• lgbtjpnews badge
  • lgbtjapan badge

「葬式専門」を変えたい。僧侶がカラフルな袈裟をまとう理由

同性同士のカップルの挙式を受け入れている、埼玉県川越市の最明寺。そもそも仏教でLGBTはどう考えられているのか?なぜ、お寺で「LGBTウエディング」なのか?副住職の千田明寛さんによると、仏教界も変化しているという。

埼玉県川越市は2020年5月1日、同性同士のパートナーの関係性を証明する「パートナーシップ宣誓制度」を導入した。愛知県豊明市とあわせ、全国で49例目だ。

これに伴い、市内にある最明寺は「LGBTウエディング」のサービスを開始。同性同士のカップルの挙式を受け入れている。

最明寺の副住職・千田明寛さん(32)に、「LGBTウエディング」を始めることになった経緯、仏教界でのLGBTの認識、これからの寺のあり方について、話を聞いた。

インド留学で身に染みた「他者を尊重する心」の大切さ

千田さんによると、日本の仏教は「世界的に見ても特殊で、ガラパゴス化」しているという。インドや中国の僧侶には禁止されている行為、例えば結婚や飲酒などが、日本では許容されている。

そこで「仏教発祥の国で学びたい」と思いたち、2015年から1年間、インド・ナグプールに留学した。

異国で1人。それまで気にしなかった「マイノリティ」という存在に、自分自身がなっていた。ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が人口の大半を占めるインドでは、「僧侶」という存在も稀だった。

しかし、現地の人はとても親切だったという。「困ったことがあればなんでも相談して」と、積極的に手を差し伸べてくれたそうだ。

宗教、人種、生活様式も様々な場所で、現地の人々が摩擦なく過ごしているのを見て、「お互いを尊重しているからこそできる生活」だと千田さんは実感した。日本にいた時は意識しなかった「他者の存在」や「多様性」を、強く意識するようになったと語る。

日本に帰国すると、「LGBT」という言葉を頻繁に耳にするようになった。今年1月には、「さいたまレインボーパレード」にも参加した。当事者団体や参加者に歓迎してもらい、そこで意識が変わったという。

「正直自分の中で、LGBTの方に対する偏見がありました。テレビに出ている、いわゆる『オネエタレント』を見て『こういう人が多いのかな』とか。でも、全くそんなことはありませんでした」

レインボーパレードで出会った人々と交流を重ね、自身もLGBTについて学ぶ中で「何か力になりたい」と考えるようになった。そのタイミングで川越市がパートナーシップ宣誓制度を導入したため、「LGBTウエディング」を最明寺でも始めようと決断したそうだ。

仏教は、LGBTを否定しない

千田さんによると、仏教の根本には「人は皆生まれながらにして平等」だという理念がある。約2500年前、インドで仏教が誕生し、普及したのには、仏教の「カーストの差別を否定する」面が強く影響していたと考えられているという。

カーストに限らず、仏教では一切の差別を否定しており、そこには性別や性的指向、性自認に基づいた差別も「当然」含まれるそうだ。

また、天台宗である最明寺の本尊・阿弥陀如来は「一切衆生(いっさいしゅじょう)を救う」と説いている。これは「性別・職業・身分などに関わらず、生きているもの全てを救う」という意味だという。

差別を否定する仏教の根本理念、そして、全ての人が平等に救われるという天台宗の考え方。「この2重の意味で、LGBTを否定することは絶対にありません」と千田さんは語る。

今でこそ「LGBT」という言葉ができ、認識されているものの、当事者が昔からいたのも事実だ。仏教界でも、かつては男性と女性のみで2分する考え方が主流で、LGBTの存在は「黙殺されてきた部分がある」。

だからこそ、「宗教者として学ばなければいけない」という流れが近年仏教界にも起きているという。

変わる仏教界。やがて訪れる「LGBTの供養・墓問題」

千田さんによると、僧侶を対象にした「LGBT研修会」が頻繁に開かれているそうだ。住職だけでなく、檀家や信者も連なって参加することがあり、千田さんが参加した会には50人ほどいたという。

LGBT当事者を招き、過去の体験や悩みなどについて講演してもらうことが多い。

「お坊さんって、お葬式の時に出てくる人っていうイメージがありますよね。けれど、元来は地域の人から悩み事の相談を受ける役割もあります」

LGBTの相談にも乗れるように、LGBTについて知る。しかし仏教界がLGBTの認知に取り組んでいるのには、もう1つ理由がある。

それは、「LGBT当事者の死後」の問題だ。戒名を女性のものにするか、男性のものにするか。法的に夫婦でなくとも、同性同士のカップルは同じ墓に入れるのか。供養は、墓の管理は、誰がするのか。

