アマゾンに広がる不正レビュー、その売買システムを暴く

    オンラインには、アマゾンの不正レビューを売買するための巨大なエコシステムが存在し、アマゾンによる取り締まりを巧みにかわしている。

    1月下旬のある朝、ジェイクは机に置かれた箱を手に取り、ガムテープをはがした。そして、箱の中からiPhoneケースを取り出すと、写真を撮影し、アマゾンのレビューにアップロードした。レビューにはすでに、iPhoneケースの洗練されたデザインとクールなボリュームボタンに関する一文が書かれていた。ジェイクは、タイトルに賛辞の言葉(「完璧なケース!」)を書き加え、最高評価の星5つを付けた。そして、クリックし、レビューを投稿した。

    ジェイクはこのiPhoneケースを一度も試していない。それどころか、ジェイクはiPhoneを持っていない。

    ジェイクはレビューのリンクをコピーし、「Slack」の招待制チャンネルに貼り付けた。報酬と引き換えにアマゾンのレビューを書く人々を対象としたチャンネルだ。1日後、ペイパルから通知が届いた。ジェイクのアカウントに入金があったという内容だ。入金の内訳は、使用しないiPhoneケースの返金10ドルと3ドルの謝礼。もしジェイクがiPhoneケースを転売すれば、その売り上げも手に入る。

    ジェイクは本名ではない。ジェイクを含め、今回取材に応えてくれた5人のレビュアーは、アマゾンにアカウントを停止されては困るという理由で、匿名を希望した。ジェイクらは、インターネット最大のマーケットプレイスの隅々まで浸透している不正レビュー経済を支える、目に見えない労働力の一部だ。レビュアーたちは、手軽な収入と無料の商品に引かれ、LEDライトからドッグフードを入れるボウル、服、さらには妊婦用ビタミン剤のような健康用品まで、アマゾンで販売されているあらゆる商品に、偽の5つ星レビューを投稿している。目的は、レビューを見た人々に最高の商品だと思わせ、「アマゾン・ゴールドラッシュ」の分け前を狙う出品者の売り上げを増やすことだ。

    一方、きちんとルールを守っている出品者は、不正レビューの海に飲み込まれないようにするのが精一杯だ。買い物客たちは、不良品やあからさまな欠陥品をつかまされている。そして、アマゾンはなすすべがないも同然だ。

    不正レビューのシステムは複雑で、サブレディットやSlackの招待制チャンネル、「Discord」のプライベートサーバー、非公開のFacebookグループが絡み合っているが、インセンティブは単純明快だ。競争の激しいアマゾンマーケットプレイスで大量の在庫を売りさばくには、星5つの評価を獲得することが不可欠であるため、出品者は、良い評価を得るためであれば、喜んで数千人に報酬を支払う。

    アマゾンの時価総額は7600億ドルで、アップルに次ぎ、世界で2番目に価値の高い企業だ。ジェフ・ベゾスCEOは最近、「Amazonプライム」の会員が1億人を突破したと発表した。Amazonプライムは、最も献身的な顧客のための会員制サービスで、年会費119ドルを支払えば、無料の翌日配送、音楽やテレビ番組、映画のストリーミング、電子書籍ライブラリーへのアクセスといった特典を受けられる。アマゾンは、サードパーティーが出品できるマーケットプレイスを世界13カ所で運営しており、出品者が在庫を保管できる倉庫を150以上も用意している。2017年には、サードパーティーの売り上げが320億ドルに達し、わずか1年間で30万近くの出品者が新規参入した。


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    アマゾンで成功するための最善策は良いレビューを獲得することであり、良いレビューを獲得するための最善策は良いレビューを買うことなのだ。

    買い物客にとってレビューは、目まいがするほど混雑した市場で目当ての商品を見つける絶好の目安であり、出品者にとっては、ライバルより目立つ絶好のチャンスだ。2011年のある調査では、買い物客の87%が、良いレビューは商品購入の決め手になると回答している。また、オンラインのカスタマーレビューは家族や友人の推薦に続き、2番目に信頼できる情報源だとされている。一方で、レビューを残す買い物客は全体の3~10%ほどしかいない。つまり、アマゾンで成功するための最善策は良いレビューを獲得することであり、良いレビューを獲得するための最善策は良いレビューを買うことなのだ。

