環境NGO「WWF」が内部調査。レンジャーらの人権侵害報道を受け「対処する仕組みがなかった」

    密猟などを取り締まるレンジャーらが、現地住民に対し暴行やレイプ、拷問などを行っていたとされる疑惑について、資金を提供していたWWFが内部調査を行った。人権侵害の報告を黙認したWWF幹部らの責任については触れられていない。

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    Jorge Silva / Reuters

    世界最大級の規模を誇る環境保護団体「世界自然保護基金(WWF)」が、ネパールやカメルーンなどで、地元住民に暴行を加えていた自然保護レンジャーらに資金提供をしていたことが2019年3月、BuzzFeed Newsの取材で明らかになった

    これを受けWWFは2020年11月、160ページにわたる内部調査の報告書を発表した。

    報告書でWWFは「被害に遭った人々に対し、心から深く悲しみを感じている」と述べており、レンジャーらによる暴力行為は「大変恐ろしく、我々が示すすべての価値観に反している」とした。

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    WWF創立50周年を記念し、ドイツ・ベルリンで行われた展示(2013年撮影)。

    レンジャーらによる原住民への暴行、死亡事例も

    自然保護と密猟の取り締まりのため、WWFはアフリカやアジアなど各国で、現地レンジャーを支援してきた。多くの密猟者は武装しており、レンジャーも武装化が進んでいる。

    BuzzFeed Newsが行った機密文書やメールなどの調査、インタビューにより、現地住民に対するレンジャーによる人権侵害行為やWWFが彼らに物資や資金を提供していた実態が明らかになった。

    原住民に対するなたや銃を用いた暴行、住居やキャンプの破壊行為に加え、密猟を疑われた男性がレンジャーらによる拷問を受けて死亡した事例も出ている。死亡事例は、他にも複数ある。

    報道を受けて、WWFはすぐに内部調査を始めた。調査は、元国連人権高等弁務官のナヴァネセム・ピレイ氏が率いた。

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    ナヴァネセム・ピレイ氏(2013年撮影)。

    今回発表された報告書には、新型コロナウイルスの世界的な流行拡大を理由に、調査団は暴行があったとされる場所に渡航できなかったと記されていた。しかし、BuzzFeed Newsが報じたネパールカメルーンコンゴ共和国コンゴ民主共和国でのレンジャーらによる人権侵害疑惑を、報告書は裏付けている。

    「残念ながら、社会政策を実施するという団体のポリシーは、十分にかつ一貫して守られてはいない」と報告書

    特にコンゴ盆地は、人権を守る上でWWFが取り組むべき仕事を「最も希薄に行った」場所だと記載されている。殺人、レイプ、拷問などの疑惑が報告されていたが、WWFの現地事務局はそれらを十分に調査しなかったという。

    コンゴ盆地のWWF事務局は、WWFインターナショナルによる直接の管轄下にあるものの、WWF本部のスタッフがコンゴ盆地での組織の活動について監視することは、ほとんどなかったと記されている。

    理由は、政府関係機関が「否定的な反応を示すことを恐れた」としている。

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    コンゴ共和国のオザラコクア国立公園。

    また内部調査は、WWFインターナショナルが現地事務局に対し、人権保護における明確なガイドラインを提示していなかったとも明らかにした。現地警察などの法執行機関との連携も、規範があったわけではなかったという。

    レンジャーやスタッフの行動規範について、研修の実施、レンジャーらに対する支援、暴行の申し立てへの対応などは、現地の事務局の判断に委ねられる形になっていた。

    「深刻で広範」な人権侵害行為が複数報告された後も、WWFは「エコガード」と呼ばれる現地レンジャーらを技術的・金銭的に支援していたことも、内部調査により明らかになった。

    Mike Goldwater / Alamy

    コンゴ盆地の熱帯林、Messok Djaエリアをパトロールするエコガード。

    「人権侵害の報告に対処する仕組みがなかった」。監視体制の強化を勧告

    ネパールでは2000年代初頭から今年7月まで、拷問、レイプ、殺人などの疑惑が挙がっていた。国立公園の職員が現地住民の若者に暴行を加えたり、住居を破壊したりしたという事例も報告されたが、「反密猟活動中、WWFには不正行為の報告を受ける正式なメカニズムが存在していなかった」と報告書に記載されている。

    少なくとも2018年まで、人権侵害報告に「一貫して総合的に取り組む」ための仕組みが世界各国のWWFネットワークには存在していなかったと、報告書で述べられている。

    報告書で調査団体は、WWFに監視体制を強めるよう勧告した。具体的には人権専門家の雇用、保全事業に着手する前の審査の強化、WWF本部と現地の法執行機関との間で人権侵害に関してルールを設けること、先住民が虐待をより簡単に報告できるように、効果的な苦情処理システムを確立することなどが挙げられている。

    暴行の実態を黙認した疑いのある幹部。団体の責任については触れられず

    過去にWWFが実施した委託調査の報告書では、WWFが支援するレンジャーらの暴力行為がカメルーンで「加速している」と記されていた。

    WWFインターナショナルのマルコ・ランベルティーニ事務局長とドミニク・オニール会長はこの報告を受けていたことが、昨年10月のBuzzFeed Newsの報道で明らかになっている

    BuzzFeed Newsが数々の暴行を報じる前、少なくとも2018年1月の時点で、暴力行為が増加していた実態を、WWF幹部らは黙認していた可能性がある。しかしピレイ氏の報告書では、WWFに暴力行為の責任があるかどうかは言及されていなかった。

    先住民族の権利保護団体「ザ・フォレスト・ピープルズ・プログラム(The Forest Peoples Program)」は、現地の虐待行為をWWFに報告してきた。コーディネーターのヘレン・トゥーゲントハット氏は、これを機に他の自然保護団体も体制を厳しく見直すべきだと語る。

    「報告書に記載されているような、先住民族や地域コミュニティが被っている人権侵害は、WWFだけではなく、自然保護のコミュニティ全体で発生している根本的な問題を浮き彫りにしている」

    「他の保護団体だけでなく、資金提供者たちにも、この報告書をよく読んでもらいたい。そしてこれまでの実績を見直し、修正してほしい」