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目が見えなくてもおしゃれがしたい。視覚障がい者向けのネイルサロンが叶えたもの。

目が見えなくてもおしゃれを楽しんでほしい。そう願ってネイルやメイクを提案する日本に唯一の視覚障がい者専門のネイルサロンが埼玉県にある。名前は「ネイル ルブライユ」。経営業態は主に出張型だ。どうして目の見えない人をターゲットに?そこには意外な答えがあった。

目が見えない人はおしゃれを楽しんではいけないのかーー。

そんな女性たちの苦悩に寄り添う、日本に唯一の視覚障がい者専門ネイルサロンがある。

どうして自分の姿を見ることができない人におしゃれをするのか。そこにはどんな理由があるのだろうか。

人の目を通して見るネイル。

KotaHatachi/BuzzFeed

「グラデーションってどんな感じなんですか。その言葉や雰囲気が素敵なことは分かるんですけど、目で見たことがないので…...」

ここは埼玉県上尾市にあるネイルサロン「ネイルルブライユ」。日本に唯一の、視覚障がい者を専門にしたサロンだ。

この日のお客さんは、オープン当初から通い続ける、生まれつき目の見えない本田陽香さん(34)。

ネイリストの佐藤優子さん(39)は、その爪にコスモスの花やピンクのグラデーションを描きながら、こう答える。

「爪のグラデーションは先端に向かって色が濃くなっていくの。指がきれいに見えるよ」

目が見えないお客さんに爪のイメージを理解してもらうため、あの手この手で色や雰囲気を伝えるのも、佐藤さんのこだわりだ。一般のサロンとは違い、ネイルチップのサンプルには、直接触ることができる。

ネイルに点字を施す点も佐藤さんのネイルの醍醐味だ。サービス開始時は「目が見えないといえば点字」という考えでデザインに取り入れ始めた。

実際にどんな点字を入れることが多いのかというと、彼氏や夫、自分の名前だという。ただ、「目が見えないから凹凸があるネイルばかり」というわけではない。佐藤さんはこう語る。

「ネイルが見えないから特別なデザインにしたり、触ってわかるデザインにしたりするわけではありません。健常者と同じデザインが良いんです」

「彼女たちは人の目を通して見ています。その中に実はいろんな世界が広がっています。見えないから価値がわからないわけではないのです」

はじめは懐疑的だった当事者たち。

KotaHatachi/BuzzFeed

なぜ、佐藤さんは目の見えない人たちのために専用のサロンを作ろうとしたのだろうか。

はじめは東京・広尾でネイリストとして勤務。退職後、埼玉・浦和のサロンでネイリストをしながら、老人ホームでのネイル・ボランティアもしていた。そこでの経験こそが、原点だ。

「おばあちゃんたちがネイルの順番を巡って、喧嘩をしてしまうほど人気だったんです。そこでお年寄りが元気になっていく姿を見て、ネイルの力に気がついて。ふと、目の見えない人たちはもっと困っているのではないかと思ったんです」

とはいえ、一筋縄にはいかなかった。佐藤さん自身、それまで目の見えない人と関わったことは一度もなかったからだ。

「身内に障がい者がいるわけでもないし福祉の学校出身でもない。どこに見えない人が暮らしているのか、わかりませんでした。当初はおじいさんしかいないのかなとか、どこかの施設にまとまって住んでるのかな、と思っていたんです」

まず足を運んだのは、「日本盲人会連合」という組織が主催するイベントだ。そこで、数人の女性を紹介してもらい、ネイルを体験してもらうことになった。

話を聞いて決めた。「やりたい」

佐藤さんは、見えない人たちの直面している現実と向き合うことになる。

そもそも多くの人たちは、ネイルを体験したことがなかった。もしくは、「諦めた」経験を持っている人たちだった。

サロンに行ったとしても、「見えない人が来たよどうする?」と長時間待たされたり、「あそこに貼ってある中から選んでください」と言われたりすることが日常茶飯事。

当然、目の見えない人は自分の目で完成したネイルを確認することは叶わない。ネイリストとの間で認識がすれ違ったまま、思った通りの仕上がりにならない事もある。

地域によって異なるものの、外出する際に介助してくれるヘルパーが無料とは限らない点や、頼める時間が月に50時間と制限があることも、ハードルの一つになっていた。ネイルをしているあいだも、その限られた時間を使ってしまうことになるからだ。

