元チアリーダー女性、チアリーダーの功績を取り上げない番組の姿勢に疑問
アメリカの三大ネットワークの一つであるNBCテレビは、動画配信サービスのピーコック(Peacock)を運営している。
そこで配信されているドキュメンタリー番組『Earnin’ It: The NFL's Forward Progress』が波紋を呼んでいる。
番組は、男性優位の環境にあったアメリカンフットボールのプロリーグ(NFL)で躍進してきた女性に焦点を当てている。
しかし、NFLの出場チームでチアリーダーをしていた2人の女性は、平等と正当な評価を求めて何十年も苦労してきたのにもかかわらず、チアリーダーが業界にもたらした功績についての言及が一切ないことに抗議した。
『Earnin’ It: The NFL's Forward Progress』は、2006年からNFLの最高責任者(コミッショナー)であるロジャー・グッデル氏の妻、ジェーン・スキナー氏が監修し、2022年1月から配信開始。
ワシントン・コマンダーズのランニングバック(RB)でアシスタントコーチを務めたジェニファー・キング氏や、NFLの優勝決定戦「スーパーボウル」で初の女性審判となったサラ・トーマス氏など、番組は近年NFLで活躍した女性を取材している。
だが、NFLリーグの公式アンバサダーや、試合中に会場を盛り上げるエンターテイナーとして活躍してきたチアリーダーの功績は無視されていると、2人のチアリーダーは主張している。
2008年から11年まで、サンフランシスコ・フォーティナイナーズでチアリーダーをしていたカサンドラ・グエンさんは、番組を「偽善」だと話す。
「サイドラインで活躍してきた私たちチアリーダーもずっと尊敬と平等を求めてきました」
「私たちの評価は、全くと言っていいほど進展がありません」
同じく、2016年から20年まで、ワシントン・コマンダーズでチアリーダーとして活躍したキャンディス・コレルさんは、番組内でチアリーダーの言及がなかったことについて、「うんざりした」という。
いまだ解決されないチアリーダーの労働問題
NFLのチアリーダーのほとんどが、現在でも最低賃金しか支払われていないそうだ。
2014年には、ニューヨーク州に本拠地を置くNFLチーム、バッファロー・ビルズの元チアリーダーたちが、労働時間分の賃金が支払われていないとして、訴訟を起こしている。
訴訟を起こした2日後、当該のチアリーダーは出場停止処分になり、チームに戻れないままだ。
『Earnin’ It: The NFL's Forward Progress』第2話では、バッファロー・ビルズの共同オーナーであり、NFLチームを有色人種の女性として唯一所有・運営するキム・ペグラを取り上げている。
ところが、同チームのチアリーダーが起こした訴訟については一切触れていない。
過去にチアリーダーたちは、NFLのコミッショナーたちと対面で話し合い、数々の訴訟案件を解決する機会を提案してきた。
けれど、グッデル氏は、一度もこれに応じなかったという。
コレルさんは、グッデル氏が番組内に登場するシーンを見て、ひどく動揺したと話す。
「気持ち悪いと思った」
「正直、引っかかる内容だった。NFLでの女性の地位向上に、彼が関わっていたという事実は、どう考えても引っかかる」
「彼の功績ではないと、私は胸を張って言える」
「私たちチアリーダーの存在を認めてほしい」
2021年には、ワシントン・コマンダーズのチアリーディングチームが男女混合になるなど、チアリーディング界には男女平等の動きもある。
それでも、50年以上にわたり、NFLの試合において重要な役割を担い続けてきたチアリーダーたちを、いまだに意義ある存在として認めていないと元チアリーダーたちは訴える。
第1話の配信で、スポーツキャスターとして有名なマイク・ティリコ氏は次のように発言している。
「NFLの歴史には、誇れる瞬間がたくさんあると思います」
「NFLは、アメリカのスポーツ界最大のイベントで女性が重役を担う姿を、誰もが目にできる機会でした」
第2話では、フロリダ州に本拠地を置くタンパベイ・バッカニアーズのジェイソン・ピエールポール氏が、同チームでディフェンスのアシスタントコーチを務める女性、ロリ・ローカスト氏を、「チームの仲間」と表現している。
コレルさんとグエンさんは、女性が中心のチアリーダーに比べ、コーチ陣は一般的に男性が占める立場にあるため、チアリーダーよりも女性コーチが尊重されるのかもしれないという。
コレルさんは、ドキュメンタリー番組は「多方面で女性に優しくないという批判を変えようとするNFLの策略だ」と話す。
グエンさんは、NFLが次のステップに進むのであれば、長年にわたり脇に追いやってきた女性たちの存在を認めるべきと締めくくった。
サムネイル:Getty Images
この記事は英語から翻訳・編集しました。 翻訳:髙島海人