全国に約2200店舗あるミニストップをはじめ、イオングループ傘下の約7千店舗が来年から成人誌の取り扱いを中止する。BuzzFeed Newsは『エロ本黄金時代』の共著者で、エロ本事情に詳しいノンフィクション作家の本橋信宏さんに話を聞いた。
コンビニのおかげでかろうじて命脈
――今回の発表以前から、エロ本業界は危機的な状況だったそうですね。
2000年代以降、『ビデオボーイ』『デラべっぴん』の英知出版、かつて色川武大も在籍した司書房、吉行淳之介が編集者をしていた東京三世社などの老舗出版社が、相次いで倒産・廃業しました。
1980年代から90年代半ばぐらいまでは、駅裏で夫婦で営んでいたような小さな書店がエロ本の売り上げのメインでした。
なぜかエロ系の品揃えが豊富でね。店主はオヤジやおばあさんだから、買うのも恥ずかしくなかった。
早稲田あたりの古書店も、埴谷雄高や太宰治に混じってビニ本を置いていたりして。店主も背に腹はかえられなかったんでしょうね。
だけど、書店の大型化の波に飲まれて、駅裏にあったような零細書店は壊滅してしまいます。
そこで主戦場となったのが24時間営業のコンビニです。コンビニのおかげでエロ本はかろうじて命脈を保っていたと言えます。
「自主的な取り組みに任せるべき」
――頼みの綱のコンビニで排除の動きが出てきました。きっかけは千葉市の働きかけでした。
コンビニの一角であるミニストップが販売をやめるというのは、非常に深刻な問題です。行政はできるだけ立ち入らず、自主的な取り組みに任せるべきだと思いますね。
2020年の東京五輪に向け、「クリーン東京」的なイメージづくりのなかで、さらにエロ本が排斥されるのではないかと危惧しています。業界最大手のセブンイレブンがどう出るかが大きいでしょうね。
エロ本に限らず、本や雑誌には集客能力があります。デパートなんかでも、上層階にある書店を目指してお客さんがやってきて、そのうちの何割かが買い物をするわけでしょう。
コンビニも同じで、雑誌には集客ツールとしての側面がある。たとえエロ本コーナーであっても、真夜中お客さんがいれば防犯効果が期待できるのではないでしょうか。
県境越えたデンジャラスな思い出
――エロ本の思い出は。
僕は埼玉の所沢出身ですが、中高生のころはわざわざ県境を越えて、東京の東村山まで行ってエロ本を買ってました。東京まで来れば知り合いもいないだろうと。
アヘンの密売みたいなデンジャラスな感じ(笑)。そういうところも引っくるめて、エロ本の魅力であり、醍醐味でしたね。東村山に行くたびに、当時のことを思い出しますよ。
――コンビニで売られているエロ本は、際どいものは少ない印象です。
コンビニで売るようになって、表紙やレイアウト、体裁もガラッと変わりました。面だしで目立つように、一番の売り文句を上の方に持ってきて、タイトルは少し下に下がった。
表紙は露骨な裸にはできないからとお尻を前面に押し出したおかげで、「尻ブーム」が起こったこともありました。
読者の高齢化が進んだこともあって、人妻・熟女ものが増えましたね。熟女モデルはギャラが安く使いやすい、という面もあるようです。
高齢化するエロ本読者
――やはり読者も高齢化しているんですね。
だいたい60代以上じゃないですか。50代なら若手の方でしょう。
若い人はもっぱらネットのサンプル動画。「エロはタダで見るもので、お金をかけるものじゃない」と思っているんでしょう。
いくら店頭で売らないようにしたところで、ネット上にはよっぽど刺激的なものがありますからね。いきなり無修正で見られちゃうし。
――エロ本の付録にDVDが付いているというよりも、DVDの付録に本が付いているような薄い雑誌も多いですね。
それはありますね。昔はオリジナルの撮り下ろしが中心だったけど、いまは経費の問題で写真を使い回しているから。自分で首を絞めてしまっている部分はあるかもしれません。
ネットの普及が影響
――ネットがエロ本の衰退に拍車を掛けているのでしょうか。
エロに限らず出版全体が不況ですよね。1996年をピークにずっと部数が落ちている。ウィンドウズ95の登場やネットの普及は大きいと思います。
最近ではみんなスマホで見るものだから、小さい画面のなかでジャマにならないように、AV男優が小柄になってきています。
加藤鷹や日比野達郎は大柄だったけど、いまはみんな身長が小さい。存在を主張しないように、能のシテみたいにひたすら無言で行為に及んでいますよ。
100万部単位で売れた黄金時代
――エロ本黄金時代には、どれぐらい売れていたのですか。
1980〜90年代には、英知出版から出ていた『ビデオボーイ』『ベッピン』『すっぴん』『デラべっぴん』の4冊だけで、月間100万部を超えることもありました。
東京三世社の『オレンジ通信』や白夜書房の『写真時代』、コアマガジンの『お宝ガールズ』も数十万部単位で売れていたはずです。
――当時はエロ以外のコラム欄なども充実していたとか。
裸さえ載っけておけば、何をやってもいい。あまった金で好きなことをやろうという雰囲気でした。
読むに耐えないものも多かったけど、なかにはホームラン級のものもありましたね。
平岡正明や上杉清文も文章を書いていたし、『AV女優』の永沢光雄もそういうところから出てきた。『AV女優』は立花隆や小林信彦といった文化人にも絶賛されました。
日活ロマンポルノから周防正行監督や根岸吉太郎らの才能が出てきたこととも通じる部分があるかもしれません。
エロ本やAV業界には、学生運動の経験者や演劇系の人が大勢いた。インテリが多かったんですよ。
自販機本にも、サブカルっぽい雑誌がたくさんありました。
千円札を入れると、しばらくしてから「…ゴットーン!」ってでっかい音がして。ヤバイと思って周囲を見渡すっていう(笑)。いまもかろうじて残ってますけどね。
エロ本はなくなる?
――このままエロ本はなくなってしまうのでしょうか。
人間の本質を表したものだから、なくなりはしないでしょう。
「紙がいい」「手もとに置いておきたい」という人は一定数いるし、雑誌には確固たる存在感がある。希少性のある、骨董的な価値としてのエロ本は残り続けると思いますよ。
(もとはし・のぶひろ) 1956年、埼玉・所沢生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。著書に『全裸監督』(太田出版)、『裏本時代』『AV時代』(幻冬舎アウトロー文庫)など。『エロ本黄金時代』(河出書房新社)は東良美季との共著。最新刊は『新橋アンダーグラウンド』(駒草出版)。