銃撃事件でよりあらわになった「性産業への偏見」。性労働者が抱く死の恐怖

    2021年3月16日、ジョージア州アトランタで、マッサージ店の従業員や顧客が犠牲になった銃撃事件が起きた。アメリカでは性産業に長いこと敵意が向けられてきたが、性産業で働く従業員にとっては、こうした敵意の急激な高まりを示す出来事だった。

    アメリカ・ジョージア州アトランタにある風俗店「トーキョー・バレンティノ」に向かって、メガホンを持った牧師が「罪深き人だ」と叫んでいたのは、ついこの前のことだった。

    その数日後の3月16日、アジア系従業員が多く働くマッサージ店3軒が銃撃され、8人の犠牲者が出た。この店は、そのうちの2軒からわずか300メートル足らずのところにある。

    Elijah Nouvelage / Getty Images

    2021年3月16日に従業員の1人が銃で撃たれ死亡した、米ジョージア州アトランタのマッサージ店。外には警察官の姿がある。

    「牧師は、人に向かって怒鳴ったり叫んだりんだりしていました」

    自称トーキョー・バレンティノの常連客で、この日も店のロビーでうろうろしていたハワード・カルフーンさんは、そのように話す。

    店には、ビデオ・ブースやアダルト・プレイルームもある。カルフーンさんは、牧師のあのような姿を見るのは初めてではないと話す。昨年は、欽定訳聖書を手に持ち、聖句を叫んでいる男性を目にしたという。

    また、トランス女性のダンサーによる週一度のストリップ・ショー「ハッシュ・ナイト」を企画しているプロモーターのレノックス・ラブさんによると、宗教のパンフレットを配るために、定期的にチケットを買って中に入ってくる男性もいるという。

    銃撃されたゴールド・スパとアロマセラピー・スパの800メートルほど先にあるストリップ・クラブ「オニックス」にも、パンフレットを持った信者が時折やって来る。

    Y.C.と名乗る従業員によれば、ダンサーに差し入れを持ってきてくれる女性もいるという。

    「ありがたいけれど、差し入れには必ず『神があなたを救ってくれるでしょう。でもこの場所は救われません』といった内容が書かれたカードが入っています」

    ポルノ・ショップやストリップ・クラブ、スパがひしめき合うチェシャ―・ブリッジ・ロードの一帯で働く人たちは、自分たちの仕事が不道徳だと言われるのは珍しいことではないと話す。

    自分たちの生き方を軽視するような、世間からの社会的な批判や法的な排除に慣れてしまったのだ。

    人種差別、宗教、ミソジニー(女性憎悪)…。複雑に絡み合う要因

    アジア人女性が働くマッサージ店を狙った3月16日の銃撃事件は、性労働に従事する人たちに向けられた軽蔑の度合いが、恐ろしいほどに高まっていることを示していた。

    しかしその要因は、アメリカ文化の奥深くに根差している。

    ダンサーを堕獄から救おうとする福音派のキリスト教徒から、性を売る人の生計手段を厳しく取り締まる警察官や、アジア人女性に関する人種差別的な思い込みからスパに法的措置を求める人身売買反対派まで…。

    アメリカ屈指の影響力を誇る複数の組織が、性産業を撲滅させようと働きかけている。その過程で、性産業に従事する人たちが危険な目に遭わされることが多い。

    アトランタ銃撃事件の犯人は、福音派のクリニックで性依存症の治療を受けたことがあった。警察には、銃撃した場所の性的な「誘惑」を断ち切りたかったと供述している。

    銃撃事件によって、性的なサービスを提供するマッサージ店には居心地の悪い注目が集まってしまった。

    そして、今回の事件の被害者が標的になった原因と同じ偏見(キリスト教の教義の極端な解釈や、アジア人女性を人種差別的に過度に性的な対象とすることに根差したもの)のせいで、性労働者たちは、自分や仕事について口を閉ざすようになってしまった。

    銃撃から数日たった今でも、被害者の中に性的なサービスを提供していた人がいたかは、はっきりしていない。この地域にあるマッサージ店の従業員のほとんどは、BuzzFeed Newsの取材を拒否した。

    しかし、取材を受け入れた人たちは、被害者は性風俗とは関係ない人たちだったと話している。

    今回の銃撃事件の根底には、人種差別、宗教、ミソジニー(女性憎悪)が有毒に混ざり合ったものがあり、アメリカはこういった問題と格闘しているところだ。

    そんな中、この問題について声を上げている人たちは、性労働者への憎悪について口を閉ざしたままでは、暴力が続くだけだと話す。

    性労働者の多くは、暴力的な客から保護されることもなく、警察からは不当な扱いを受けながら陰で働いているのだ。

    ヴィヴィカ・ウィリアムズさんは、アトランタの銃撃事件について聞いたとき、自分もターゲットになっていたかもしれないと考えた。過去に一度、トーキョー・バレンティノで踊ったことがあったのだ。

    生活のために売春をしているウィリアムズさんは、殺人の犯行動機が「不道徳」だったという報道にショックを受けた。

    「しかも犯人は、不道徳をすべて消し去ろうとしていたんですから」と、ウィリアムズさんは語る。

    Vivika Williams

    ヴィヴィカ・ウィリアムズさん

    「売春だって仕事です」警察の扱いに不満

    ウィリアムズさん自身も、仕事で暴力を受けたことがあるという。また、性労働者に対する犯罪には、無関心な人が多いと感じるという。

    ウィリアムズさんは2020年11月のある夜、新規顧客との予約を入れた。男はUberの車を迎えによこすと言ったが、後にこれは罠であることが分かった。

    運転手に連れていかれた先でウィリアムズさんは、銃を突き付けられて暴力を振るわれ、身体を触られ、数百ドルを強奪された。

    「男に殺されてどこかの山林に捨てられてもおかしくなかった。でも神様のおかげで、今もこうして生きている」と、ウィリアムズさんは語った。

    しかし、この事件を警察に通報したとき、彼女は無視されたように感じたという。

    トランス女性であり性労働者でもあるという、自分のアイデンティティが原因だと思ったと、ウィリアムズさんは話す。

    「警察の態度はこのような感じでした。『あぁまたこいつらか』という雰囲気で。またトランスセクシュアルかと」

    「警察の扱いはひどいものです。理解できませんし、不公平だと思います。売春だって仕事です。弁護士も仕事、建設作業員も仕事、売春も仕事です」

    「警官はずっと、通りの向こうにいたんです。ただ、うちの店に入ってこなかった」

    チェシャー・ブリッジ・ロード沿いにある他の店舗の従業員らは、客が立腹したり暴力的になったりした際、警察に支援を依頼しても、自分たちを守るために警察はほとんど何もしてくれないと話す。

    チェシャー・ブリッジ・ロードは、歴史的には赤線地帯だったが、近年は高級化してきた場所だ。

    「(警察は)優先すべきものだとは感じていないように思う」

    近郊にあるリサイクル・ショップ兼HIV(ヒト免疫不全ウイルス)クリニック「アウト・オブ・ザ・クローゼット」で働くリサ・ジョンソンさんは、このように話す。

    また、警察の対応は遅く、到着するころには暴力的な客はもういなくなっている場合が多いという。

    ポルノ・ショップ「サザン・ナイツ」のオーナー、ステファニー・フォックスさんも「何度電話をしても、(警察は)来てくれない」と語る。

    トーキョー・バレンティノの従業員2人はBuzzFeed Newsに対し、人が銃を振り回していたために警察を呼んだ最近の出来事について話してくれた。

    約30分たっても警察から誰も来なかったため再び通報したところ、警察官はすでに送り出されていたにもかかわらず、通りの向かいにあるピザ屋にいたことが分かった。

    従業員の1人、用務員のJ.O.さんは、当時の様子についてこのように語る。

    「警官はずっと、通りの向こうにいたんです。ただ、うちの店に入ってこなかった」

    この地域では最近、別件で2つの銃撃事件があった。1件はトーキョー・バレンティノの客によるものだ。

    同店のマネージャー、クリス・コールマン氏は、この地域での警察の対応は「当たり外れが大きい」と話す。

    警官が来るまで数時間かかることもあれば、すぐに駆けつけてくれることもあるという。ただ、16日の銃撃事件以来、地域にいる警官の数は増えたそうだ。

    事件に関してアトランタ警察署に質問したところ、報道担当者はBuzzFeed Newsに対し、メールで次のように回答した。

    「当署は、犯罪行為とりわけ暴力行為に対し、非常に真剣に取り組んでいます。被害者の人種、性別、性的指向を理由に対応を変えることはありません。地域の皆さんには安全だと感じてほしいし、当署は皆さんのためにあることを知ってほしいと考えています」

    隣接するチェロキー郡では、マリオ・ゴンザレスさん(3月16日にヤングズ・アジアン・マッサージで射殺されたディライナ・ヤンさんの夫)は、事件後に現場で手錠を掛けられ、チェロキー郡保安官事務所に4時間ほど拘束されたという。

    ジョージア州最大のスペイン語ニュース・サイト「ムンド・ヒスパニコ」に対し、ゴンザレスさんは、自分がラテンアメリカ系であるためにこうした扱いを受けたと確信していると話した

    ジョージア州で違法である売春行為が疑われる店舗が、取り締まり対象となることで、この地域での暴力犯罪に対する警察の無関心はさらに高まる。

    売春が犯罪行為になると、客と警察のどちらからも暴力的に扱われるため、それ自体が脅威となる。

    A red umbrella and memorials outside a storefront
    Courtesy Stella Zine

    2021年3月16日に8人が射殺された事件を受け、アトランタにあるアロマセラピー・スパの外には、花などが手向けられている。赤い傘は、性労働者の権利を求める闘いのシンボルだ。

    ターゲットにされてきた性労働者たち

    ゴールド・スパとアロマセラピー・スパを含むチェシャー・ブリッジ一帯の店舗は、これまで潜入おとり捜査や逮捕のターゲットにされてきた。

    ニューヨークおよびロサンゼルスにある違法スパで働く、中国系・韓国系の女性100人以上へのインタビューをもとにした2019年の報告書によると、違法なスパで働く女性のほとんどが、暴力行為や強盗よりも逮捕されることを恐れていることが分かった。

    ニューヨークのマッサージ店で働いていたヤン・ソンさんは、警察の手入れの最中に転落死した。ソンさんは生前、警察バッジを持った男から性暴力を受けたと家族に話していた。

    性労働者の権利を擁護する団体「コヨーテ」ジョージア支部のステラ・ザインさんは、アトランタ地域の高級化が、性産業への敵対心の要因となっていると話す。

    結果的に、ゲイバーやストリップ・クラブへの暴力的な手入れや、特定地域での売春の禁止を目指した法律の施行につながっていると示唆している。

    ザインさんは、1990年代にこの地域の複数のクラブで働いた経験があり、暴力を振るわれるのではないかと怖くなったことは何度かあると話す。

    とはいえ、「当時は、警察に通報するという選択肢があるだなんて考えもしなかった」という。

    性的なサービスを提供するスパは、そこが人身売買の温床となっていると主張する反人身売買団体の強い要請により、とりわけ犯罪扱いされやすい。

    ある反人身売買団体はすでに、今回の銃撃事件と世界規模での性的人身売買との関連性を調査するよう、アトランタ警察に求めている

    ニューヨークを拠点に活動し、自分たちを「アジア人と移民の性労働者の集まり」だと表現する組織「レッド・カナリア・ソング」の共同創始者、ケイト・ゼンさんはこのように語る。

    「今回の事件を事実として認めることで、恒常的に暴力を受けている人たちを救い出せるチャンスがあります」

    「でもそのチャンスをモノにしていないし、あの人たちが殺されたのとまったく同じ暴力が今も続いています」

    アジア系女性に対して、社会に根強く残る偏見

    性的なサービスを提供するマッサージ店は、アジア諸国からの移民の女性を雇用していることが多い。

    しかしゼンさんは、スパと人身売買を関連付けること自体が、アジア人差別の産物だと指摘する。

    アジア人女性は従順だというステレオタイプにはめ、被害者というレッテルを貼っているのだ。

    「こうした理論的根拠には、アジア人女性はなぜか、文化的にもっと守ってあげなければいけない存在だというものがあります。これは非常に人種差別的な決めつけです」とゼンさんは話す。

    「救出を正当化するために、被害者に仕立て上げるストーリーが必要なのです」

    ゼンさんも協力した前述の2019年報告書によると、強要されたりだまされたりした人も一部いた一方で、ほとんどの人は、非常に制約された条件の中でましな選択肢として、性労働を選んでいた。

    スパ店舗がすべて違法行為に関与しているわけではない。今回の事件に対応している当局や人権擁護団体からすれば、反アジアの暴力が増加している中で発生した今回の事件は、性労働と結び付けられ、問題が複雑になっている。

    アジア人女性と売春を結びつける人種差別的なステレオタイプは、アメリカで長い歴史があり、少なくとも、ペイジ法が制定された1875年にまでさかのぼる。

    ペイジ法は、売春をするとの決めつけにより、中国人女性のアメリカへの移民を禁止したものだ。

    このときと同じ、アジア人女性を性的倒錯の対象としたり、過度に性的に見たりすることが、現在のアジア人女性への暴力の大まかな原因となっている、とアジア人女性の擁護団体は話す。

    アトランタにあるアジア系アメリカ人の権利を擁護する団体アジアン・アメリカン・アドボカシー・ファンドで、韓国系コミュニティのまとめ役を務めるスー・チョウさんは、このように語る。

    「こうした店で働いているアジア人女性は、性労働者や不法滞在者である、という決めつけは偏見です」

    増え続けるアジア人被害

    今回の事件後、アトランタ地域でのアジア人への嫌がらせの話を、前より多く聞くようになった、とチョウさんは話す。

    たとえばジョージア州北部のダルースでは、レストランに入ってきた人が「マッサージ」について何か叫び始めたという。

    銃撃で犠牲になった女性の1人、シャオジェ・タンさんは、ヤングズ・アジアン・マッサージのオーナーだった。

    友人であり顧客でもあった男性はUSAトゥデイに対し、同店は性的なサービスを一切提供しておらず、自分は肩こりでタンさんに会っていたと話した。

    とはいえ、被害者の一部には、性労働者がいた可能性は高い。アトランタのケイシャ・ランス・ボトムズ市長は、「被害者非難」は避けたいと発言した。

    しかし、事実を避けようとするこのような行為は、売春への偏見の二次被害を生むものになりがちだ。

    「性労働は悪だという考え方――性労働は本質的に責められるべきものだ、という考えがあるから被害者非難になるわけで、恐ろしいことです。というのも、性労働を暴力だとするために、被害者という存在が必要になるから」とゼンさん話す。

    今回の銃撃事件の後でさえそうだ。動機は宗教的理由だったと警察に自供したとされる男が8人を殺害したことに、アメリカのほとんどの人は嘆いていた。

    しかしその一方で、犯人の憎悪の根底にあった考え方は、国内に依然として存在し続けている。

    スパで発生した事件を抗議するために、アトランタで先月、集会が行われた。

    ある人の目撃談によると、そこを通りかかった男性は、殺された女性たちが「罪深き人」で、「きちんとした職を見つけるべきだった」と叫んでいたという。


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan