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パラ水泳代表選手「精神面で進歩した」。コロナ禍の苦悩、競技への思いを語る

リオパラリンピックで3つの金メダルを獲得し、東京パラリンピックにも出場予定の水泳アメリカ代表、マケンジー ・コーン選手に話を聞いた。

Sopa Images / SOPA Images/LightRocket via Getty Images

東京2020オリンピック・パラリンピックの開催をめぐって、世論が割れている。

国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)、東京2020組織委員会、東京都、国は海外からの観客を入れずに開催する意向だが、行き先ははっきり見えない。

そんな中、代表選手たちは「今できることを」と練習や調整に励んでいる。

「世界が壊滅的な状態になって、私たち全員の生活が一変しました。特にこの1年で、それを実感しています」

そう語るのは、東京2020パラリンピック、水泳アメリカ代表のマケンジー ・コーン選手(24)だ。

Buda Mendes / Getty Images

マケンジー ・コーン選手。2016年のリオパラリンピック、水泳400メートル自由形で金メダルを獲得した時の写真。

前回のリオパラリンピックでは、50メートル/100メートル/400メートル自由形でそれぞれ金メダルを、4×100メートル自由形リレーでは銀メダルを獲得した。リオ後も世界記録を更新している。

コーン選手の拠点は、メリーランド州ボルチモアにあるロヨラ大学だ。しかし昨年9月から、新型コロナウイルスの影響でコロラド州・コロラドスプリングスにあるオリパラトレーニング施設にて、他の代表選手らと過ごしている。

「隔離生活に近い」状態で、ほぼ毎日新型コロナウイルスの検査を受けているという。

「週に6回です。多いと感じるときもあるけれど、十分理解できます」

「キッチンに立って、ただただ泣いた」

ボルチモアでひとり暮らしをしていたコーン選手は昨年3月、感染拡大によっていったん、ジョージア州にある故郷トコアに戻ることになった。

母親が迎えに来る一週間前。自宅でひとり、ストレスと不安がピークを迎えていた。

「キッチンに立って、ただただ泣いたのを覚えています。何もかもが不確定でしたし、ボルチモアの自宅を離れることや、練習ができないことを考えると…」

Kevin C. Cox / Getty Images

練習のため、実家のガレージにプールを設置した。

それでも、故郷に戻ったことは後悔していないと語る。

「両親と過ごすのに、とてもいい機会でした。プロアスリートとして、普段あまり家族と会う時間を作れませんから」

「以前は遠征に仕事にと、多忙なスケジュールをこなしていました。ほんとうに久しぶりに、実家で親と一緒にいられて良かったです。コロナ禍での希望の光のようなものでした」

コロナ禍でより重要になった、アスリートのメンタルケア

コーン選手は、「水中でのトレーニングと同じくらい、メンタルトレーニングは大切」だと語る。

「世界の舞台で戦うには、精神面でも安定していないといけませんから」

特にパラリンピック選手は、病気や障害への不安と闘うためにも、メンタルトレーニングは欠かせない。コーン選手の場合は、先天性の「骨形成不全症」だ。

骨がもろく、わずかな衝撃で折れてしまう。これまで50〜60回は骨折しているという。

コーン選手はリオパラリンピック以来、月に約2回、スポーツ心理学者とのカウンセリングを練習に組み込んでいるという。共に練習している代表選手たちも、同じスポーツ心理学者が担当しており、皆メンタルトレーニングに励んでいるそうだ。

「精神面では、本当に進歩しました。より多角的な意味で強い選手になったと感じています」

Harry How / Getty Images

コロナ禍で、アスリートにとってメンタルのケアはより大切になった。

練習環境や練習量の変化によるストレス、焦り。先が見通せない状況への不安感。パフォーマンスの舞台がなくなる喪失感。だとしたら、なんのために練習しているのか…?

コーン選手もこの1〜2年、スポーツ心理学とメンタルケアにより頼る必要があったと振り返る。

中でもコーン選手が積極的に実践しているのは、「リフレーミング」だ。

Bsd555 / Getty Images/iStockphoto

リフレーミングとは、ある物事に対する「考えの枠組み」をいったん外し、視点や捉えかたを変える手法のこと。頭の中で「言い換え作業」をし、ネガティブな思考をポジティブな思考に変換する。

コーン選手と同じ施設でトレーニングをしている他の代表選手らも、リフレーミングをメンタルトレーニングに取り入れているという。

「ネガティブな思考になったら、それを受け入れ、『誰も完璧じゃない』『他のみんなにも起こっていること』と捉えなおします。そしてポジティブで生産的な視点に変えて、ネガティブな考えを持ち続けないようにしています」

水泳自体も「一種のセラピーのようなもの」

「いつ骨折するかわからないので、陸ではあまり安心できません。でも水の中では、無重力状態です」

幼い頃は、骨折のリスクについて今ほど理解していなかった。少し無理をしたりふざけたりするたび、怪我をしていたとコーン選手は語る。

「自分に制限があることや、陸上で何ができて何ができないか、昔はよくわかっていませんでしたからね」

「今はもう変わりました。でも初めて水に入って感じたあの自由な感覚は、まだ残っていますよ」

「水中は、私の好きな場所です。間違いなく私の居場所で、自由でいられる場所です」

Buda Mendes / Getty Images

水泳や病気を通して学んだメッセージを、コーン選手は頻繁に発信している。

「適切な方法・適切なマインドセットで実践すれば、なんでもできます。人生における制限は、自分自身でそれを設定してしまったときに生まれるものです」

「誰かをインスパイアできるかもしれないから、(競技をしていて)良かったと思います」

「私のストーリーが、誰かが壁を乗り越える、もしくは夢を追う助けになるといいです」