体をまさぐり、無理やりキス…クラブでの痴漢は「仕方ない」ことなんかじゃない

    「クラブで踊るために必要なのは、良い音楽だけだろうか」

    「電車の中や路上だったら犯罪行為になるのに、クラブの中だからってだけで、痴漢行為が仕方ないこととしてまかり通ってしまうのはなぜ?」

    クラブ内で痴漢に遭遇した女性の訴えをきっかけに、対応改善を求める1300人以上の署名運動が集まり、業界も対応に動き始めた。

    ダンスフロアで何人もの女性に…

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    ライター、マーケターのタニムラリサさんは5月24日の金曜日の夜、友人らと東京都内のあるクラブへ遊びに行った。

    午前3時をまわったころ、メインのダンスフロアに怒声が響き渡った。男が何人もの女性に痴漢行為をしているのを、タニムラさんの友人が見とがめ、言い争いになったのだ。

    事態をのみこんだタニムラさんは、バーのスタッフに頼んでセキュリティ担当者を呼んでもらった。

    「証拠がないので」

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    タニムラリサさん

    「痴漢していた人がいるので早く来てください!」

    少しでも早く対応してもらおうと声をあげるも、セキュリティの動きは鈍く、なかなか取り合ってくれない。

    ようやく痴漢のもとへとセキュリティを連れて行ったが、男の背後に立ち尽くすだけで、声をかけようともしない。

    「なんで何もしないんですか?」と尋ねても、セキュリティは「証拠がないので何もできないです」と言うばかり。

    業を煮やした友人が「何もしてくれないんだったら警察呼びますよ」と告げると、しぶしぶ男を外に連れ出したという。

    痴漢と同じフロアでは踊れない

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    タニムラさんは一連の経緯を26日にTwitterに投稿。クラブ利用者やDJらを中心に拡散された。

    《もしこれがクラブじゃなくて電車の中や路上だったら犯罪行為になるのに、クラブの中だからってだけで、痴漢行為が仕方ないこととしてまかり通ってしまうのはなぜ? もしこれが自分一人の時に起きたら、まともに取り合ってすらもらえなかったのかと思うと本当に怖い》

    これまでにも度々、クラブでの性的嫌がらせを見聞きしてきたというタニムラさんは、BuzzFeedの取材にこう語る。

    「毎週クラブに行くたびに、体を触られたりするんじゃないかと不安でモヤモヤしてきた。被害に遭うのは女性だけではなく、『クラブで女の人に触られた』という男友達もいます」

    「痴漢と同じフロアで、安心して音楽を聴けるかと言ったら絶対無理。ハラスメントをした人は店側が追い出すことが大事だと思います」

    1300人が署名

    change.org

    野依史乃さんによる署名の呼びかけ

    タニムラさんの投稿は思わぬ展開を生んだ。

    ツイートを目にした編集者の野依史乃さんは27日、クラブ側に対応の改善を求める電子署名を募り始めた。

    《クラブと音楽を誰もが楽しむために、クラブ内におけるアンチハラスメントのステートメントを表明/提示することを求めます》

    と題し、下記の4項目を要望している。

    1. 運営会社として、クラブでのアンチハラスメントや反差別のステートメントを表明する
    2. ステートメントを表明した場合、クラブハウス内に掲示するなどといった周知対応を取る
    3. ステートメントを表明した場合、運営するクラブハウスの公式HP上に掲載する
    4. 性被害のみならず、ハラスメントや差別行為が起きたと訴えがあった場合、箱側として対応に尽力する

    募集から1日足らずで500筆を超え、最終的には1300人以上の署名が集まった。

    「ゆる冷笑」に署名で対抗

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    野依さん自身、混雑したクラブ内で外国人男性にキスされる、体を触られる、卑猥な言葉を掛けられる――といった被害に遭った経験がある。

    当時は恐怖感もあり、痴漢のいるフロアから逃げ出すのがやっと。スタッフに訴え出ることまではできなかった。

    タニムラさんと面識はなかったが、ツイートを見て「こんな風にちゃんと行動できるのはすごい」と触発されたという。

    これまでにもクラブでの性被害についてSNSで発信することはあったが、男友達からは「いやいや、ないでしょ」「たまたまぶつかっただけ」「考えすぎだよ」と相手にされなかった。

    「そういう風に、ゆるく冷笑するような態度が加害を助長しているんじゃないか。あえて署名という形をとることで、『本当につらいんだ』『課題なんだ』ということを気づいてもらえたら、と考えました」

    セーフスペースと恋愛は両立する

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    野依さんも「社交の場」としてのクラブの機能を否定する気はまったくない。

