「気まずい」「恥ずかしい」「いたたまれない」のはあなただけじゃない

    「気まずさ=悪」という訳ではない

    「人間の行動の不思議さに強い関心がある」。New York誌のサイト「the Cut」でヘルス&サイエンス分野のエディターを務めるメリッサ・ダールは言います。人間がどんな行動をとるか、またなぜそうした行動をとるのかをテーマに、知見に満ち、ときに驚いたり笑えたりする記事の執筆、編集を幅広く手がけています。2018年2月には、新刊『Cringeworthy: A Theory of Awkwardness』を発行しました。

    同書では、私たちが陥りがちな行動を取り上げ、メアリー・ローチ(『兵士を救え!マル珍軍事研究』)やマルコム・グラッドウェル(『天才!成功する人々の法則』)風のスタイルで科学的に(かつ興味を引きつける書き方で)掘り下げ、考察しています。私たちが自分で気まずくなる行動をとってしまったとき、また他人の行動に気まずい気持ちにさせられたとき(同じ表現でも、自分について言うときの方が好意的な意味だったりします)、それぞれについて鋭い洞察を展開していくのです。また、著者の優しさがにじみ出ているのも特徴。ダールは取り上げた対象について深い共感と理解をもって書いています。読む人は、自分の気まずくイタい行動については少し心が軽くなり、他人の気まずくイタい行動については少し寛容になれるのです。

    そこで、ダールに本書の中から選んだ興味深い発見を取り上げ、語ってもらいました。


    1. 自意識とは人間が一番早い段階で身につけるスキルの一つ

    発達心理学を専門とする米エモリー大学のフィリップ・ロシャ教授への取材で、ダールは次のような話を聞きました。ロシャによれば、人間の自意識は生後1年半には発達するといいます。鏡を見たときに写っているのが自分だと認識できるようになるのがだいたいこの年齢からと考えられています。これについては、認識能力をテストするため、幼い子どもの額に付箋を貼りつける実験が行われています。1歳半に満たない乳児の場合、大半は付箋が貼られたのに気づかないか気にしていない様子でしたが、1歳半以上になると、付箋をはがそうとする行動がみられたそうです。

    ロシャによると、額の付箋をはがそうとするのは、子どもが頭の中でイメージする自分と鏡に写っている自分が違うのに気づいていることを意味します。言い換えれば、自分がどう見えるかを気にする、意識するのは普通のことであり、非常に人間らしい行動なのです。ダールは「自分が思い描く自分と世間が見ている自分は必ずしも同じではないという厳しい事実を、私たちはかなり早い時点から学んでいるようです」と書いています。

    2. 感情は生まれもって備わっているのではなく、脳が作り出すもの

    神経科学者のリサ・フェルドマン・バレットは、感情はあらかじめ予測ができないものだ、と言います。バレットの研究によると、どんな感情も、脳の特定の領域が一貫してその発生をつかさどっているわけではないことがわかっています。私たちの感情は文字どおりあちこちで発生しているのです。感情は生まれもって備わっているわけでもありません。汗をかく、鼓動が早くなるといった身体が知覚している感覚と整合させるため、脳が感情を割り当てているのです。ただ、幸い、私たちにはプラスの気持ちになるために自分で感情をとらえ直す力が備わっています。

    例として、ダールは2014年にアリソン・ウッド・ブルックスが提唱した「不安の再評価」に関する研究を紹介します。デートの前や人と会う大事な集まりの前などに、緊張したり不安を感じたりしていることを示す身体のサインに気づいたら、「私はわくわくしている」と自分に言い聞かせるのです。

    そんなことで意味があるのかと思うかもしれませんが、人の脳は方向づけに反応します。ブルックスの実験では、「不安」を「わくわく(興奮)」ととらえ直した人は、「落ち着こう」と自分に言い聞かせた人にくらべ、与えられた課題をよりうまくこなしたそうです。

    3. 録音した自分の声を聞くのが嫌なのには科学的根拠がある

    動画などから聞こえてくる自分の声が嫌、というのはよくある話。録音された自分の声を初めて聞いたとき、すんなり受け入れられるという人は少ないはずです。一般的に、普段聞こえていたよりも高い声に感じる場合が多いのですが、これには理由があります。

    「自分の声を直接聞くと、実際とは違って聞こえるのには生理的な理由があります。今、私には自分が話している声が聞こえていますが、これは自分の頭蓋骨を通して聞いていて、骨伝導によって実際の音より低く聞こえるのです。録音した声を聞いたときに自分が思っていたよりも高く聞こえるのはそのためです」

    他の人には、あなたの声は録音された声の方に近く聞こえているといえます。これは誰にとっても同じように起きる現象なのです。

    4. 自分が「かっこ悪い」「恥ずかしい」と思うことも、自分が思うほど周りは気がついていない

    ちょっと気が楽になるかもしれない研究結果があります。本書で取り上げたコーネル大学の社会心理学者トーマス・ギロビッチ教授による実験は、自分がおかしたミスや気まずい瞬間について、自分が思っているほど周囲は気づいていない可能性を指摘しています。

    2000年の研究で、ギロビッチは被験者の学生にバリー・マニロウがプリントされた妙なTシャツを着せ、授業に遅れて教室へ入ってもらいました。被験者になった学生は、教室にいた学生の半分ほどがTシャツを気にとめたと思う、と予測しましたが、実際に気づいて覚えていたのは4分の1程度にすぎませんでした。ギロビッチはこのずれを「スポットライト効果」と呼んでいます。実際よりも他人が自分に注目しているように感じてしまう現象です。