    アマゾンは2016年10月、サードパーティーの出品者がレビューと引き換えに、商品を無料または大幅な割引価格で提供することを禁止した。しかし、アマゾンのレビューを分析するレビューメタ(ReviewMeta)のトミー・ヌーナンCEOによれば、「不自然なレビュー」はすでに復活しているという。不自然なレビューとは、ヌーナンCEOのアルゴリズムが不正の可能性を指摘しているレビューのことだ。ヌーナンCEOは2017年6月、カスタマーレビューの平均点が上昇し、同時に、不自然なレビューが増加していることに気づいた。それ以降、不自然なレビューは増え続けている。

    アマゾンが対策を講じても、出品者たちはレビュアーの勧誘をやめなかった。レビュアーの勧誘を隠れて行うようになっただけだ。今や、レビュアーのインセンティブは無料の商品だけではない。レビュアーたちは現金と引き換えに、星5つの評価を付けるよう依頼されている。悪いレビューがあったとしても、良いレビューと比べて見つけるのは難しい。レビューには、ディスクロージャー(記事についての情報公開)がない(レビューと引き換えに報酬を得ることは禁止されているため、ディスクロージャーがあれば、そのレビューはアマゾンの規約に違反していることを示すことになる)。また、報酬と引き換えにレビューを書く人は通常、アマゾンで合計50ドル以上使ってきた履歴のある自分のアカウントで、クレジットカードを使って実際にその商品を購入している。それが、レビューに「Amazonで購入済み」ラベルをつけてもらうために必要な条件だからだ。

    アマゾンは、レビューの総数も、不正レビューの数も公開していない。しかし、ヌーナンCEOは自身のデータ分析をもとに、アマゾンは約2億5000万のレビューをホストしていると試算している。レビューメタはこれまでに5850万レビューを収集してきたが、アルゴリズムはそのうちの9.1%、530万のレビューを「不自然」と分類した。

    アマゾンの広報担当者は当初、BuzzFeed Newsの取材に対し、本物でないレビューの割合は「小さい」とだけ述べ、それ以上の詳細を明かさなかった。しかし、この記事の公開後に電子メールが届き、「3月には、本物でないレビューの割合は1%以下であり、1本も受け入れられていません」という補足があった。これはあくまで、アマゾンが本物でないと判断したレビューの割合だ。多くの不正レビューがそうであるように、アマゾンによる検出を回避するための対策が講じられた不正レビューは含まれていない。

    広報担当者によれば、同社の調査部門が、レビューそのものと、レビューの購入を目的とした「外部フォーラム」を調べているという。その上で、外部フォーラムに関連したアカウントはブロックまたは停止していると、アマゾンは説明している。

    さらに、広報担当者は次のように述べている。「アマゾンは、本物でないレビューを検出、防止するための調査を強化しています。また、より新しく、より有益なレビューを重視する機械学習アルゴリズムを用いたり、”Amazonで購入済み”ラベルの基準を厳格化したり、購入金額の条件を引き上げたりといった対策を講じています」

    しかし、出品者や購入者、レビュアーを取材した結果、そうした努力のかいなく、レビューの悪用は続いていることがわかった。

    不自然なレビューは必ずしも、商品が粗悪であることを意味するわけではない。報酬と引き換えに書かれたレビューの問題点は、たとえ抜け目のない消費者でも、自分が購入しようとしているものの良し悪しを判断しにくくなってしまうことだ。

    コロラド州フォートコリンズ在住のケビン・ボタウは2017年12月、ガールフレンドのAmazonプライム・アカウントを使い、サムスンのスマートフォン「Galaxy S8」のスクリーンプロテクターを10ドルで購入した。この商品には高い評価が付いていた。

    しかしこれは、ボタウに言わせれば「ひどい」商品だった。タイピングできないほど素材が分厚く、使いものにならなかったのだ。ボタウは腹を立て、アマゾンに返金を求めた。画面に貼って使う商品だったため、再利用はできず、返品不可だったにもかかわらずだ。

    「商品ページに戻り、“すべて不正なレビューだ”と確信しました」。しかし、商品は在庫なしになっていた。「まるで大量に販売し、その後、アマゾンから商品を引き揚げたような感じでした」

    BuzzFeed Newsが問い合わせた後、アマゾンはこの商品を削除した。ただし、ほぼ同じ写真を使用した商品が2つあり、それぞれ550150を超えるレビューを獲得している。いずれも星5つの評価で、購入済みラベルは付いていない。

    ボタウはその後、平凡な星3.5のスクリーンプロテクターを見つけ、商品に満足している。「申し分ありません。最高のレビューを残すつもりです」

    Facebookの検索ボックスに「アマゾン・レビュー」と入力したら、100以上のグループがヒットする。人気グループ「アマゾン・レビュー・クラブ」と「USアマゾン・レビュー・クラブ」はそれぞれ6万9000、6万のメンバー数を誇っていたが、最近、両者とも閉鎖された。しかし、多くのグループが存続しており、いずれも数万のメンバーを抱える。

    こうしたグループへの投稿は、まるで最高に雑多なガレージセールのようだ。芝生の土に空気を供給するための靴、毛玉取り器、おむつ替え用パッド、性具など。数分ごとに新しい商品が投稿されていく。出品者の大多数は中国人だ。2月には各グループで、旧正月には支払いが遅れる可能性があると通告された。投稿には、入手可能な商品の写真が含まれており、「レビュー後、PPで返金」といった説明が添えられている。レビューを投稿したことが証明されたら、ペイパルで支払いを受けられるという意味だ。

    背骨をまっすぐにするための姿勢矯正器具は、非常に気前の良い報酬を提示していた。商品代金20ドルに10ドルの謝礼を加えた30ドル分のAmazonギフト券で、条件はAmazonプライム会員であること、写真入りのレビューを投稿することだった。

    一方、「相場よりはるかに低報酬で仕事を請け負う」ことを自認する人たちが集うサブレディット「/r/slavelabour」は、3万6629のメンバーを擁し、レビュアーを募集するためのプロセスがフォーマット化されている。

    まずは、出品者が「タスク」を投稿する。自分の商品に良いレビューを残してもらうか、ライバルの商品に星1つのレビューを残してもらうかのどちらかだ。ある投稿には、「”Amazonで購入済み”ラベルなどは必要ないため、タスクを終えるのに1分もかかりません。まずは、こちらから商品のリンクを送ります。あなたはリンク先に、短い星1つのレビューを残すだけです。レビューがアマゾンに表示されたらすぐ、ペイパル経由で5ドルを支払います」と書かれていた。1週間以内に27人が「応札」し、この仕事への関心を示した。

    最もアクティブなレビュアーたちはヘッドハンターになり、「/r/slavelabour」のユーザーを勧誘する。誘導先は、アマゾン・レビューのエコシステム専用につくられたDiscordのプライベートサーバーや、Slackの招待制チャンネルだ。

    出品者は通常、商品代金の返金分に加え、1レビュー当たり4~5ドルを支払う。筆者がアクセスしたDiscordサーバーの場合、管理者が約20~25%の手数料を受け取っている。ただし、レビュアーは商品を無料で自分のものにできる。

    Discordサーバーの管理者は1月13日、「臭いトイレの匂いをすぐ消せる消臭スプレー」のレビュアーを募集した。ベール・フレグランシィズという会社の商品で、「オーストラリアの香り」がする天然消臭剤ということだった。

    この消臭スプレーはもともと、悪いレビューが多かったが、1月13日以降、良いレビューが次々と投稿された。良いレビューも悪いレビューも「Amazonで購入済み」ラベルが付いているため、本物のレビューと、依頼を受けて書かれたレビューを区別するのはほぼ不可能だ。また、どのレビューにも、無料で入手した商品、あるいは、出品者から報酬を受け取って書いたレビューであるという情報は含まれていない。

