「日本人どうしではないというだけで、こうも違う…」渡航制限の狭間で苦しむ国際カップルの声

    「会う方法がなく、婚姻届も出せず、ずっと状況が変わらないまま」。新型コロナウイルス感染拡大防止のための渡航制限により、外国籍の恋人や婚約者に長期間会えていない人々がいる。1年以上離れ離れだという2人に話を聞いた。

    新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、世界各国で渡航や入国後の制限などが始まってから、1年以上が経過した。

    世界各地では少しずつ緩和が始まっているが、外国籍の恋人や婚約者に長期間会えないままの人々がいる。BuzzFeedは、外国籍の男性と交際している2人の女性に話を聞いた。

    愛知県在住の廣瀬さん(21)は、インドネシア国籍の恋人デリ・ナンダ・プラヨガさん(26)と、1年2カ月会えていないという。

    2人の出会いは職場だった。デリさんが技能実習生として働いていた会社に、廣瀬さんは中途採用で入社した。

    廣瀬さんは高校卒業後、インドネシアに滞在していた経験があり、インドネシア語が堪能だった。それを知らなかったデリさんがインドネシア語で廣瀬さんに話しかけたところ、母国語で返答があり、驚いていたそうだ。

    そこから交流が始まり、2人は恋人に。2020年4月、3年有効の技能実習ビザの期限が切れるため、デリさんはインドネシアへ一時帰国することになった。

    「帰国か、ビザの延長か、特定技能の切り替えか。彼にはその選択肢がありました」と廣瀬さんは語る。

    「しかし、私たちの会社では技能実習生たちへの待遇が悪く、彼も『日本の会社に信用がない』と言っていました。それだったらインドネシアに帰ったほうがいいと、帰国を提案しました」

    婚姻届も出せず「ずっと状況が変わらないまま」

    帰国の3カ月前、デリさんは廣瀬さんにプロポーズをした。

    「もしコロナがなかったら、2020年5月にインドネシアで婚姻届を出す予定でした。双方の親にも伝え、承認をもらっています」

    しかし、デリさんが帰国してから、2人は一度も会えていないままだ。

    「会う方法がなく、届出もできず、ずっと状況が変わらないままです」

    インドネシアは、日本を含む多くの国と地域からの入国に制限を設けており(6月30日時点)、定住許可のある人やビジネス目的などでの入国のみが可能だ。婚姻関係にないパートナーは、観光ビザの枠組みでの入国になるが、観光ビザは現在認可されていない。

    仮にインドネシアに入国できても、入国後と日本帰国後の隔離期間が足かせになっている、と廣瀬さんは語る。

    「2回の隔離期間分、会社を休めません。有給休暇や土日、お盆休みなど長期の休みを足しても、日数が足りない」

    日本も再入国の場合を除き、外国籍の人の入国はできない状態だ(6月30日時点)。

    例外として「特段の事情」がある人はビザを申請できるが、日本国籍の配偶者や家族がいる場合や、教育ビザ・医療ビザを取得している場合などに限られる。

    #愛は観光ではない

    一方でオランダベルギードイツなど、結婚していないパートナーの入国を条件付きで認めている国もある。

    「唯一私たちが使えるのは観光ビザです。どうしても、外国人の恋人と会うのは観光だと言われている感じがしてしまいます」

    廣瀬さんのような状況にある人々が、#LoveIsNotTourism #愛は観光ではない というというハッシュタグを使い、未婚のパートナーも出入国できるよう、条件の緩和を認めてほしいとSNSで訴えている。

    「電子署名など、行動に移してくれる人がいることは救いです」。そう語る廣瀬さん自身も、外務省や法務省に手紙を出している。

    SNSでも声を上げているが、厳しいコメントも寄せられるという。

    「『いつか会えるんだから、恋人くらいなら我慢しろ』と言われることもあります。電子署名を出した人には『結婚しているなら話は別だけど、恋人に入国許可はいらない』とリプライがありました」

    「比べるものではない」と思いつつも…

    デリさんとオンラインでやり取りはしているものの、直接会えないことによる精神的負担は大きいと廣瀬さんは訴える。

    「夢を見るんです。知らない国際カップルが空港で再会しているのを、私が側から見ている夢です。夜中に目覚めて、なぜ私たちは会えないんだろうと、大泣きしてしまったこともあります」