    「クラブには、恋愛や信頼関係を結ぶ、心地よい出会いの場としての機能もある。ただ、同意なしに触るとか、無理やり連れ込もうとするのは、恋愛じゃなくて暴力。セーフスペースと恋愛は両立すると思うんです

    署名運動に踏み切ったのも、クラブという空間を愛すればこそ。

    犯罪が起きて警察が踏み込むような事態になる前に、クラブ側が自浄作用を発揮してほしい、という思いゆえだ。

    安心できる空間を

    クラブ側に掲示を求める「ステートメント」とは具体的に、どのようなものを想定しているのか。

    野依さんが署名の呼びかけのなかで引用したのが「ステートメント:クラブに遊びに来てくれる全ての人たちへ」という文章だ。

    ステートメントには、次のようにうたわれている。

    クラブで踊るために必要なのは、良い音楽だけだろうか。

    危険だと感じる場所で音楽に意識を集中することができるだろうか。

    不快な視線に囲まれた場所で、自由に身体を動かす事ができるだろうか。

    同意なしに身体を不必要に触る事や、望まない人に性的な言葉をかける事、差別的な言動などは、他者の権利を侵害するものです。

    安心して精神や身体を解放する事の出来る空間作りの為に一人一人が自分の振る舞いについて考え、実践しましょう。

    全ての人が気持ちよく踊れるような、最高なパーティーを作りましょう。

    本当に良いパーティーとは

    Photo by Sage Kobayashi

    SUPANQ BANQUE/響さん

    文章を起案したのは、DJのSUPANQ BANQUE/響さんと、友人の小林世治さん。2月にあったクラブイベントで、実際にステートメントを掲示した。

    響さんは言う。

    「クラブスペースで同意なく体に触れられた人や、性行為を強要させるような発言を多く耳にしており、日頃から憤りを感じていました。ちょうどその頃、出演するイベントの主催者たちの呼びかけもあり、ステートメントを書きました」

    「ニューヨークやベルリンで人気のあるクラブでは、このようなステートメントが会場やイベントページに掲載されています。時にはバウンサーが入場時に一人ずつ同意を確認する場合もあります」

    「本当に良いパーティーとは、一番傷つきやすい人でも安全だと思える場所ではないでしょうか」

    クラブ側「反省したい」

    ホームページより

    クラブのホームページに掲載された謝罪文

    ネットで批判が広がったことを受け、クラブ側も迅速に動いた。

    5月28日には、ホームページに謝罪文を掲載。

    《泥酔者から痴漢行為を受けたお客様やその友人の方々に対し、迅速で的確な対応が出来なかった為に不快な思いをさせてしまった事を、スタッフ一同、深くお詫び申し上げます》

    《状況を知ったスタッフがセキュリティを直ぐに呼んだものの、セキュリティが移動する途中に別のトラブルが偶然発生し、そちらの対応を余儀なくされ到着が遅れてしまったために、事態の収束に時間がかかる結果となりました》

    と対応の遅れを釈明しつつ、以下のように再発防止を誓った。

    《今後はスタッフ、セキュリティが迅速な対応を取れる様に、情報の伝達方法から問題を起こした者への対処方法までを再度確認致します》

    経営者は取材に対し、「お客様がご立腹されるのもごもっともで、こちらの対応が甘かった。反省すべき点は反省したい」と回答した。

    痴漢、ライブハウスやフェスにも

    提供

    クラブに掲げられたステートメント

    野依さんは5月30日に、その時点で集まっていた約1000人分の署名をメールで提出。翌31日までに、響さんと小林さんのつくったステートメントが同店に掲示された。

    同様のステートメントを掲げる動きは、そのほかのクラブにも広がり始めている。

    告発ツイートをしたタニムラさん。

    署名運動を推し進めた野依さん。

    ステートメントを策定した響さん。

    クラブでの痴漢行為に対して「NO」の声をあげた3人は、今回の問題や店側の対応をどう受け止めたのか。

    「署名運動が広がり、クラブ側が声明を出したことは嬉しい。『ステートメントを貼ったからそれでいい』ではなく、本当にハラスメントのないダンスフロアになってほしい」(タニムラさん)

    今回はたまたまクラブで起きただけで、痴漢問題はライブハウスやフェスでもある。クラブ以外での痴漢もなくなってほしいですね(野依さん)

    「被害者が声を上げたり、『気をつける』のではなく、主催者側が徹底的な姿勢を示していく必要があると思います。今回の一連の動きが、東京のクラブカルチャーがより多くの人にとって『自由』な場所になるきっかけになることを期待しています」(響さん)

    Contact Ryosuke Kamba at ryosuke.kamba@buzzfeed.com.

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