“繋がらない公衆電話”、アリゾナ州の奥地で人々の心を癒す。発端は東日本大震災の「風の電話」

    どこにも繋がらない公衆電話には、愛する人を失った人々が伝言を届けに訪れる。

    米アリゾナ州ウィッケンバーグ、ハサヤンパ・リバー自然保護区のある場所に、ぽつんと公衆電話が佇んでいる。

    実はこの公衆電話、どこにも繋がらない。

    だが、心の傷を抱えながら自然豊かな川沿いを彷徨う人々の癒しとなっている。

    国道60号線から少し入った場所に設置された公衆電話には、もう二度と会えない人に伝言を届けたり、誰に宛てるでもなく辛い胸の内を打ち明けたりするため、人々が訪れる。

    地元テレビ局KPNXによると、新型コロナウイルスのパンデミックが収束に差し掛かった2022年ごろ、保護区の管理を担当するクリス・マシューズさんが設置した。

    当初は、メンタルヘルス啓発月間である5月の間だけ設置する予定だった。ところが、6月に入って公衆電話を撤去すると、「電話はどこにあるのか」という問い合わせが増えた。

    意外な需要があることを知ったマシューズさんは、公衆電話を無期限で設置することにした。

    「繋がらない公衆電話」の歴史は、東日本大震災を受け岩手県大槌町にある「風の電話」に遡る。

    ガーデンデザイナーの佐々木格(ささき いたる)さんが、震災の前年、自宅の庭園に設置した。元々は、末期がんのいとこと家族を結ぶためのモニュメントだった。

    翌年、大槌町では震災により大きな被害が出た。「風の電話」の存在が報じられると、犠牲者の家族や友人らが続々と佐々木さんの元を訪れるようになったという。

    佐々木さんは、朝日新聞の取材に対し次のように語っている。

    「亡くなった人につながる。天国につながる。そんなことはあり得ないんだと、みんなわかっていてやって来るんです。けれど、かけ終わると『気持ちが伝わったようだ』『電話の向こうで聞いていると感じ取れた』とおっしゃいます」

    「妻を亡くしたある男性は(中略)電話ボックスの中で、大声で泣きながら話していました。あの中は守られた空間なので、感情を爆発させることができます」

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    「風の電話」は2020年に映画化された。出演は西島秀俊、三浦友和ら。

    アリゾナ州の「風の電話」にも、愛する人を失った人々が訪れる。

    「(自然保護区の)常連の一人が、2週間前に来ました。夫が亡くなったのです」と、マシューズさんは話す。

    「1時間ほど経って、彼女は赤く腫れ上がった目をサングラスで覆って歩いて戻ってきました。『またね。夫がよろしくと言っています』と」

    My Wind Phoneというウェブサイトでは、アメリカを中心に、世界中に設置されている「風の電話」のマップを閲覧できる。

    サイトには、辛い経験をシェアできる掲示板もある。「風の電話」に救われたという、感謝の声も書き込まれている。

    サイトの制作者であり、自身も娘を病で亡くしているエイミー・ドーソンさんは、次のように語った。

    「『風の電話』は、あらゆる人に向けたものではありません。でも、それを必要とする人にとって、大きなパワーを持った存在です」