    周囲からかけられる「早く会えるといいね」という言葉も、気休めのように聞こえてしまうという。

    自分たちよりあとに出会った日本人どうしの友人カップルが、入籍をすると聞いたときには、「仕方がない」「比べるものではない」と思いつつも、複雑な感情を抱いた。自分たちは、国籍が違う「だけ」なのにーー。

    それでも頑張っていこうと思える瞬間はあるかと廣瀬さんに尋ねたところ、廣瀬さんは「そうですね…。頑張っていこう…」と、いちど口ごもった。

    「死ぬまで会えないというわけではなく、絶対いつか会えるとは信じているので、それを励みに私たちは頑張っています」

    「あっという間に1年経ってしまいました」

    埼玉県在住のAさん(21)も、韓国籍の恋人(22)と1年以上会えていない。

    2人は友人の紹介で知り合い、直接会えていた時期もあったが、コロナ禍で離れ離れになってから交際が始まった。

    「だから、付き合ってからは一度も会えていないんです。昨年の春、渡航制限が解除されたら6月にでも会えるねと話していたのに…。あっという間に1年経ってしまいました」

    大学生のAさんは、観光学を専攻している。韓国で就職するか、日本で韓国語のスキルを生かせる仕事に就くのが夢だったと語る。

    「韓国のエアラインなどを志望していましたが、就活もコロナ禍で頓挫しました」

    恋人にも会えない。大学の授業もオンラインで、友人にも会えない。コロナ禍で就活も苦境に。ひとりで塞ぎ込む時間がどうしても多くなってしまう、とAさんはつらい胸の内を明かした。

    「もともと、人に言われたことがこだまするような敏感な性格なんです。それに加えて、友人と話すなどストレスを発散する場所がない。考える時間が多くなって、1人で悩んで苦しんで。もうやめようと思っても、どんどん引きずり込まれてしまっています」

    「周りの同級生は就活をする時期ですが、私は来年秋には(恋人との)結婚を見据えて留学ビザで韓国に行く計画があります。半年ほどしか働けなくて迷惑をかけてしまう。だから就活もできずにいます」

    「両親も仕事で、妹たちも学校には行けているので、1人で家にいることが多くなった結果、精神的に負担がかかってしまっています」

    不眠など身体的な影響も出始め、Aさんは精神科に通うようになったという。

    Aさんの家族や友人は、理解がありサポートもしてくれているそうだ。しかしAさん自身は、出国に関しては慎重だ。

    「道中の感染リスクや、帰国して家で隔離生活を送る時に、本当に安全とは限りません。万が一家族に感染して、『出国して恋人に会っていた』とニュースになったら、迷惑がかかりますから」

    それでもAさんは、国際カップルの現状を知ってもらおうと動いている。韓国政府に2回請願を行い、オンラインで国際カップルを対象にアンケート調査も実施した。

    日本語・英語・韓国語・中国語で、計550の回答が集まった。1年以上パートナーに会えていない人は全体の半数に上り、精神的な負担や身体への影響を訴えるコメントも多く寄せられた。

    「結婚すればいい」「なぜ結婚しないのか」と言われるが…

    SNSで活動をしていると、遠距離恋愛や国際恋愛で似たような状況に置かれているカップルから応援の声が届くこともあれば、否定的な意見が届くこともあるとAさんは明かす。

    「結婚すればいい」「なぜ結婚しないのか」という意見が寄せられることもある。結婚さえしていれば行き来ができるが、事実婚や同性カップルなど、そうではない多様な形のカップルもいる。制度のはざまにいる人々が苦しんでいることは、あまり知られていない。

    「私は付き合ってから会えていないので、結婚を考えたくても、もちろん気軽にはできません。オンラインでの交流は限りもあります。考えたくても、今すぐには考えられない人も多いとは思います」

    「また、日韓カップルだと、偏見に基づいた言葉が投げかけられることもあります。『ただの韓流好きの延長線』『国を売ったやつ』『韓国に遊びに行きたいから』……。そういう言葉には傷つきますね」

    このほかにも、「葬式もできない。家族にも会えないんだからお前も我慢しろ」といったリプライがきたこともあった。

    たとえ事情や状況が違っても、「自分や他の人も制限に耐えているのだから」とみんなが我慢を押し付け合っているような気がする、とAさんは言う。

    「私は、留学したくてもできない人がいたら、(署名などの運動に)協力したい。家族に会えない人がいたら、協力したい。コロナ禍だからこそ、我慢を強要し合うのではなく、協力し合う社会になればと思います」