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副業で社長をする会社員「2個でも3個でも、拠点はあるだけいい」。コロナ以降のキャリア、どうする?

スノーボードブランド「Lehman Stick」を展開するLehmans株式会社は、メンバー全員が別に本業を持っている。CEOの山田大河さん(28)も、東京拠点の生活から地方へ移住し、上場企業にてフルリモートで働きながら、同社を運営中だ。

フルリモート、地方移住、副業…コロナで働き方が一変した3年。今後のキャリア形成、どうする?

スノーボードブランド「Lehman Stick(リーマン・スティック)」を展開するLehmans株式会社は、全員が別に本業を持つメンバーで構成されている。

スノーボード好きの仲間とともに、「サラリーマンの休日を豊かに」をコンセプトに創業した。

同社は創業2年で数百本のボードを生産、販売。玄人スノーボーダーの2本目、3本目のボードとして人気が高い。

そのようなボードは十数万円することもあるが、Lehman Stickのボードは5万前後だ。海外の工場と直接取引し、自らネット販売をすることで、低価格を実現しているという。

CEOの山田大河さん(28)は、東京拠点の生活から地方へ移住し、メルカリでフルリモートで働きながら、同社を運営している。

山田さんは大学在学中に旅行会社を設立し、22歳で売却した。新卒でIT系大手の会社に入社したが、その後世界を新型コロナウイルスが襲った。

毎日の出社が当たり前だった生活から、フルリモートへと変わった。ほぼ同じタイミングで、山田さんは地方移住を決める。その理由は「スノーボードをしたいから、ただそれだけ」。

せっかく場所に縛られない生活ができるならと、当時頻繁に通っていた群馬県沼田市に家を借りた。

求人情報ウェブサイトWantedlyのアンケート調査では、「在宅で働くなら地方移住もアリだと思う?」という質問に対し約6万人のうち71%が「アリ」だと感心を示している。

「沼田のこともあまり知らなかったし、スノーボード以外で行ったこともありませんでした。でもだからこそ、ある意味『行ったらおもしろいんじゃないか』と思って」と、山田さんは移住を決めた当時について振り返る。

働く場所に、住む場所に、東京に、囚われる必要はない

山田さんは移住後、当時勤めていた会社を退社。スタートアップ企業への転職をはさんで株式会社メルカリに入社し、新規事業開発などを担当している。

その間、神奈川県茅ヶ崎市に家を購入した。沼田ではスノーボードを満喫できるが、夏は海の近くに住んで別の趣味であるサーフィンを楽しみたいというのが理由だ。いわば沼田は冬の住処、茅ヶ崎は夏の住処である。

沼田への移住経験を経て、「住む場所の選択肢のリミッターが外れた」と山田さんは語る。

「地方移住へのハードルが下がったと思います。2個でも3個でも、拠点はあればあるだけいいという発想になりました」

コロナ禍で増加傾向にある副業・兼業

Job総研の調査によると、20〜1000人以上の規模の会社に勤める20〜50代の男女663人中、21.6%が「現在副業・兼業をしている」と回答した。「今後始めたい」と興味を示したのは 89.1%にのぼる。コロナ禍を機に始める人が増えたと、調査結果も結論づけている。

2022年7月、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、働き方改革の一環で副業や兼業の普及を推奨している。同年の経団連の調査によると、回答企業(275社)の70.5%が、副業や兼業を「認めている」「認める予定」と答えた。

山田さんが勤務するメルカリも、社員に副業を推奨している。副業の商談が平日の日中に入っても、メルカリ側にスケジュールを公開して時間を確保できるという。

「メルカリでは自己紹介をするときに、副業についての項目がよく入るくらい、副業をしている人が多いです」

山田さんは平日メルカリで勤務しながら、土日も含め毎日3時間ほど副業に時間を割いている。Lehman Stickの販売会や試乗会が土日にある時は、毎日働きづめのような状態になることもあるというが、二足の草鞋はきっちり履き替えており「ずっと仕事をしているのとは全然違う感覚」だと語る。

中堅社会人…「好きなこと」と仕事との関係は、20代後半で変わる

「たまに冗談で『これ(副業)も仕事だと思うと俺ってものすごく忙しいね』と言うこともありますが、好きなことだから、仕事という感覚はないんです。土日にイベントなどで忙しくても、普通に仲間たちとスノーボードに行っているのと同じ感覚で」

好きなことを仕事にできるのは、ひと握りの人間だけ。好きなことを仕事に、だなんて夢のような考え。好きなことだからこそ、仕事にはしないほうがいい……。趣味と仕事にまつわる議論は、いつも尽きない。

両者のバランスには「いろいろな考え方がある」と前置きしつつ、山田さん自身は「年齢とともに変化した」と話す。

「新卒での仕事に最初から興味があったかというと、違いました。その時は、本気でやれば好きになると思っていて、与えられたものをがむしゃらにこなしていました」

もう1社に勤務したあと、「大好きなスノーボードを仕事にする」ことを前提に動き出す。

スノーボードを仕事にしたい=スノーボードを売らなければならない。「デジタルの世界がすごく好き」という山田さんは、2つをつなげるためにEコマースを理解したいと思い、メルカリに入社を決めた。

「そう考えると、今は本業も副業も『好きなこと』につながっています。頑張ったから好きになるのではなく、今はただ好きなことをやっているだけ。とても心地良いですが、こうなるにはある一定の条件、ある程度のキャリアやスキルが必要だと思うんです」

新卒、もしくは新しい業界に入ってすぐの状態では、経験不足もあって「好きなこと」を100%仕事につなげるのは難しいかもしれない。

だが、中堅社会人に差し掛かる頃には、それなりのスキルや知見も身についてくる。「好きなこと」と仕事との関係を見直すには、絶好のタイミングだ。

「20代後半になれば、それなりに会社の戦力になるし、好きなことを前提に動いてもニーズがある。世の中にインパクトを与えるパワーを備えて、いい感じになってくるのがこのくらいの年齢からなのかもしれないですね」