当事者たちから現状を聞いた時、なんとしてでも目の見えない人にネイルができる環境をつくりたいと、決意した。

情熱を込めて伝える安心感や繊細さ。

KotaHatachi/BuzzFeed

佐藤さんの薬指には平仮名の「め」の点字が入ったネイルが施されていた。

当初は外からの声も、厳しいものが多かった。

当事者からは「なんで見えない人をターゲットにするのか。自信がないからでしょう」と言われた。

また、知り合いのネイリストからは、こうも言われた。

「見えない人ならテキトーにやっていいんでしょう」

どうしたら、人々から、認められるようになるのか。佐藤さんはモニターを募り、試行錯誤を繰り返した。

やっていくにつれ、全て言葉で説明しないと伝わらないのだと痛感した。

「はじめの頃は自分の語彙力のなさが悲しくて悲しくて。だからネイルの雰囲気をあの手この手で説明して、伝え続けたんです」

小さな気遣いも忘れなかった。目が見えない人は、ネイルを硬化するライトに爪をぶつけてしまうことも少なくない。そっと手を添えるだけで、安心感に変わるのだ。

先出の本田さんも、モニターのひとりだった。彼女は当時をこう振り返る。

「私も以前はデパートのネイルサロンに通っていました。例えば、今季のおすすめを教えてくださいと伝えると、『チェックです』と言われる。丁寧な説明は一切なくて、そのようなことの積み重なりでネイルを諦めてしまいました。だから最初は、視覚障がい者がネイルなんて無理だ、と佐藤さんに喧嘩を売ってしまったんです」

しかし、実際の施術を通して、佐藤さんの愛情や熱心さを感じたという。ネイルのチップに何が描いてあるのか、点字で解説を書いている。聞けば言葉で、デザインを説明してくれるーー。

こんなに細やかな気遣いをしてくれたお店は、今までなかった。

「自分でデザインを選ぶことができないのはずっとハンディになっていて。佐藤さんになら、『友達の結婚式で一番目立てるネイルを』と頼んだり、持っているドレスの写真を送ると、それに合わせたネイルをしたりしてくれる。他にもいろんなアイディアを編み出していくので佐藤さんは視覚障がい者よりも、私たちの不便に気づいてるのかもしれません」

「同じことをデパートで聞くと面倒くさがられちゃう。プロには『今はこんなデザインが流行ってるんだよ、あなたに合うんだよ』と言ってほしいんです。このサンプルの中から選んで、じゃなくて。私はあっという間に常連客になってしまいました」

ポジティブになったライフスタイル。

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「目は見えなくても、おしゃれしたいんです」

本田さんは、そうキラキラした声で話す。いまでは、佐藤さんの店を手伝うようにもなった。

「ハロウィンの時に好きなアニメのキャラクターを描いていただきました。同じアニメのファンの子に見てもらったら、とても好評で指の引っ張り合いが起きたんです(笑)」

最近は毎月ネイルをするようになり、外に出る機会も増えた。おかげでデパート恐怖症を脱することができたと笑う。

デパートなどのお店では、そもそもどこに商品があるかわからないことも多い。また、商品を照らしているライトに誤って触ってしまい、火傷してしまうこともあった。自然と足は、遠のいた。

「でも、いまでは『ネイルに合うお洋服を選びましょうか』『ネイル変わりました?』と言ってくれる店員さんもいるんです。顔を覚えられるわけではないのですが、同じ店員さんだとわかると覚えていてくれたんだ、と安心します。そのお店にまた行きたいなという気持ちにもなります。ネイルをしていることでお店の開拓ができるんです」

目が見えない人にメイクを教える理由。

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実際に触ることができるネイルチップ。

じわりじわりと口コミで広がって、本田さんのような常連客は、いまでは月に20人ほど。20代から80代までと幅広い。限られたヘルパーの時間を使わないよう、多くはお客さんのもとへ出張して、ネイルを施す。

それだけではない。今ではネイルだけではなく、テレビ電話で一人ひとりにメイクをするようにもなった。佐藤さんはいう。

「全盲ながら、趣味のバンドをやっている子にネイルとメイクを頼まれたことがありました。その子は健常者と同じようにライブハウスで歌うんですが『今までノーメイクで舞台に立っていた』と言うんです。身だしなみを整えることで社会進出を応援できる、と思いつきました」

ネイルだけではなく、見えない人にとっては日常のメイクも遠い存在だったのだ。

「大手の化粧品会社さんがやっているメイク講座はたくさんあるんです。しかし家では鏡が見えなかったり、見えにくかったり。当事者の方で、自分で眉毛を書いてガイドヘルパーさんに確認したら『書けてる』と言われ外出後、娘さんから『歌舞伎役者みたい』と言われ凹んでしまったと聞いたことがあります」

使っているアプリはiPhoneのFaceTime。理由は、肌色がクリアに見えるからだ。

「晴れごとのときだけじゃなくて、メイクこそ日常でしたいはずなんです」

変われたきっかけは出会えたこと。

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ネイル、メイクと、見えない人の「おしゃれ」の選択肢を増やし続けている佐藤さん。

視覚障がい者が持つことを義務付けられている「白杖」をデコレーションするサービスも実施している。また、目が見えず情報を得られない当事者のために、メールマガジンで雑誌の付録やコンビニの新商品の情報も詳しく発信している。

メルマガを初めた理由は、ホームページによって音声で読みづらいものもあるため、視覚障がい者でも比較的使いやすいメールと言う方法での配信を始めたのだという。

「目が見えない人は情報障がい者とも言われていて、雑誌を読もうにもただのつるつるの紙。新聞やテレビからも情報を得るのが難しいんです」

最近になってはじめたのは、「体験するファッション雑誌」の運営だ。

月に一度、東京・新宿で開催している。全盲のアロマ調香師、ジュエリーデザイナー、プロカメラマンなど様々な業種の人々を集めた。視覚障がい者、健常者の垣根を超えたイベントになっている。

生まれたときから「固定概念が嫌い」なのだという佐藤さん。ネイルをしていて、日々こんなことを思うのだという。

「右と言われたら左という感じでした。色の世界から遠い人にネイルをしたいと思ったし、この世界を通り過ぎなくて良かったと思っています。世界が広がりました」

だれもが自分のおしゃれを楽しめるように。

佐藤さんは、視覚障がい者は「見えないだけ」なのだと語る。

「自分の姿も顔も見たことないって人ばかり。おしゃれは必要ないって社会の固定概念と先入観で置き去りにされていたんです。でも、ふたをあけてみたらおしゃれしたくないわけではないんだなって思いました」

「目の見えない人とご飯を食べるときはメニューを全部読む必要があったり、大変なこともあるんですけど、でもそれ以外は見えているような感じ。これからも見えない人たちが抱えている不便を変えていきたいです」

目の見えない人も、おしゃれを楽しめるように。きょうも佐藤さんはお客さんの悩みに寄り添っている。

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昨日も、きょうも、これからも。ずっと付き合う「からだ」のことだから、みんなで悩みを分け合えたら、毎日がもっと楽しくなるかもしれない。

明日もがんばる私たちへ。BuzzFeed Japanでは性や健康について考え、「男らしさ」や「女らしさ」を超えて、自分らしく生きる人を応援するコンテンツを届けていきます。

10月1日から10月11日の国際ガールズ・デー(International Day of the Girl Child)まで、こちらのページで特集を実施します。

Contact Reona Hisamatsu at reona.hisamatsu@buzzfeed.com.

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