    ベールの担当者グレッグ・ドーニーはBuzzFeed Newsに宛てた電子メールで、レビュアーに報酬を支払ったことを認めた。「しかし、新しい商品を売り出すのは本当に難しく、レビューを購入するしかないのです」

    この商品を購入した人のレビュー履歴をさかのぼってみると、1つのパターンが見えてくる。「ブライアン」、「シャロン」という購入者は、消臭スプレーだけでなく、ある棚受けに高評価を付けていた。こちらの商品もDiscordサーバーに投稿されていたものだ。

    ブライアンはこの棚受けについて、「とても頑丈な棚」と評価している(ただし、商品は棚受けで、独立型の棚ではない)。シャロンは、「取り付けが簡単」で「耐久性がある」と述べていた。一方で、酷評したレビューも複数あった。壁が壊れたこと、つくりが悪いことなどを報告した上で、「絶対に買ってはいけません!」、「完全に金の無駄です」といった警告を発している(出品者に、アマゾンのプロフィールページから取材を申し込んだが、コメントを得ることはできなかった)。

    ブライアンとシャロンは、膣の健康を目的とした「ホウ酸坐薬」にもレビューを残していた。商品ラベルによれば、1日2回、2週間にわたって、膣に挿入して使うサプリメントだという。「膣の健康をサポート」し、「におい、かゆみ、痛み、灼熱(しゃくねつ)感、不快感を軽減」するとうたっている。この座薬は1月22日、Discordサーバーに投稿され、ブライアンとシャロンのレビューはその直後に現れた。

    ブライアンのレビューには、ガールフレンドが「セックス中に痛みを感じていたが、自分に原因はなく」、サプリメントを使用したところ、痛みが治まったと書かれている。シャロンは、女性の衛生・健康用品として、「最も安価で、最も優れた」選択肢だと評価している。どちらのレビューも、「Amazonで購入済み」ラベルは付いていない。D・ファムという人物は、星5つのレビューにおいて、内服用のサプリメントではないにもかかわらず、ホウ酸は「まずくありません」と述べている(D・ファムも棚受けに星5つのレビューを残している)。

    一方、星1つのレビューには、「悪夢」のような商品と書かれている。「膣にセメントの塊を入れたような感じです。ザラザラの質感で、膣がカラカラに乾いてしまいます」。別の1つ星レビューは「何時間もヒリヒリした感覚が続きました」と述べている。出品者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

    南カリフォルニア大学のケック医学大学院で婦人科助教授を務めるジェニー・ジャック博士によれば、ホウ酸座薬は特定の状況下のみで使用すべきものであり、医療従事者の監督も必要だという。「ホウ酸はキャンディーのように食べるものではありません。気をつけなければなりません」とジャック博士は警告する。「膣がヒリヒリし、傷つく恐れがあります。まるで膣が燃えているような痛みを感じるはずです」。ジャック博士はさらに、「毒性があるため、誤って飲み込んでしまったら大変なことになるでしょう」と言い添えた。

    Discordサーバーには最近、ウコン由来のクルクミンと、ミオイノシトールのサプリメントが投稿された。いずれも同じブランドで、妊婦用ビタミン剤に分類されていた。そして、シャロンD・ファムが星5つのレビューを残した。どちらもAmazonで購入済みラベルが付いている。出品者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。

    アマゾンは、「Amazonで購入済み」ラベルの基準を厳格化したと述べている。米国の場合、パスワードで保護されたアカウントから有効なクレジットカードで50ドル以上購入する必要がある。


    ジェイミー・ホエーリーは2010年の夏、ボックスシーツに、ある問題を発見した。留め具が外れ、夫ジミーの両足首に巻きついていたのだ。

    当時、テキサス州に暮らす40歳の看護学生だったホエーリーは、問題の解決策を考えてみることにした。シーツファスナーと呼ばれるボックスシーツの留め具は、サスペンダーのようなデザインで、とても面倒だったため、ホエーリーはバンジーコードを使い、ボタン1つで調整可能な新しい留め具を自作した。ホエーリーは自身の発明を「ベッドバンド」と名づけた。

    ジミーは妻を説得して、ベッドバンドをアマゾンで販売するようにした。その結果、多くの人が商品を買い求めた。ベッドバンドは発売から数年で、シーツファスナーのベストセラーとなり、年間売り上げは70万ドルに到達した。

    ところが2014年10月、ベッドバンドの売り上げが突然、約35万ドルまで半減した。ホエーリーは看護師のキャリアを諦め、ジムもフルタイムのCOOとして会社を手伝っていたため、2人は大きな打撃を受けた。「誰かが私たちの商品と全く同じ模造品を販売していました。特許は出願中だったため、権利を行使することもできませんでした」とホエーリーは振り返る。

    アマゾンのシーツファスナー市場は、「AliExpress」で大量購入した模造品であふれ返った。しかも、多くの模造品が、発売後すぐに、数十個の5つ星レビューを獲得した。ベッドバンドの売り上げは、その後の8カ月でさらに激減した。「ただ泣くしかありませんでした」とホエーリーは振り返る。「別の仕事を探す時間は残されているのだろうかと思いました」。ホエーリーは、当時のスタッフの半数に相当する、8つの請負業者との契約を解除した。

    「アマゾンが売り上げの大半を占めているという状況は大きなストレスです」

    ベッドバンドが特許を取得すると、アマゾンは模造品を削除し始めた。しかし、売り上げが減少し始めてから、すでに1年がたっていた。特許を取得しても、ライバルたちはベッドバンドに1つ星のレビューを残すことをやめなかった。「レビューを少しさかのぼってみると…同じ人物がライバル商品に星5つのレビューを残していることがわかります。2人の購入者が同じタイプのライバル商品について、レビューを書いているケースもあります」とホエーリーは説明する。

    ベッドバンドは現在、シーツファスナーのベストセラーだが、その座を長く維持できない可能性もある。「アマゾンが売り上げの大半を占めているという状況は大きなストレスです」。ホエーリーは収入源を多様化するため、「Walmart.com」、「Jet.com」、「Sears.com」などのオンラインショップでもベッドバンドを販売し始めた。

    それでも、アマゾンが主な収入源であることは変わらないため、ホエーリーはアマゾンの話をするとき、慎重に言葉を選んでいる。「自分の居場所を混乱させるつもりはありません」。しかし、アマゾンのアルゴリズムに振り回されることには不安を感じているようだ。「ある日突然、5位の商品になったりするのです。突然そのような変化が起き、(ライバルの)レビューが増えるというのは、とてもいら立たしいものです。明日、ライバルたちに売り上げを奪われてもおかしくないのですから」

    報酬を受け取ってレビューを書くことは、現代における「レモネード売店でのアルバイト」のようなものだ。レビュアーたちによれば、数ドルの報酬と無料の商品を得る手っ取り早い方法だが、ちゃんとした履歴になる仕事ではない。そして、入札からレビューの投稿、取引まで、すべてオンラインで完結するため、ベッドルームでノートパソコンを開くだけでいい。

    BuzzFeed Newsの取材に応えてくれたレビュアーの多くは10代後半~20代前半の男性で、レビューを書くことを趣味ととらえている。全員がアマゾンの取り締まりを恐れて、匿名を希望した。アマゾンの取り締まりを受けた場合、通常はレビューを書く権利が消失し、最も厳しいケースでは、新しいアカウントをつくる際、以前と同じ住所や支払い方法を拒否される。

    ジョシュ(仮名)は、レビューを書き始めてそれほど時間がたっていない。レビューの仕事は「/r/slavelabour」で発見した。ジョシュがこの仕事を始めたのは、無料で商品を入手できるからだという。「商品を自分のものにできるというのが利点です。私にとって、ユニークな新商品を試すのは面白いことです」

