11月の米大統領戦に向け、現地時間8月17日から、民主党の正副大統領候補を指名する全国大会が開催されている。
新型コロナウイルスの影響により、オンラインでの開催となった今回。3日目となる8月19日、前回の大統領選で初の米女性大統領を目指して民主党を率いたヒラリー・クリントン氏が登場した。

前回の敗北宣言を引用
「前回の大統領選の後、私は言いました。『私たちはドナルド・トランプに、偏見のない心と、(国を)導く機会を託します』。あの時、私は心からそう思ったのです」
民主党議員の中には、このフレーズに聞き覚えのある者もいたはずだ。
4年前の2016年11月8日の雨の降る朝、ニューヨーカーホテルでクリントン氏が敗北宣言の時に使った、非常に印象的な一文だ。
クリントン氏は、このフレーズを引用した正確な理由は述べなかったが、意図的ではあったようだ。
しかし、前回の大統領選挙で手痛い敗北を喫した元候補者としての名残は、彼女のシンプルなスピーチからはほとんど感じられなかった。
今回のスピーチは、政策目標を説明するものでもなかったが、クリントン氏は有給家族休暇や「あらゆる人に医療を」と掲げる民主党の優先事項を例に出し、投票するよう有権者らに呼び掛けた。
繰り返された「アメリカを見捨てないで」
ファーストレディー、アメリカ上院議員、国務長官を務め、大統領選に2度出馬して敗北し、現在72歳のクリントン氏。昔ながらの愛国主義、公共サービスの伝統、そして今でも国民に良い刺激を与えられる政治体制について主張した。
「若者のみなさん、アメリカを見捨てないでください」
「欠点や問題もありましたが、私たちはここまでやって来たのです。そして、私たちはまだ、正義と平等の国にいます。今のアメリカは、前の世代の人たちが想像もできなかったような、チャンスに溢れた場所なのです」
クリントン氏の関係者によると、娘と孫が隣に暮らすニューヨーク郊外の自宅でスピーチの原稿を書き始めたとき、彼女には特別なビジョンがあったという。
それは、可能な限り政治用語や陳腐な決まり文句、スローガンを使わず、国民ひとりひとりに向けて前向きなメッセージを伝えたいというものだった。
極めて端的な「アメリカを見捨てないで」というフレーズは、スピーチの中で再三使われていた。
「ドナルド・ドランプが、もっと良い大統領になっていればと思います。なぜなら、今のアメリカは彼よりももっと素晴らしい大統領を必要としているからです」と、クリントンは19日に話した。
「私たちには、ジョー・バイデンとカマラ・ハリスが必要なのです」
カマラ・ハリス氏(55)は、カリフォルニア州選出の上院議員で、初めて主要政党の副大統候補となったアフリカ系・アジア系のアメリカ人女性だ。彼女は、アメリカ政治の強力な象徴として躍り出た。
「今夜私は、カマラ・ハリスがもたらすアメリカの将来に、自分自身を投影している少女や少年たちについて、思いを寄せています」と、クリントン氏は語る。
「もちろん、彼女に対する批判的な意見の1つや2つは、私も知っています」
「しかしカマラは、こうした批判にも対処できる人物です」
クリントン氏とハリス氏は、とりわけ親密な関係ではない。民主党議員の中には、「政界での白人女性の台頭があったからこそ、有色人種の女性の成功がある」という意見にいら立っている者もいるようだ。
しかし、この2人には共通点が1つだけある。どちらも、タイロン・ゲイル氏を補佐官として採用していた。ゲイル氏は2018年にがんで亡くなり、クリントン氏はスピーチの中でゲイル氏を称えていた。
「ジョー・バイデンは、癒しの方法を知っている」
クリントン氏は、オバマ政権で8年間働いていた同僚のバイデン氏に関しても、2人で敗北と家族について交わした会話を思い出しながら語った。
「よく言われる通り、この世では誰もが苦しみを味わいます。そしてその苦しみを経て、強くなれる人も多くいます」
「ジョー・バイデンは、癒しの方法を知っています。これまで、彼が自分で実践してきたからです」
バイデン氏は、最初の妻と長女を事故で亡くしている。同じく民主党員でデラウェア州の司法長官を努めた長男のボー・バイデン氏も、2015年に脳腫瘍でこの世を去った。
有権者への最後のお願いは、極めてシンプルで、直接的だった。自らの敗北を引き合いに出しながら、クリントン氏はアメリカ国民に投票を呼び掛けたのだ。
「今回の選挙は、こうしておけばよかった、ああできたのにな、と後悔する選挙になってはいけません。不在者投票をするなら、すぐに投票用紙を申請してください。そして、出来るだけ早く返送してください」
「直接投票所に行く人は、早く投票するようにしましょう。友人と一緒に、マスクを着けて投票に行きましょう。可能なら、ぜひ投票所係員になってください」
「そして何よりも、何があろうとも、必ず投票してください」
この記事は英語から翻訳・編集しました。