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60年以上前の、忘れられない恋。90歳の男性がSNSでカミングアウト

敬虔なカトリック教徒の家庭に育ち、ゲイは「地獄に落ちる」と思っていたある男性は、20代の頃に経験したある恋を忘れられなかった。新型コロナの自粛生活で回顧録をつけることにした彼は、過去の恋愛と自身のセクシュアリティについて考え直す。

アメリカ・コロラド州在住のケネス・フェルツさん(90)は12歳の時、自分がゲイだとわかったという。

それから78年もの年月、ゲイであることを明かさずに生きてきた。女性と結婚し、娘も生まれている。しかし90歳になって初めて、SNSでカミングアウトした。

新型コロナウイルスが世界的に大流行した今年、高齢のフェルツさんも例に漏れず自宅で自粛生活を送っていた。「おうち時間」が増え、フェルツさんは自身のフェイスブックページに人生の回顧録を投稿することにした。

しかしその過程で、自分のセクシュアリティと、20代の頃に経験したある男性との恋について書かずして、回顧録を完成させることはできないと気づいた、とCNNの取材に語っている。

Facebook: kenneth.felts.50

フェルツさんの回顧録(一部)。朝鮮戦争中、アメリカ海軍に4年間入隊していたという。写真は1951年、北朝鮮近くの海域に派遣された時に撮影したもの。

その男性の名前は、フィリップ・ジョーンズさん。フェルツさんは生まれ育ったカンザス州を離れ、小売業を対象とした信用会で働くためにカリフォルニア州に移った。ジョーンズさんは、同じ会社で働いていたという。

2人は「すぐに恋に落ちた」と、フェルツさんはワシントン・ポストに明かしている。

Facebook: kenneth.felts.50

フィリップ・ジョーンズさん。フェルツさんの5歳下で、インディアナ州出身だったという。写真は1953年、ジョーンズさんが高校生の時に撮影されたもの。

やがてジョーンズさんとフェルツさんは一緒に暮らし始めた。しかし、フェルツさんには葛藤があったという。

敬虔なカトリック信者の両親のもとで育ち、幼い頃から教会というコミュニティを大切にしていたフェルツさんは、「聖書を読み、ゲイになってはいけないと教えられていた」とワシントン・ポストに語った。

CNNには、「ゲイだとカミングアウトしたら、地獄に落ちると思っていた」「この秘密は、墓まで持っていくつもりだった」とも話している。

当時、LGBTQに対する視線は今よりも厳しいものだった。フェルツさんとジョーンズさんがいたカリフォルニア州では1975年まで、同性愛行為を性犯罪とみなすソドミー法が施行されており、2人は手を繋いで歩くこともできなかったそうだ。

Facebook: kenneth.felts.50

フィリップ・ジョーンズさん。1957年撮影。

結局フェルツさんは、ジョーンズさんとの暮らしに2年で終止符を打った。カリフォルニア州を離れたフェルツさんはある女性と結婚し、娘をもうけた。17年後に離婚するが、ゲイであることは明かさないままだった。

USAトゥデイによると、フェルツさんは離婚後、ジョーンズさんに連絡しようと試みたという。しかしインターネットのない当時、図書館の電話帳で名前を探すだけでは、ジョーンズさんにたどり着くことはできなかった。

娘の親権を失う可能性があるため、カミングアウトもできないままだったそうだ。

しかし今年、転機が訪れる。ジョーンズさんの姪だという女性と、フェルツさんはフェイスブックで繋がった。そして、ジョーンズさんが亡くなったと伝えられたという。

「ロックダウン中の5月下旬か6月上旬あたり、何気なく娘に言ったんです。『フィリップ(ジョーンズさん)の元を去るんじゃなかった』と」とフェルツさん。

「フィリップのことなんて娘はもちろん知らなかったので、これは説明しないとな…と思いました。いざ打ち明けると、娘は快く受け入れてくれました」

フェルツさんの娘・レベッカさんも20年前、自身がレズビアンであるとカミングアウトしている。フェルツさんはレベッカさんに付き添ってプライド・パレードに参加したこともあるそうだ。

レベッカさんは結婚し、現在パートナーと2人の養子を育てている。その様子を見たフェルツさんは、「カミングアウトしてもいいんだ」と思い始めていたという。

レベッカさんのサポートもあり、フェルツさんは6月26日、フェイスブックの投稿でジョーンズさんへの思いをつづった。

「フィリップ・アレン・ジョーンズは、私の人生最愛の人でした。とても悲しく、寂しいです。最初で最大の恋の相手が、この世を去ってしまったのですから」

Facebook: kenneth.felts.50

「青春時代の最高の時間を、私は彼と共有しました。彼は確かに、私の青春時代を思い出深いものにしてくれました。忘れることはないでしょう」
「近くにいたのに会えないままなこと、お別れを言えなかったことが本当にもどかしいです」
「でも、私たちが一緒だった時、彼がどれだけ愛情深い人物だったか、今は世界に知らされています」
「私の心は石となり、悲しみを洗い流す涙が必要です。フィリップ、どうか安らかに」

「物語をシェアしてくれてありがとう」「あなたが真実を打ち明けられて、そしてLGBTQに協力的な父親でもいてくれて本当に嬉しい」など、投稿には数多くのコメントが寄せられた。

78年越しにカミングアウトしたことについて、フェルツさんは他の投稿に「やっと自由になった」と書いている。

「私はいつもゲイコミュニティを擁護してきましたが、それはあくまでも部外者・理解者としてでした」

「今は、リアルな私として、自分のコミュニティを守るために発言できます。自分を解放する決断をするまで、自分がどれほど追い詰められていたか気付きませんでした。今は心から『私は自由だ』と言えます」

カミングアウトに不安を抱く人々へのアドバイスを求めたUSAトゥデイの質問に、彼はこう答えた

「同じような経験をしている人も多いと思いますが、こんなにたくさんの人に支えられているんだと驚くはずです。カミングアウトするのに、遅すぎることなんてありませんよ」

サムネイル画像/Getty Images