言うのでしょうか」

    「ダンスが目的のお店ではなく、そういう構造にもなっていない。数人のお客さんが肩を揺らしていただけで、『踊っている』『無許可だ』というのは行き過ぎだと思います」

    「ダンス」の文字は消えたが…

    戦後長らく、風営法では、客にダンスや飲食をさせる営業が「風俗営業」として扱われてきた。

    無許可営業には2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科され、仮に許可を取ったとしても、営業時間は原則午前0時まで。深夜営業のクラブはすべて「違法」とみなされてきた。

    2010年以降、警察の取り締まりの強化で閉店に追い込まれるクラブが続出。利用者やミュージシャン、経営者らによる法改正運動が巻き起こり、2015年に改正法が成立、法律から「ダンス」の文字は消えた。

    そもそも「遊興」って何?

    改正風営法で、ダンスに代わってフォーカスされたのが「遊興」という概念だ。

    深夜に酒を提供し、遊興をさせる店は、特定遊興飲食店として営業許可を取ることが求められるようになった。無許可営業には、やはり2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科される。

    条文は、特定遊興飲食店を次のように定義している。

    「特定遊興飲食店営業」とは、ナイトクラブその他設備を設けて客に遊興をさせ、かつ、客に飲食をさせる営業(客に酒類を提供して営むものに限る)で、午前六時後翌日の午前零時前の時間においてのみ営むもの以外のもの(風俗営業に該当するものを除く)をいう。

    では「遊興をさせる」とはどういうことか。

    警察庁の解釈運用基準は「営業者側の積極的な行為によって客に遊び興じさせる場合」を規制対象とし、具体例として下記のようなケースを挙げている。

    ・ 不特定の客にショー、ダンス、演芸その他の興行等を見せる行為

    ・ 不特定の客に歌手がその場で歌う歌、バンドの生演奏等を聴かせる行為

    ・ 客にダンスをさせる場所を設けるとともに、音楽や照明の演出等を行い、不特定の客にダンスをさせる行為

    ・ バー等でスポーツ等の映像を不特定の客に見せるとともに、客に呼び掛けて応援等に参加させる行為

    DJブースもダンスフロアもないのに

    風営法に詳しい藤森純弁護士は「GERONIMOにはDJブースやダンスフロア、ミラーボールがなく、『設備を設けて』という条文の要件に当てはまらない」と指摘する。

    「解釈運用基準の『客にダンスをさせる場所を設けるとともに、音楽や照明の演出等を行い』という具体例にも該当しておらず、店側が積極的に働きかけて客に遊興をさせたとは言い難い。特定遊興飲食店に該当するとして取り締まるのは、行き過ぎではないでしょうか」

    加えて、GERONIMOではショーや生歌、生演奏、スポーツの映像を流すこともしていない。とすると、警察は何をもって特定遊興飲食店にあたると判断したのだろう。

    麻布署に問い合わせたが、「個別の捜査に関することで、お答えする段階にない。通常、記者クラブ加盟社以外には対応していない」という理由で無回答だった。

    「バーや居酒屋まで対象に」

    田中さんは2011年、経営していた別のサルサバー「スダーダ」を風営法違反容疑で摘発された経験を持つ。20年近い歴史を持つ老舗として多くの愛好家に親しまれてきたが、この一件で閉店を余儀なくされた。

    旧風営法のダンス営業規制に疑問を抱き、改正運動に参加。超党派の国会議員によるダンス文化推進議員連盟や政府の規制改革会議、警察庁の有識者会議などでも、風営法の問題点を訴えてきた。

    それだけに、今回の警察の対応には納得できない思いが強い。

    「法改正前に逆戻りしてしまった印象。現場の警察官は、警察庁や議連の議論とは別の方向に進んでいる。このままでは、普通のバーや居酒屋まで特定遊興飲食店ということにされかねません」

    周回遅れの対応

    青山蜂は特定遊興飲食店のエリア外で、許可を取りたくても取れない状況だった。GERONIMOは対象エリアに入ってはいるが、取得するつもりはないという。

    許可取得には、行政書士の費用など少なくとも数十万円がかかる。事業者にとって決して小さくない負担だ。

    だが、それ以上に田中さんが危惧しているのは、警察に際限のない拡大解釈を許すことで、ほかの店に悪影響が及ぶことだという。

    「営業エリアが狭く制限されているなかで、特定遊興飲食店の定義だけが拡大解釈されれば、閉店せざるを得ない店も増える。歴史ある店や個性的な店が潰れてしまうことは、六本木の街にとって大きな損失です」

    「遊興」という概念の曖昧さや、捜査当局による拡大解釈の懸念は、法改正をめぐる国会審議でも散々指摘されてきたことだった。

    改正法の成立から2年半以上を経たいまなお、今回のような「周回遅れ」の対応がなされているのが風営法をめぐる実情だ。

    「風営法の改正では、スピード感を大事にしてきました。その点は非常に評価できますが、エリアや遊興の解釈など積み残された問題も多い。さらなる法改正やアップデートも考えていく必要があると思います」

    BuzzFeed JapanNews