    最も熱心なレビュアーたちは、自身でレビューの取引を仲介するようになる。起業家精神あふれる18歳のフランク(仮名)は、空き時間を利用して、アマゾンのレビューに特化したSlackチャンネルを運営している。アマゾンで評価の低い商品を探し、その出品者に、自身のSlackチャンネルのレビューサービスを紹介するのだ。理想的なターゲットは、レビューが少なく、評価の低い商品だ。「レビューが30件あって、評価の平均が星2.5だったら、接触してみる価値は十分あります」

    レビューサービスの売り上げは1カ月に20ドルほどだが、出品者との交渉によっては、もう少し売り上げを得られるときもある。「レビュー1件につき、約30%の手数料を得ています」。フランクの場合、レビューによる主な収入源は、自身がレビューを書いて手に入れた商品のほうだ。これらをeBayで転売すれば、1カ月に「数百ドルくらい」稼ぐことができるという。

    エバン(仮名)は、10人から成るSlackチャンネルの一員で、レビュー関連の収入は月額約75ドルだ。エバンは、錘(おもり)の入ったワークアウトベストから、飲む育毛剤30日分、車載スマートフォン充電器まで、150以上のレビューを書いてきた。

    「少額投資や貯蓄に最適です」とエバンは語る。報酬と引き換えにレビューを書くときには、既存のレビューを参考にして「いくつかのキーワードを継ぎ合わせている」とのことだ。

    一方、姓を明かさないことを条件に取材に応じてくれた大学生のデバンは、自分は不正を働いていないため、本名を出しても構わないと述べている。デバンは正直な意見を書いているだけだと断言しており、報酬と引き換えにレビューを書くことは不正行為ではないと考えている。報酬と引き換えにレビューを書くことは規約違反だとBuzzFeed Newsが伝えるまで、デバンはこの事実を知らなかった。

    デバンは、レビューを書くことで利益を得ていることは認めている(レビューは毎日書いている)。デバンは、アマゾンから届いた緩衝材や梱包材を再利用しながら、格安で手に入れた商品をeBayで転売している。

    しかしデバンに言わせれば、報酬と引き換えにアマゾンのレビューを書くことは、昔から存在するマーケティング戦略の進化形にすぎない。「スポーツイベントでは、炭酸飲料のマウンテンデューが無料で配られています。商品を気に入った人たちがソーシャルメディアなどで宣伝してくれるからです。コストコやウォルマートでも、無料サンプルが手に入ります」

    「出品者の一部は家族経営で、多くの出品者が率直な感想を聞きたがっています…(レビューを書いている)多くの人が報酬を得ていないということは知っています。彼らはただ、人々に対して、より良い商品を紹介したいと思っているのでしょう」

    デバンの言い分は正しい。アマゾンには確かに「家族経営」の出品者がいる。ベッドバンドをつくっているホエーリーの会社もそうだ。しかし、今アマゾンで増えているのは、eコマースの経験も商品知識もほとんどない出品者だ。こうした出品者の目的は、1億人を超えるアマゾンの顧客を利用して利益を得ることであり、そのためには高評価を獲得し、既存のベストセラーに取って代わらなければならない。


    「フルフィルメントby Amazon(FBA)」プログラムを利用すれば、誰でもアマゾンに店を持つことができる。AliExpressのようなオンラインの卸売業者から商品を購入し、アマゾンの倉庫に送るだけだ。あとは、支払いから注文処理、配送まで、アマゾンが物流の一部始終を代行してくれる。

    デイビッド(仮名)はFBAを利用する出品者で、5つ星レビューを購入しようと考えたことがある。「最も利益を得ているのは、アマゾンの規約に違反している人々だと思います」

    デイビッドは何も発明していないし、医学部に通ったこともない。それでも、デイビッドはアマゾンで縫合練習用のパッドを販売し、1カ月に約1000ドルを売り上げている。「これは一種の趣味で、ビデオゲームのようなものです。それに、ウォーレン・バフェットも次のようなことを言っていました。"金をもうけたければ、金もうけの練習をしなければならない"」

