Posted on 2019年1月26日

    イギリス政府、ブレグジットに向けて「渋滞」の予行練習をする

    英国人がこれまで生きてきた記憶の中で、恐らく最大の危機とも言えるブレグジット。英政府はこの危機に、とても英国的な方法で取り組んでいる。その方法とは、「渋滞」。

    もし英国が「合意なき離脱」で欧州連合(EU)を追い出されることになった場合、ちょいちょい発生すると思われる壮大な交通渋滞。

    AFP=時事

    大型トラックを山ほど使って、なんと渋滞を実際に作って予行練習しています。

    トラックが停車しているのは、イングランド南東部のラムズゲート近くにあるマンストン空港。今年1月7日、ブレグジット後に発生すると予想されるトラックの行列に対処する試みが実施されました。

    7日午前7時、英南東部ケント州にある使用されていない空港に、大型トラック約80台が大集合。

    AFP=時事

    目的は、政府主導のシミュレーション「ブロック作戦(BROCK、Brexit Operations Across Kentの略)」。

    英国が3月29日についにEUから離脱して、EUとの「摩擦のない貿易」が終わってしまったら発生するかもしれない状況を、シミュレーションするという作戦です。


    こちらは、アクション満載のイベントを満喫しているトラック運転手。

    Sitting on a runway this morning with around 100 other lorries... Feet up drinking coffee... #manston

    「今朝は100台くらいの大型トラックと一緒に滑走路にいるよ。のんびりと足を投げ出してコーヒー飲んでる……」

    大型トラックはなんちゃって交通渋滞を作りながらドーバー港へ向かい、そこでUターンしてまっすぐ空港へ帰還しました。

    Gareth Fuller / PA Wire/PA Images

    今回の試みと、離脱後に現実に起こることの大きな違いの1つは、このイベントではトラックがフェリーに乗り込んでEUに向かうことはなかったということ。

    それから今回のトラックは、主にラッシュアワーに大陸から毎日行き来している約1万2000台のうちのわずか一部に過ぎません。

    一体どうなってるの?

    AFP=時事

    運送業界や港湾職員、そしてあらゆる政党の国会議員が、もし英国が単一市場とEU関税同盟を離脱したら、道路はカオスになるのでは?と心配しています。EU関税同盟は、加盟国間での摩擦のない貿易と、検査・遅延を最小限に抑えることを保証しているんです。

    ドーバー港でのピーク時の貿易貨物の取り扱い量は、英国の国際貿易全体の6分の1に上り、年間1190億ポンド(約17兆円弱)に相当します。わずか数分の遅延が、長い渋滞を作りかねません。

    ドーバーを通過する貿易品の99%がEUからのもの。つまり車両のチェックは現在、通常は数秒で済みます。でも加盟国でない国からの物品の場合、検査には最長で45分かかることもあるとドーバーの議会は警告しています。

    英政府は、「国会がテリーザ・メイ首相の離脱合意案を通過させる」という、ほぼあり得ない筋書きにいまだにしがみつきつつ、「合意なき離脱」を含むあらゆる事態を考慮し、それに備えなくてはいけないと主張しています(訳注:15日にメイ首相の離脱合意案は下院で否決。翌16日に出された内閣不信任案の否決を経て、メイ首相は再び代替案を提示。29日に下院で採択の予定)。

    ブロック作戦を練り上げた英運輸省は、幹線道路A256の南行き車線を封鎖して大型トラックを駐車させました。トラックはそこからドーバーへ向かい、1時間で到着したと報じられています。通常なら30分の道のりです。

    Lorries now taking up one lane on A256 on way to Dover . This is a fraction of what no deal traffic will look like. 79 lorries out of 6,000 that will be held in Manston Airport in event of no deal

    英紙ガーディアンのジャーナリスト、リサ・オキャロルは、次のようにツイート。

    「トラックがA256のドーバー方面1車線を埋め尽くしている。これは合意なき離脱になった場合のほんの一部に過ぎない。合意なき離脱でマンストン空港に待機させられるトラック6000台のうちの79台」

    そして当然ながら、トラックの出発には遅れが生じました。

    Analysis shows that just a ten minute delay for lorries at the port of Dover will decimate British manufacturing in every corner of the country. These lorries, which are here for no reason, and are not being checked for anything, are now ten minutes late in setting off.

    英紙インディペンデントのジャーナリスト、トム・ペックさんは、「時計の針は8時を指している。英国の偉大さを負荷テストにかけるこの狂った茶番劇が、ドーバーに向けて出発するはずだった時間。まだ動き出していない」とツイート。

    その数分後、次のように続けました。

    「分析によると、ドーバー港でトラックがわずか10分遅れるだけで、国のありとあらゆるところで製造業が破綻する。何の意味もなくここにいるトラックは、何も検査されていないのに出発が10分遅れている」

    トラックをどこに向かわせるべきかで係員同士が口げんかをして、トラックは時間通り出発できなくなってしまいました。まさに、今後こういうことが起こりそうってことを示す兆候かも。

    Glyn Kirk / AFP / Getty Images

    これって本当のところ、何か意味あるの?

    Steve Parsons / PA Wire/PA Images

    ドーバー選出の保守党下院議員、チャーリー・エルフィッケ氏は、次のように言っています。「ドーバー海峡に面した港には、毎日1万台のトラックが訪れているということを忘れてはいけません。つまり、100台にも満たない台数でのテストは、大海の一滴にもなりません」。

    「無駄骨を折ってケント周辺のトラックをわざわざ州北東のマンストンに集めて、狭い幹線道路を使ってそのトラックをドーバー港へ送り出すのは、正しい答えではありません」

    こうしたすべてが、ケントにとっては深刻な問題です。というのも、港に向かう車の往来が、ドーバーへ向かう高速道路であるM20を塞いでしまう可能性があるからです。2015年、ドーバーの対岸にあるフランスでフェリー職員がストライキをした時に実際に起こりました。

    運輸省は、今回の作戦にトラック150台近くが参加すると期待していました。でも英紙デイリーメールによると、実際に現れたのは地元ケント州の自治体サネットのゴミ収集車を含むわずか89台。

    同紙によると、参加したトラックの運転手には1人あたり550ポンド(約7万8000円)が支払われました。つまり、その他の経費を考慮すると、この作戦全体にかかった金額は軽く5万ポンド(約707万円)を超えていることになります。

    もしかしたら、見世物イベント的な今回の作戦で本当に狙いたかったのは、メイ首相の合意案を支持するか否か揺れている下院議員の気持ちをまとめることだったのかも。

    One person’s “large-scale rehearsal for a No Deal Brexit traffic backlog in Kent” is another person’s “stage a spectacle to scare MPs into supporting your Brexit Deal as the Parliamentary debate on it begins”. Personally, I am another person on this one. https://t.co/c6pPL2PIR6

    スチュワート・ウッド上院議員はTwitterで、「ある人にとっての『合意なき離脱に向けたケントでの交通渋滞の大規模リハーサル』は、別の人にとっての『議会での討論開始にあたり、国会議員をビビらせてブレグジット合意案への支持を取り付けるための茶番』だ。これに関して私は後者」と書いています。

    いずれにしても、国民投票から2年半。合意ありにせよなしにせよ、英国が自動的にEUを離脱するまであとわずか2カ月ほどとなりました。 "本当のお楽しみ" はまだ始まったばかりかもしれません。

    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan

    Patrick Smith is a senior reporter for BuzzFeed News and is based in London.

    Contact Patrick Smith at patrick.smith@buzzfeed.com.

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