子どもから大人まで、幅広い層の心をわしづかみにしてきたカプセルトイ。
最初のカプセルトイ自販機は、1965年にアメリカから輸入されたものだった。
当時は1つ20円が主流だったが、1977年、1つ100円という異例の価格で、玩具メーカーのバンダイが「ガシャポン」の正式名称で市場に参入した。

商品の質が高くなり、ガシャポンを始めとするカプセルトイは、一躍大人気のおもちゃとなった。
それから45年。カプセルトイは商品の種類、クオリティーともに目覚ましい発展を遂げている。自販機も全国に設置され、その数は55万台に及ぶ(2021年11月時点)。
ガシャポン事業の拡大は、自販機の進化の歴史とも密接にかかわっている。そう語るのは、バンダイのベンダー事業部 事業開発チームのマネージャーとして、ガシャポン自販機の開発や販売インフラの新規開発などに携る近藤創さんだ。

「最初の自販機が対応していたのは、100円玉といちばん小さい約5cmのカプセルだけでした。そこから徐々に進化して、今は500円玉まで対応しています」
「カプセルも、約8cmの大きいものまで。大差ないように思われるかもしれませんが、中に入れられるものは劇的に変わります」

今の自販機では、最大2500円までの商品を販売できるようになっている。当初は1つ100円だったことを考えると、大きな変化だ。
ガシャポン自販機、知られざる設計の工夫
全国に設置され、誰もが一度は回したことがあるだろうガシャポン自販機。設計やデザインには、開発者の創意工夫が凝らされている。
例えば、商品の取り出し口。

子どもが商品を取ろうと手を入れた時、パタパタと前後するフタだと、手が挟まってしまう。いたずらで奥まで腕を突っ込んだ場合、腕が抜けなくなる危険性もある。
そのため、取り出し口のフタは押し込むタイプではなく、ドーム型で引き上げて開ける仕組みになっている。
取り出し口から手を入れて抜けなくなる事故を防ぐため、フタを引き上げたときに、商品ボックスとの間に仕切りが出てくる構造だ。
①フタが閉まっている時は、商品が落ちてくるよう仕切りは収納されており、
②フタが開いている時は、取り出し口から中に手が届かないよう、仕切りが出てくる。
ハンドルは、取手部分の出っ張りを高くして、子どもが掴んで回しやすいように設計されている。

「昔は、出っ張り部分の奥行きが少なくて、少しだけ凹んでいるくらいでした。でもそうすると力が必要だし、お子さんは掴みづらい。だから、凹みを深くして回しやすい設計にしました」
また、常に課題になっているのは「ハンドル一周問題」だという。
「次の人のために、ちゃんとハンドルを一周まわし切ってほしいんです」
そのために、矢印はぐるりと一周、ハンドルを囲む形で描かれている。仮に矢印が短かったら、カプセルが出てきた時点でハンドルを回す手が止まってしまうかもしれないからだ。

画像右上の「うりきれ(SOLD OUT)」札にも注目してほしい。
昔の自販機は売り切れを判別できなかったが、今は商品が無くなると硬貨投入口に重なるように札が出てくる。
「間違って買われてしまったり、『お金を入れたのに出てこない』とお店にクレームがいったりすることがなくなりました。こういう細かい進化を遂げているんです」
ガシャポンの良さ=アナログ
基本的に、ガシャポン自販機は電気を使用しない。カプセルを出す仕組みも、硬貨を取り込む仕組みも、すべてアナログだ。
電気を使わないため、設置場所も選ばない。屋外に置いても安心だ。
「電気を使えば、できることは増えます」と近藤さん。
「音を鳴らすとか、光らせるとか。しかし、それで置き場所が限定されるなどのデメリットを考えると……。やはり電気を使わないアナログであることも、ガシャポン自販機の優れている点のひとつなんです」
アナログ自販機の課題:キャッシュレス化
アナログが強みのガシャポンだが、いかにキャッシュレスの波に乗るかが課題だという。
バンダイは2019年からキャッシュレス機能搭載の自販機「スマートガシャポン」を展開しているが、近藤さんいわく「すべての自販機をキャッシュレス化するのは、まだ現実的ではない」。

スマートガシャポンはキャッシュレス対応で利便性が上がる。一方で電気が必要のため、コンセントの近くなど設置場所が限られ、通常の自販機よりコストがかるといった課題もある。
スマートガシャポンは「適材適所」で設置を進めているという。
「駅など、キャッシュレス決済が有効に働いている場所にはスマートガシャポンが向いています」
「スマートガシャポンが向いていないところ、例えばスーパーの入り口などは、小回りの良さやコスパの良さが魅力のアナログ自販機を置いています」
また、近藤さんは「日本はまだコイン文化が根強い」と語る。キャッシュレス化が進んでいる中国では、スマートガシャポンの展開が早いそうだ。
「やっぱり、コインを入れてハンドルを回すという楽しみも、ガシャポンにはありますからね」
一部の自販機にはセンサーを搭載→販売実績のデータ収集が可能に

アナログ自販機の課題はもうひとつ、販売実績などのデータ収集の難しさだ。自販機がデジタル化すれば、市場予測を立てやすい。
数年前まで、集計は代理店から「本当にアナログ」な方法で把握するにとどまっていたという。
しかし2019年から、バンダイはセンサーを搭載した自販機の展開を始めた。
ハンドルが回されると、データが飛ぶ仕組みだ。どこで、何が、いくつ売れたか、リアルタイムで把握できるようになった。
商品が売れやすい時間帯や、場所の特性が明らかになるだけでなく、人気商品の追加生産の発注や、新商品を製作する判断も早くできるようになったという。
センサーが導入されているのは全体の数%程度だが、「非常に意味のあるデータになっている」そうだ。
「前は人気商品があっても、すぐには反応できませんでした」
「今は売れ筋を把握できる上、お客さんにもどこで何を販売しているかをリアルタイムで告知できるのは大きいです」
「やれることは、まだまだあると思っています。いかにアナログなガシャポンをデジタルにしていくか、これからも取り組んでいきたいです」
ガシャポンのロマン=何が出るかわからないワクワク感

「お金を払うのに、何が手に入るかはわからない」。人々はなぜ、そんな不確かな対価を受け入れるのか?
不思議に思う人もいるかもしれないが、ガシャポンという「体験」を購入していると考えれば、しっくりくる。そう、ガシャポンは確率のエンターテインメントなのだ。
「『あれがほしかったけど、こっちが出てきちゃった。でも、これはこれでいいか』と思えたり、『あ、やった! ほしいのが出てきた』という感動だったり。このワクワク感も含めてガシャポンですよね」

ガシャポンのコアの「ワクワク感」を残せば、ガシャポン自販機のスタイルでもっともっと遊べるはず。近藤さんはそんな青写真を思い描いている。
「たとえば、今日の服を決めてくれるガシャポンとか、気分に合った小説やおやつが出てくるガシャポンとか」
「『カプセルに入っていないといけない』『500円以内じゃないといけない』という、サイズや価格の制約を取っ払ってもいいのではないでしょうか」