    「星5つのレビューが33個もありました。2カ月で33ものレビューを獲得できるわけがありません。このような商品では異例のことです」

    デイビッドはまず「Jungle Scout」というサイトを利用した。年間350ドルでさまざまな指標を手に入れることができ、アマゾンでよく売れている商品や、「売り上げトップの製品の評価が平均または平均以下」のカテゴリーなどを教えてくれる。そうした評価しか得ていないということは、新参者が顧客を横取りするチャンスがあるということだ。「私は、縫合練習用パッドに目をつけました。皮膚のような質感で、医学生たちが縫合の練習に使用します。次に、私はAlibabaに行きました。中国のあらゆる業者がそろっており、商品を大量に仕入れることができます」

    デイビッドだけでなく、FBAを利用する多くの出品者が、アマゾンの縫合練習用パッド市場に殺到した。「オリジナルの商品を売っていた出品者の売り上げは激減し始めました。商品がJungle Scoutで取り上げられたことをきっかけに、競争が激化したためです」デイビッドによれば、「Your Design Medical」という出品者が、ライバルたちの商品に星1つまたは星2つのレビューを残していることが明らかになってきたそうだ(アマゾンは調査の結果、不正レビューの証拠は見つからなかったと述べている。Your Design Medicalのカスタマーサポート専用アドレスに電子メールを送り、取材を申し込んだが、回答は得られなかった)。

    オリジナルの出品者は評価が悪かったにもかかわらず、唯一、新しい売り手だけが良い評価を得ていた。これも不正の証拠だとデイビッドは考えている。「星5つのレビューが33個もありました。2カ月で33ものレビューを獲得できるわけがありません。このような商品では異例のことです」

    結局、デイビッドはレビューを購入しなかった。ただし、次のように言い添えている。「もしFBAが主な収入源だったら、レビューを購入していたでしょう」

    報酬と引き換えにレビューを書いている人や、レビュアーに報酬を支払う出品者の多くは、自分たちが悪者だとは思っていない。全く同じことをしている無数のレビュアーまたは出品者のひとりにすぎないと考えている。彼らは、近道をすることは単に、対等な立場で競争するための方法だと考えている。アマゾンの巨大なマーケットプレイスには、隠れる場所、最適化の余地、不正を働く機会がいくらでもある。出品者はアマゾンのアルゴリズムをコントロールできないため、アルゴリズムを惑わす方法をできるだけ模索しようとする。

    アマゾンは、不正レビューを取り締まろうと努力してきた。不正レビューを書いた、または販売した疑いで、これまでに1000人以上を相手取って訴訟を起こしている。「Fiverr」というウェブサイトに集うフリーランサーたちを相手取った2015年の訴訟では、アマゾンは、「カスタマーレビューの信頼性について、当社は真剣に考えています」と述べ、「これらのレビューは、数こそ少ないかもしれませんが、顧客と大多数の出品者、メーカーがアマゾンに寄せている信頼を著しく損ねる恐れがあります。そうなれば、アマゾンのブランドに傷がつきます」と述べている。

    あるサードバーティーの出品者から入手したマーケットプレイスのガイドラインには、出品者が「レビューと引き換えに報酬を提示すること、自身や競合相手の商品のレビューを書くことは禁止されています」と明記されている。ただし、良いレビューを要求することなく「中立的な方法で、購入者にレビューを求めること」、「レビュアーにレビューの変更または削除を求めること」は認められている。このようなガイドラインが存在するにもかかわらず、これらすべての行為がいまだ続けられている。

    サム・フェルドマンは大学生のとき、スマートフォンに貼り付けられる財布「カードバディー」をアマゾンで売り出した。アマゾンにこの種のレザー用品はまだ存在しなかったが、フェルドマンは特許を取得していなかった。すると、ライバルたちがすぐさま商品とパッケージをコピーし、カードバディーの商品画像まで使用し始めた。ある出品者は、2カ月で500レビューを獲得した。フェルドマンによれば、「明らかに不正」レビューだったという。

    フェルドマンはBuzzFeed Newsの取材に対し、「ある日、売り上げが半減していました。とても動揺しました」と語った。「結局、その状態を脱することはなく、競争はさらに激化しました。彼らの方が写真やタイトルが良かったのかもしれませんが…私にはわかりません」