    確かに、人のシャツについているしみを目ざとく見つけたり、電話会議で妙な言い間違いをしたのを聞き逃さなかったりする人もいます。が、気づかない人の方が多いのです。周りはあなたが思っているほどあなたに注目していません。気楽に構えましょう。

    5. 考えすぎると必ずうまくいかない

    これからやろうとしていることについて、「どうやるか」を意識しすぎると、めざしている最終目的に意識を向けた場合よりもうまくいかない場合が多いようだ――。スポーツ選手を対象にした研究を調べていたダールは、これを裏付ける証拠に行きついたと言います。

    能力が同レベルのサッカー選手を対象にしたある研究では、技術面(足さばきや体勢の取り方など)を意識するよう指示された選手は、結果(得点することなど)に意識を向けるよう指示された選手とくらべてパフォーマンスが下がったという結果が出ています。この分野のパイオニアである心理学者シアン・バイロックは、この結果はスポーツ以外の社会的な場面にもあてはまるだろう、と言います。(政治家同士などの、気まずさが漂うぎこちない握手シーンの映像などを思い浮かべてみてください)

    人が集まる気詰まりな場へ出るときなど、ダールは次のように提案します。「何か目的を決めて、それを思い描くといいかもしれません。パーティに来ている一人ひとりについて何か一つずつ新しいことを知るのでもいいですし、会場にいる誰か一人のいいところを見つけてほめる、でもいいですし」

    6. 気まずい思いをしそうなことについては、やった場合よりもやらなかった場合の方が後悔する場合が多い

    こちらもギロビッチ教授の研究で、人は行動したことに対してよりも、行動しなかったことに対しての方が後悔の念を抱く、というものです。

    やらずに後悔するよりやって後悔する方がいい、というフレーズは言い古された感もありますが、実際のところ科学的に証明されているわけです。やりたい、またはやらなくてはいけないとわかっている、でも勇気や自信がなかったり億劫だったりして踏み切れない、という場合(話すと残念な気持ちになるのがわかっている相手と話をする、行きつけのカフェで毎日声をかけている気になる相手をデートに誘う、など)、たぶん行動に移した方がいいのです。気まずい思いや居心地の悪い思いをするかもしれませんが、やらずじまいで終わってしまうよりもやった方がきっといい気分になれるはずです。

    7. 他人の「恥ずかしい話」で間接的に自分もいたたまれなくなる

    「ありえないイタい失敗動画集」のようなものを見ていると、自分も思わず顔を覆いたくなること、ありますよね。もしくは隣で誰かが派手に転んだのを見て、自分もかっと顔がほてって熱くなったり。他人の恥ずかしい体験で自分もいたたまれない気持ちになるのには理由があります。

    2015年にドイツの研究チームが行った調査では、被験者に恥ずかしくなるシチュエーションを書いた文章を読んでもらうか、恥ずかしい場面の写真を見せ(ズボンのチャックが開いているのに気づいていない人、なぜか「私はセクシー」と書かれたシャツを着て歩いている人など)、fMRIで脳の画像を撮りました。すると、他の人の恥ずかしい体験に接した被験者は、身体や心の痛みを処理する脳の領域が反応を示したといいます。

    困ったことに思えるかもしれませんが、間接的に恥ずかしさを覚えるのは共感の表れなのです。「私自身、テレビなどで見ていて恥ずかしかったりいたたまれなくなったりするような場面になると、席を立ってその場を離れてしまうタイプでした」とダールは言います。「でも、こうした研究をしている専門家と話をするうち、少し見方が変わってきました。私たちは共感というと優しさや同情と似たような意味にとらえがちで、そうした部分も確かにあるのですが、それよりも健全な脳による自然な反応という部分が大きく、それによって私たちは社会でふさわしくやっていけるのです」

    8. 気まずさを覚えることで新たな何かが得られる場合も

    今回、ダールが論じた中でも意外でかつ明るい話だったのが、気まずさや恥ずかしさは社会にとってプラスに転じることもできる、ということ。ダールはコメディアンでラジオ番組のホストも務めるW. カマウ・ベルにふれています。彼はこれまで、居心地の悪い、話しにくい話題についても対話することが大事だと呼びかけてきました。とりわけ、力のある優位な立場にいる人々が、多数派ではない立場の人が直面している問題について知っておきたいと思うのなら、大切なことだと言います。

    ダールは、人種差別の撲滅に取り組む団体People’s Institute for Survival & Beyondが主催する「Undoing Racism(人種差別を終わらせる)」というセミナーに参加したことを書いています。ここでは、大半が白人からなるグループのメンバーが、人種差別について、また人種差別における自分たちの立場について、居心地の悪い思いをしながらも意義のある話し合いをしているそうです。

    「自分では意図していなかった自分の中の何かを指摘されたり、自分は他者を傷つけるような発言をする人間ではないと思っていたりした場合、居心地の悪い、非常に心苦しい、重い気持ちになります」とダール。でも、だからこそこうした対話が重要なのだと言います。「いわゆる話しづらい話題についても苦痛なく普通に話せるようになることには、大きな価値があると思います」

    メリッサ・ダールの著書『Cringeworthy: A Theory of Awkwardness』についてはこちら



    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan