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タトゥー裁判のクラウドファンディング始まる 亀石倫子弁護士「司法を身近に」

「手弁当が美徳とされるような時代ではないと思うんです」

医師免許なく客にタトゥーを入れたとして、医師法違反の罪に問われた彫り師の増田太輝さんが3月1日、裁判費用を募集するクラウドファンディングをCAMPFIREで始めた。弁護団の主任弁護人を務める亀石倫子弁護士も活動をサポートする。

刑事裁判の被告人が、弁護士の協力のもとにクラウドファンディングを立ち上げる事例は、国内では珍しい。亀石弁護士は「司法が身近な存在になり、社会からの支援が広がれば」と話している。

「タトゥーは芸術」異例の法廷闘争

「タトゥーを彫ってますね。免許がないと医師法違反ですよ」――。増田さんは2015年、客3人にタトゥーを入れたとして警察の摘発を受け、在宅起訴された。

医師法17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めており、違反すれば3年以下の懲役か100万円以下の罰金、もしくはその両方が科される。

増田さんは「タトゥーは芸術。医師資格が必要だというのはおかしい」と、簡易裁判所からの罰金30万円の略式命令を拒否。正式裁判で無罪を主張していたが、昨年9月に大阪地裁で罰金15万円の有罪判決を受けた。

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「表現が永遠に奪われてしまう」

今回のクラウドファンディングは、控訴審の訴訟費用を募るものだ。4月20日までに300万円を集めることを目指す。

寄付をした人には、裁判の進捗状況がメールで送られるほか、金額によって「Facebookページに支援者として名前が載る」「控訴審の判決文を含む最終報告書を受け取れる」といったリターンがある。

増田さんは募集ページでこんな風につづっている。

私は、自分を表現する手段として、そして、自分の生き方としてタトゥーを彫ることを選び、この仕事に誇りをもって生きてきました。このままでは、私たちの仕事が、タトゥーという表現が、永遠に奪われてしまいます。

私たちが安心して働けるようになるために、これからも裁判で戦い続けたいと思っています。どうかご支援いただけますよう、よろしくお願いいたします。

「あきらめたくない」

BuzzFeed Newsは、プロジェクトを側面支援する亀石弁護士に狙いを聞いた。

クラウドファンディングを思い立ったのは、大阪地裁での有罪判決を受けた後。増田さんと相談して立ち上げを決めたという。

「一審で敗けて、本気でやらないとダメだと痛感しました。泣きながらも次に打つ手を考えて。あきらめたくない。やるしかない、と」

控訴審に向けて憲法学者や医事法の研究者らと対話を重ね、海外の法規制の実情についても調査してきた。

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感銘受けた米判決

なかでも感銘を受けたのが、彫り師の表現の自由を認めた、2010年の米連邦高裁の判決だ。

ペンとインクを使った描画とタトゥーの違いは、単に紙の上に描くか肌の上に描くかの違いにすぎない。

タトゥーを彫る過程とできあがったタトゥーを分けて、前者は表現でないというのは、ピカソから筆とキャンバスを、ベートーベンの楽曲からその演奏を切り離して論じるのと同じである。

独立宣言がペンとインクなしには書けなかったように、タトゥーはそれを彫る過程なくしてはできあがらないのであり、創作過程とできあがった作品は不可分一体の表現としてとらえなければならない。

彫り師の表現の自由は

一方、大阪地裁の判決では、彫り師がタトゥーを入れることは「当然に憲法21条1項(表現の自由)で保障された権利であるとは認められない」とされた。

亀石弁護士は「一審判決はタトゥーを入れるお客さんには表現の自由が保障され得るとしながら、彫り師の側の表現の自由を認めていない。彫り師がいなければ作品ができないのに、これはおかしい」と話す。

「米英独仏の4ヶ国5都市を調査しましたが、タトゥー施術の許可制や届出制などはあっても、医師免許を要求する例はありませんでした。控訴審では外国の実情についても立証していくつもりです」

海外での調査や翻訳には、百万円単位のお金がかかる。クラウドファンディングで得た資金は、こうした費用にも充てられるという。タトゥー愛好家に限らず、幅広く支援を呼びかけたい考えだ。

「彫り師やタトゥーに関心のある人たちだけの問題ではありません。ここで声をあげないと、ほかの様々な表現も排除される社会につながっていくのではないかと懸念しています」

「自腹」が当然でいいの?

亀石弁護士は、令状なしのGPS捜査を違法とする最高裁判決を勝ち取り、ダンスクラブの風営法違反事件などでも無罪判決を得た経験を持つ。華々しい実績とは裏腹に、常々悩まされてきたのが裁判費用の問題だ。

裁判費用といっても、弁護士が受け取る着手金や報酬の話ではない。こうした人権問題の訴訟は無償が当たり前。活動にかかる最低限の実費すら、弁護士の持ち出しでまかなわざるを得ない実情があるという。

「裁判記録のコピー代や、専門家に会いに行くための交通費、文献を集める調査費用…。被告人個人にはとても負担できない額がかかるので、弁護士たちが自腹を切ってきました」

急増する弁護士、失われる余力

司法制度改革を受けて、弁護士の数は急増した。日本弁護士連合会の統計によると、2月現在の弁護士数は4万人に達し、10年前の2万5千人の1.6倍に膨らんだ。一方で訴訟件数は横ばいのため、一人あたりの収入は減少傾向にある。

「たとえお金にならなくても、社会のためにやらなきゃいけない仕事がある。昔は黙っていてもお客さんが来たので、弁護士にもそうした案件を引き受ける余力がありました」

「いまだに『人権問題や公益活動は手弁当でやるものだ』みたいな風潮がありますが、特に若手弁護士には余裕のない人も多い。『手弁当』が美徳とされるような時代ではないと思うんです」

司法を身近に

問題意識を深めていた矢先、英国のクラウドファンディングのプラットフォーム「CrowdJustice」の存在を知った。

CrowdJusticeは訴訟費用の寄付集めに特化したサービスで、法律家によって設立された。過去に移民問題や選挙区改革などの事例を取り扱っている。

日本でも同じことができないか。模索の末に決断したのが今回のクラウドファンディングだった。今後、ほかの訴訟にも広がっていくことを期待している。

「たとえば、サイボウズ社長らが選択的夫婦別姓を求めた例や、女子高生の『黒染め強要』訴訟など、国や行政を相手どった裁判は、クラウドファンディングに馴染みやすいのではないでしょうか」

「訴訟戦略や当事者の思いをサポーターの方に伝えていくことで、司法を身近に感じてもらえると思うんです」

訴訟だけでなく社会活動にも

訴訟以外の社会活動でも、法曹の存在感は増してきている。

「ダンス営業を規制していた風俗営業法の改正運動では、弁護士が中心になってロビイングをしました。風俗で働く女性のために、弁護士らが無料の法律相談をする『風テラス』のような取り組みもあります」

「こうした活動を持続可能な形で展開していくために、クラウドファンディングを活用してもいいかもしれません。より良い社会のための活動に、社会からの支援が広がっていくといいですね」

BuzzFeed JapanNews


Ryosuke Kambaに連絡する メールアドレス:ryosuke.kamba@buzzfeed.com.

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