    アマゾンの広報担当者は、「商品の権利を保有する出品者は私たちに知らせてほしいと思っています。私たちはあらゆる申し立てを徹底的に調査しています。模造品と思われる商品があれば削除しますし、悪事を働く出品者はアマゾンから永久追放します」と述べている。フェルドマンによれば、アマゾンはすぐに模造品を取り締まり、カードバディーの写真に権利所有者のマークを付けたが、数百件の不正レビューの削除には数カ月を要したという。

    アマゾンはもっと不正対策を講じられるはずだと、フェルドマンは考えている。「アマゾンはマーケットプレイスを立ち上げ、出品者を広く募っています。アマゾンにとって重要なのはシステム全体で、私ではありません。それは理解しています。しかし同時に、マーケットプレイスで生計を立てている人がいる事実を考えたら、もっとやるべきことがあるはずです」

    アマゾンにとって、不正レビューの取り締まりは難しい問題だ。ビジネスの中核を担う出品者を失う恐れがあるためだ。2017年に全世界のマーケットプレイスで販売された商品のうち、半数以上がサードパーティーの商品だった。また、アマゾンが「中小企業」と定義する出品者のうち、14万社以上が10万ドル超の売り上げを記録した。さらに、アマゾンは出品者から何重にも利益を得ている。マーケットプレイスへの商品掲載料だけでなく、荷物の重量に応じた手数料、倉庫の使用料など、商品が売れるごとに料金が発生する。アマゾンは2016年、出品者を対象としたこうしたサービスだけで230億ドルの売り上げを計上している。

    アマゾンは、eコマースの売り手にとっては必須の場所であり、さらには、次第に水道や電気などの公益事業のように見られる存在になってきている。2017年には、米国の全オンライン売り上げの半分近く(44%)に相当する1968億ドルの売り上げを記録した。

    「不正レビューを量産するレビュー工場は常に、アマゾンの一歩先を行っている」

    まるでドットコム・バブル期の起業家たちのように、多くの人がアマゾンで商品を売ろうと競い合っている。そして、AliExpressのようなサイトのおかげで、誰もが容易に大量の在庫を入手できるようになった(AliExpressも独自のフルフィルメント・プログラムを運営している)。良いレビューの獲得から、検索アルゴリズムの上位獲得、在庫一掃のスピードまで、あらゆる場所で競争が起きている。高速で人間味に欠けるアルゴリズムと、その試練に適応できない出品者は、撤退を余儀なくされる可能性がある。

    アマゾンは、訴訟や管理者、アルゴリズムによって、不正レビューを取り締まろうと努力している。しかし、不正レビューを量産するレビュー工場は常に、アマゾンの一歩先を行っている。

    アマゾンは、TwitterやFacebook、Googleと同様に、中立的なプラットフォームをつくり、そこにインターネットユーザーを招いて利用してもらおうとした。しかしアマゾンは、TwitterやFacebook、Googleと同様に、自社のプラットフォームをあまりに広範囲で巨大なものにした。プラットフォームは、制御不能なほど成長したのだ。しかしアマゾンが、例えばTwitterと異なる点は、ユーザーたちが生計を立てようとして頼りにしているところだ。

    一方、アマゾンの顧客たちは、本物らしいレビューをつくり出す高度なシステムにだまされ、期待外れの粗悪な商品を購入し続けている。

    ホエーリーに対して、アマゾンが不正レビューを締め出すためにできることを尋ねてみたところ、彼女は少し沈黙したあと、次のように述べた。「現在、不正レビューと売り上げは密接に結びついています。どうすれば一掃できるのか、私にはわかりません。希望がないようにすら感じられます。レビューの仕組みは当初、素晴らしいものでした。しかし、今はあまりに腐敗しています」

    ホエーリーは大きなため息をついて、さらに続けた。「アマゾンは本当に素晴らしいサイトです。けれども、インターネット上で不正レビューがこれほど拡大してしまったら、対策を講じるすべがあるのかどうか、私にはわかりません。詐欺師は常に不正を働こうとするものです」


    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan

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