
職業は「無駄なもの」を作ること。
それだけで、なんとか食べていけるようになった。そんな自分を「資本主義のバグ」と自嘲気味に語るのは、発明家の藤原麻里菜さん。
20歳のときに「無駄づくり」というYouTubeチャンネルを開設。実用性のないものを作っては、ネット上に作品をアップし続けてきた。
「歩くたびにおっぱいが大きくなるマシーン」「インスタ映えを台無しにするマシーン」「会社を休む理由を生成するマシーン」
奇抜な発明品の数々には、「才能の無駄遣い」「その発想はなかった」とネット上から賛辞が送られる。

始めたばかりの頃は段ボールや紙で作っていたが、最近では電子工作や3Dプリンターも使いこなす。これまでに作った「無駄なもの」は200個を超え、企業からのプロモーション案件も入るようになった。
2018年6月には、「きゃりーぱみゅぱみゅ展」や「蜷川実花展」が行われたこともある台湾のギャラリーで初の個展を開催。言葉も文化も違う海外の反応に怯えながら初日を迎えたが、蓋をあけてみれば2万5000人が詰めかけるほどの盛況ぶりだった。

無駄づくりは、少しずつ仕事になってきた。
「やりたいことがあんまりなくて、ただただ興味のままに生きてる感じ」
何の気なしに話す彼女は、何を思って無駄づくりを続けているのか。
世界の均衡を保つための「無駄づくり」
芸人への憧れから、高校を卒業して吉本総合芸能学院(NSC)に入学。卒業後はピン芸人として舞台に立ったが、自分でも驚くほどネタはウケなかった。
新しいネタを月に1本作る、人前に出て声を張り上げる、無茶振りに答える……。若手芸人に求められる条件が苦手なことに、お笑いの世界へ足を踏み入れてから気づいた。
鳴かず飛ばずで心が折れていた20歳のとき、お笑いの延長で始めたのが「無駄づくり」だ。ネタは月に1本も書けないのに、無駄づくりは週に1本ペースで量産できる。楽しさを見出し、実家の自分の部屋から作品をアップし続けた。

無駄づくりを始めた当時の心境をこう振り返る。
「モノづくりが好きなのもありますけど、天邪鬼な人間なので、みんなが便利なものを作るくらいなら無駄なものを作って世界の均衡を保とうと思いました」
世界の均衡を保つとは、どういうことなのか。
「(世の中が)どんどん便利に特化していったら人間はどうなるんだろうって考えたら、私くらいは無駄なものを作ってもいいかな。みんなが合理的になるほど時間とか富が余ってくるから、無駄なものに注ぎ込んでいく将来が出てくるんじゃないかって」
無駄なことを続けるためにやったこと

無駄づくりを始めてから3年は、アルバイトが主な収入源だった。「YouTubeは稼げる」と聞いていたが、驚くほどお金にならない。しばらくはバイトと無駄づくりを両立したが、どんどん生活が苦しくなっていった。
このままでは、無駄づくりが続けられなくなる。そこで彼女は、ひとつ無駄なものを作ったら映像や文章に落とし込み、Twitterやインスタ、ブログなどさまざまな媒体で見せることにした。
それを続けていくうちに、YouTubeのチャンネル登録者数は7万人を超え、Twitterのフォロワー数も4万人を超え、企業からのプロモーション依頼が増えていった。ブログがきっかけで依頼されたウェブメディアでの連載、映像の制作、テレビ出演、展示など、SNS以外にも活躍の場が広がった。
「無駄づくりを始めたときから、自分の面白さを最大限に引き出せるメディアを探索していきたいって思っていました。文章を書いたりとか、映像を作るとか、展示をするとか、いろいろな表現方法を探し続けていきたいです」

世の中の反応に戸惑い
無駄づくりは、自分にしかわからないことを大勢の人に伝えるための手段だ。
「小学校の校長先生の口癖が面白くなっちゃってる瞬間とかあるじゃないですか。そういう空気感がすごい好きで、自分も意図的に作り出したいっていうのはありますね」
やりがいを感じるのは、自分のモヤモヤが形になって、受け入れられた瞬間だという。
「すごい良い反応が来ると、それは自分の頭のモヤモヤがエンターテイメントになったことだと思うので」

いま構想しているのは「盛れないカメラ」のアプリだ。
「SNOWとかの盛れるカメラの逆。例えば美味しそうなご飯を撮るときは、ARで画面上に丸まったティッシュが写っちゃたり。景色を撮ろうとしても、ARでトラックが横切って全然撮れないとか」
もともとは天の邪鬼的な発想で始めた無駄づくりだが、世の中の反応に多少の戸惑いも感じている。
「SNSとかでも面白いとか言ってくれる人が多くて。無駄を受け入れて楽しめる余裕が、ずっと続いてほしいなって思ってますね。今後の目標ですか? 何だろう…。ニューヨークとかでカッコよく生きてたいです。世界的なコンテンツにしたくて、無駄づくりを」
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