「コンボイの謎」を30年ぶりに返しに行った結果www

    名前の書かれた「トランスフォーマー コンボイの謎」の謎を追って


    プレゼントにもらった大事なソフトだから。絶対に借りパクされないように…。

    子どものころ、お気に入りのゲームソフトにサインペンで名前を書いた経験のある人も多いのではないでしょうか。

    もしも、そのソフトが30年ぶりに自分のもとに戻ってきたとしたら?

    名前入りカセットを収集・返却する活動に取り組む「名前入りカセット博物館」が、ファミコンソフト「トランスフォーマー コンボイの謎」を元の持ち主へ届ける様子を取材しました。

    米国での「出会い」

    「名前入りカセット博物館」を運営しているのは、Nintendo Switchで「偽りの黒真珠」などのソフトを販売する「ハッピーミール株式会社」の社長、関純治さん(45)。

    子どものころからファミコンが大好きで、1991年ごろからソフトを買い集め始めました。当初の目標は、全タイトルのコンプリート。

    ところが、2003年10月、米サンディエゴのゲーム店で見つけたNES(海外版ファミコン)の「リンクの冒険」をきっかけに、コレクションの方向性を大きく転換することになります。

    ジャンク品が宝の山に

    その「リンクの冒険」の裏側には、「Teresa」と持ち主と思しき名前が書かれていました。

    美品を求めるコレクターにとっては、本来ならば邪魔でしかないもの。ですが、関さんはなぜか、心動かされるものを感じました。

    「アメリカの人も名前を書いてる。日本だけじゃなく、世界共通の習慣だと気づいた時に、こっちの方を集めたいという気持ちになったんです」

    「ジャンク品」であるはずの名前入りソフトが、「宝の山」に変わった瞬間でした。

    1千本以上を収集

    「僕自身、昔なくして返ってきてほしいソフトがある。せっかくだから、集めたソフトを元の持ち主に返せないか」

    そんな思いが募り、2016年1月からはソフトの持ち主を探す「名前入りカセット博物館」としての活動もスタートさせました。

    収集したカセットのタイトル、メーカー、発売日、持ち主の名前などの情報をまとめ、写真を添えてサイトにアップ。各項目で検索もできるよう、データベースを整えました。

    これまでに収集したソフトは実に1千本以上、うち900本超をネットに公開しています。

    ついに持ち主が判明

    ただ、残念なことに、これまで実際に返却に至ったケースはゼロ。

    関さんも「完成しないサグラダ・ファミリアみたいに、ずっと持ち主が見つからない方がいいのかも…」と弱気になりかけていました。

    そこで今回、BuzzFeedが「名前入りカセット博物館」の協力を得て徹底調査したところ、ようやく1本のソフトの持ち主が判明したのです。

    特定できたのは、裏面に「はぎうださとし」と書かれた「トランスフォーマー コンボイの謎」。

    ご本人に取材の約束を取り付け、東京・世田谷にある博物館で待ち合わせることになりました。

    「新手の詐欺かと…」

    本当に来てくれるのだろうか…。関さんと記者(神庭)がドキドキしながら待っていると、呼び鈴が鳴りました。

    「こんにちはー!」という元気のいい挨拶とともに現れたのはスーツ姿の男性。はぎうださとし=萩生田智さんです。

    「すごいですね。これ全部、名前が入っているんですか?」

    館内に所狭しと置かれた名前入りソフトを見て、驚く萩生田さん。関さんも、感動の対面に興奮を隠せない様子です。

    「最初にメッセージをもらった時は、新手の詐欺かと思いました」と萩生田さんが笑います。

    母の字に感動

    「すごい! これ、母の字です。嬉しいですね」

    ソフトを手にとって見てもらうと、萩生田さんから歓声があがりました。

    萩生田さんは36歳の会社員。「コンボイの謎」で遊んでいたのは小学校低学年のころなので、約30年ぶりの「再会」となります。

    「私が友達同士でよくカセットの貸し借りをしていたので、無くならないように母が気を利かせて名前を書いてくれたんだと思います」

    子どもにしてはやけに端正な字だと思いましたが、お母さんの字ということであれば納得。「コンボイの謎」の謎がひとつ解けました。

    捨てたはずのソフトが

    萩生田家は両親ともゲーム好きで、「ドラゴンクエスト」などをプレイしていたそう。萩生田さんも幼いころは4歳上のお兄さんと一緒に、ゲームに夢中になっていたといいます。

    しかし、次第に関心はスーパーファミコンの方へ。ファミコン本体が壊れてしまったこともあり、たくさんあったソフトも母親がすべて処分したそうです。

    捨てたはずのソフトを誰かが拾い、中古ゲーム店などに売却。どこかのタイミングで関さんが購入したことになります。

    30年の間には、きっと何度も持ち主が変わっていることでしょう。長旅を経て、今また元の持ち主である萩生田さんの目の前に帰ってきたと考えると、不思議な縁を感じます。

    伝説の無理ゲー

    「コンボイの謎」は1986年に発売された、ファミコン用のアクションゲーム。61万本を売り上げた名作(迷作?)です。

    「ゲーム開始2秒で死亡する」と言われる激ムズソフトで、当時の子どもたちを阿鼻叫喚の渦に叩きこみました。

    萩生田さんは「すごく難しくて、1面の最初の方までしか行けませんでした。兄が1面のボスまで行っているのを見たことがあるぐらいです」と述懐します。

    3秒で爆死

    それではいよいよ、30年ぶりに無理ゲーっぷりを味わってもらいましょう!

    ソフトが起動するか心配でしたが、萩生田さんがスイッチを入れると、一発でスタート画面が立ち上がりました。

    悪の軍団「デストロン」から地球の平和を守るため、「サイバトロン」のウルトラマグナスが闘いを挑むというストーリー

    実はコンボイは主人公ではなく、ウルトラマグナスを指揮官に任命した総司令官の名前なのです。

    張り切ってコントローラーを握る萩生田さん。「懐かしいなあ」という感慨もそこそこに、たった3秒でウルトラマグナスは爆死してしまいました。

    作戦失敗?

    「ヤバイ、ヤバイ!」と叫んでいるうちに、2機目も7秒で死亡。あっという間に3機全滅でゲームオーバーに。

    それでも「何とかボスまでは行きたいです」と奮い立ち、2周、3周とプレイを重ねます。

    プレイヤーが操るウルトラマグナスは、人型ロボットからトレーラーへとトランスフォームすることができ、変身能力の使い分けが攻略の鍵を握ります。

    途中から2プレイモードに切り替え、関さんも参戦。

    なるべく敵と戦わずに先へ進む「逃げるが勝ち」作戦に打って出ましたが、やはりすぐに撃沈してしまいます。館長なのに、いいところなし。

    30年ぶりにボスと対面

    「作戦を変えましょう。攻撃は最大の防御です!」

    勇ましい掛け声のもと、関さんが突如としてアグレッシブに攻め始めました。ザコ敵をガンガン蹴散らし、突き進んでいきます。

    そしてついに、1面のボスが姿を現しました。

    「アイツです。あのボスですよ!」

    30年ぶりのボスとの対面に、萩生田さんのテンションも急上昇。「小学30年生」のようなはしゃぎっぷりです。

    そしてついに、関さんがボスを撃破し、2面まで進むことができました。

    「いやあ、懐かしいですね」と萩生田さん。30年の時を超えたコンボイ体験は、こうして幕を閉じたのでした。

    3つのルール

    「名前入りカセット博物館」は、返却にあたって3つのルールを設けています。

    1. カセットは手渡しでお戻しさせてください。
    2. カセットはあなたの思いの額で買い取ってください。
    3. カセットにまつわるお話をサイトに公開させてください。


    郵送でなく手渡しにこだわるのは、一緒にゲームで遊びながら、思い出話を聞いてみたいから。

    金銭目的の活動ではないので、「思いの額」は1円からで構いません。カセットへの思いの熱量を図る指標のひとつとして、この条件を盛り込んでいます。

    驚きの評価額

    萩生田さんは一体、いくらの値段をつけるのでしょうか。関さんに後ろを向いてもらっている間に、フリップに書き込んでもらいました。

    「せーの」でフリップをめくってもらうと、そこに書かれていた金額はなんと…

    「0円」

    えええーっ! マジですか!?

    一緒にゲーム楽しみましたよね!?

    「すごく懐かしかったです」

    30年ぶりにソフトを手にしたんですよね!?

    「しましたね」

    お母さんの字だって言ってましたよね!?

    「母の字です〜」

    だったらなんで、0円なんですか〜!?

    「いやいや、すみません。ファミコンの本体ないですし、これだけあっても…」

    プライスレス?

    ガックリとうなだれる関さん。萩生田さんは「すみません、すみません」と恐縮しきりです。

    聞けば、取材のオファーを受けた時から、評価額を「0円」にすることは決めていたとのこと。一度は手放したものですし、ある意味で当然の判断と言えるかもしれません。

    むしろ、わざわざ時間を割いて来てくれただけでも非常にありがたい!

    関さんはあきらめ悪く「神棚に飾ってくださいよ〜」と食い下がっていましたが、最後は「プライスレスってことですよね?」と無理やり納得していました。

    挑戦は終わらない

    結局、「コンボイの謎」は引き続き、名前入りカセット博物館で保管することとなりました。

    返却第1号はお預けとなってしまいましたが、「楽しかったし、思い出も聞けて面白かったです」と関さん。

    「いつでも遊びに来てください!」と萩生田さんに呼びかけていました。

    思い出はプライスレス。名前入りカセット博物館と関さんの挑戦は、まだまだ続きます。