10人に1人がLGBTにあたるとも言われている今、LGBTは「決してマイノリティではない」と千田さんは語る。

「お寺として、亡くなった後のことをどうするか、真剣に考えないといけないと思っています。おそらく今後、10年か20年もすれば、LGBTの墓地問題も出てくるでしょう」

「お墓の管理の問題に関しては、同性カップルに限りません。子どもを持たない夫婦もたくさんいますから」

「亡くなった人の供養」だけでなく「生きている人との関わり合い」も大切にしたい

最明寺は、LGBTの支援だけでなく、国際女性デーの啓蒙運動や、乳がん検診を呼びかけるピンクリボン運動も積極的に行っている。

プライドパレードに参加する時にはレインボーカラー、国際女性デーにはミモザ柄、ピンクリボンの活動時にはピンク色の袈裟を着用する。

毎年4月には、自閉症・発達障害者への支援も行っている。自閉症の子どもたちが描く「アウトサイダー・アート」の展覧会を寺で開催し、夜には本堂を青くライトアップする。

新型コロナウイルスの影響で、地域の給食センターの食材が余った時には「フードパントリー」を実施した。余った食材を寺に集め、生活保護を受給している家庭に無料で配った。

こうした活動に精を出すのも、「葬式専門」という寺のイメージを変えたいからだと千田さんは話す。

「仏教に限らず、どの宗教にも言えることだと思うのですが、『亡くなった人に何ができるか』だけではなく、『生きている人たちとどう向き合うか』というのも重要だと思います」

「もちろん、亡くなった人の供養も大切な役目ですが、生きている人の悩みに向き合うのも、お坊さんの大切な役目の1つです」

寺をもっと、「人生を通じて関わっていける場所」にしたい。「LGBTウエディング」を始めた理由の1つに、そんな千田さんの思いもあった。

「LGBTに限らずどんな人でも、気軽に来れるお寺、誰しもが足をはこべるお寺にしたいですね。お寺って入りづらいイメージがありますけれど、そういったイメージを払拭できればいいです」

寺での「LGBTウエディング」には、海外からの問い合わせも

5月1日から始まった「LGBTウエディング」だが、すでに20件以上の問い合わせがあるという。新型コロナウイルスの影響で、実際に挙式を執り行うところまでは至っていないが、見学に来るカップルもいるそうだ。

その中で特に多いのが、海外からの問い合わせだ。例えば、オーストラリアでは同性婚が合法化されているが、地元のカトリック教会では式を挙げられない。そんなオーストラリア人カップルから連絡があった。

同性婚が認められていない中国からは、「できることなら寺で挙式を」と願う仏教徒のカップルの問い合わせもあった。

日本人カップルからは、「神前式を挙げたいが、受け入れている神社が見つからない」という理由で仏前式(寺での挙式)を考えているとの声があったそうだ。また、地元に式場があっても、人には見られたくないという理由で最明寺に連絡する人もいた。

「誰にも見られたくないので、2人だけがいいとか。プライバシーは守られますか、とか。やっぱり、気にされる方がいらっしゃいますね」

最後に、千田さんの願いを聞いた。

「きっと今、カミングアウトできなくて苦しんでいる人もいると思います。そういう人たちが少しでもカミングアウトしやすい、受け入れられやすい文化・街・国になってほしいです」

「お寺にそのお手伝いをさせていただければと思います」

🏳️‍🌈🏳️‍🌈🏳️‍🌈🏳️‍🌈🏳️‍🌈

世界各地でLGBTQコミュニティの文化を讃え、権利向上に向けて支援するイベントなどが開催される毎年6月の「プライド月間」。BuzzFeed Japanは2020年6月19日から28日まで、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「レインボー・ウィーク」を実施します。

【配信中】オトマリカイ@ BuzzFeed News Live あなたのお悩み一緒に考えます🏳️‍🌈 LGBTQの当事者から寄せられた相談について、りゅうちぇるさん(@RYUZi33WORLD929)&ぺえさん(@peex007)と一緒に考えます。 視聴はこちらから👇 #PrideMonth #虹色のしあわせ🌈 https://t.co/H3uXcYtszu

特集期間中は、ハッシュタグ「#虹色のしあわせ🌈」を活用し、さまざまな記事や動画コンテンツのほか、LGBTQ当事者からの様々な相談を、ゲストのりゅうちぇるさん、ぺえさんと一緒に考えるライブ番組を配信します(視聴はこちらから)。

CORRECTION

阿弥陀如来の説明に一部誤りがあったため、修正しました。