あなたは、先生たちのブラック労働の実態を知っていますか?

人手不足、長時間労働、そしてもらえぬ残業代ーー。
そうした状況に加え、2020年度からは公立小学校のカリキュラムに新科目のプログラミングや外国語教育が組み込まれ、必修となる。
「そんな準備をする時間がどこにあるのか」。小学校で正規教員をしていた女性は、そう語ります。いったい、その実態はどういうものなのか。
自分の時間は、ほとんどない。

「冗談抜きで1日の自分の自由時間は朝と夜のご飯、そしてお風呂の時間含めて2時間あればいいかなくらいでした」
そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、昨年まで公立小学校で先生をしていたこちゃさん。
出勤は午前7時15分。退勤は午後7時から8時ごろ。およそ12時間労働で、休む時間はほとんどない。
昼休みですら、給食の時間に費やす必要がある。隙間時間には宿題を見たり、行事の練習をしたりして、子どもたちが下校したら事務作業が待っている。
「先生になる前から労働時間は長いと聞いていたが、想像以上に長い勤務時間でした。まさにノンストップだったと思います」
自宅に到着してから後も、落ち着く暇はない。夕飯は30分で、入浴は15分ほどで済ます。
「寝る前には、次の日の5〜6時間分の授業の準備があるんです。家に帰ってからの仕事は残業時間にすら含まれていません。全て含めると、私の場合は月100時間分はありました」
家に帰っても、休む暇はない。

どんなに疲れても、次の日はやってくる。平日に終わらなかった分は、土日に回す。気づけば自分の時間を確保できず、涙を流すようになっていた。
「『残業は月◯時間を超えないように』と途中で強制的に学校を閉めたりしているのですが、意味がありません。私のように、みんな帰ってから仕事するからです」
「ベテランの先生も残っているんですよね……。それで子どものノートを大量に持って帰ったり。慣れたら早く帰れるわけではないと知って、辛かったです。でも、そうしないと子どもたちが困ってしまう」
しかし、教師には基本的に残業代は支払われない。給料の4%が「教職調整額」として支払われていることが、その理由だ。
文部科学省によると、この「4%」は1966年度の小・中学校教員が1週間に残業した平均時間「1時間48分」を基準に定められたもの。
それから50年以上が経ったいまの現状には、とても見合っているとは言えない。
トイレの手袋すら買えないのに。

人手不足、そして長時間労働で疲弊し続ける教育現場。
そんな最中に、新科目として「プログラミング」と「外国語」が導入されることが決まった。
「こんなスケジュールでは新しい教科を勉強する時間は確保できません」とこちゃさんはいう。
もちろん、個別の学校でできることがある。行事を減らす、業務の効率化を進めるーー。でも、本当に必要なのは人手だ。
「専門科目だけ外部にお願いすれば」という声もある。しかしそもそも、「そんなお金はありません」という。
「私の勤めていた小学校ではトイレ掃除のゴム手袋が汚れたから買い換えたいが、お金がない、ということで話し合ったことがあります。結局、買えませんでした」
こちゃさんは悲しげに話す。「教育にかけるお金が少なすぎます……」
やりがいはある、でも。

こちゃさんは多忙ゆえ、適応障害を抱えるようになり、教員を1年でやめた。
「あまりの現場の忙しさに自分を大切にする時間がなくなり、病気になり、辞めました。その後、教員でなくても教育で社会に貢献したいと思うようになりました。私も昔は、教員に憧れていた。でも、後輩たちに『やりがいがあるから目指すといいよ』なんて軽い気持ちでは言えません」
とはいえ、「目指さないで、とも言わない」と話す。
「もし教員になって、消えてしまいたいと感じたとき、自分のためにも状態が悪くなる前に助けを求めたり、休んだりしてほしいです。真面目な方が多いので、迷惑がかかると考えて、休みにくく思うかもしれない。でも、教えている子どもたちが同じような状況になったとき、素直に助けを求めることができるようにするためにも、助けを求めることは大切だと思います」
こちゃさんは、文科省と現場教員の認識に”ズレ”が生じていることが、ブラックな教育現場の一因になっているのではないか、と疑問を投げかける。
「プログラミングや外国語教育が子どもにいいことはわかっていますが、文科省の方々も一回先生を経験されるといいのではないかと思います。より良い教育を、と思っているのは現場の先生たちも、文科省の皆さんも同じはずですから」