
登場人物のノブ子がウェンブリー・スタジアムのライブを再現するという、ファン以外にはまったくピンとこない場面です。
映画『ボヘミアン・ラプソディ』のヒットでクイーンがあらためて注目されていますが、当時の読者の置いてきぼり感は半端なかったのではないでしょうかーー。
そんなまずりんさんに、クイーンの魅力、ボヘミアン・ラプソディの見どころ、ようやく報われた?クイーンへの熱い想いを語ってもらいました。
フレディが亡くなっていることを知らずに…
--まずりんさんはいつ頃からクイーンが好きだったのでしょうか?
まずりん:クイーンを好きになったのは中学3年の時ですから、かれこれ20年来のファンです。きっかけは兄が持っていたクイーンの「グレイテスト・ヒッツ」を聴いたことです。
『飛べないアヒル』というアメリカの少年アイスホッケーチームの映画のサントラにクイーンが使われていて、映画にハマった兄が父に頼んで買ってきてもらったのがクイーンのグレイテスト・ヒッツでした。
それから私がクイーンにめちゃくちゃハマって、兄からCDを譲り受け、毎日毎日聴いてましたね。歌詞を書き出したり、英単語の意味を調べたりして。
とにかくフレディ・マーキュリーの声が好きで好きで。なんでこんなに美しい声が出せるんだろうって思いました。
でもここで大きな落とし穴があって。私はフレディがすでに亡くなっていることを知らなかったんです。当時はインターネットなんてなかったですから、情報を得ることが難しかったんですよね。洋楽に詳しい人間も周りにいなかったし…。
高校入学したくらいで何かのきっかけで知ったと思うんですけど(ショックすぎて覚えていません)、とんでもない喪失感に襲われましたね。とにかく毎日悲しかった。CDを聴いても涙が出てしょうがなかったです。

その穴を埋めるように、とにかくクイーンに関するものを集めました。CDも国内盤と輸入盤を買ったり、海外からビデオテープを輸入したりして。
YouTubeなんてないから、情報を得るにはお金を出して買うしかなかったんです。毎月のおこづかいはクイーンに消えたので、高校時代の私は服をほとんど持っておらず、中学時代のジャージで過ごしていました。
あとは図書館に行ってクイーン関係の本を借りたり、過去の新聞資料を検索したり。フレディが亡くなった時のBBCのニュース映像のビデオを取り寄せて泣きながら観ている時、かなりのピークにきてましたね。
高校時代、周りのクラスメイトはみんなJ-POPに夢中なのに、1人だけ洋楽のしかも昔のバンドを愛してたから、異質感はすごかったです。
エキセントリックすぎる来日エピソード
--初来日時、日本庭園でけん玉に興じるフレディを描いているイラストもありました。まずりんさんが最もグッとくる親日家フレディのエピソードは何ですか。
初来日時、日本庭園でけん玉に興じるフレディの写真が好きでのう これはノブディ
まずりん:フレディはお忍びで日本を訪れるくらいの親日家で、日本画や骨董品が大好きだったそうです。
『ボヘミアン・ラプソディ』でも着物を壁に飾ったり、金閣寺のお札が貼ってあったりしましたね。これはいつか手に入れようと思いました。
来日に関しては数々のエピソードがあるんですが、一番好きなのは1986年のお忍び来日で歌川広重の浮世絵や人間国宝の漆器、屏風に刀、そして火鉢を30個も買って帰っていったという話です。火鉢を30個も買って何に使うんだろうって。
しかも、フレディの飼ってる猫が行方不明になった時、半狂乱になったフレディが窓から火鉢を投げ捨てたってエピソードもあるし。エキセントリックだな~。
--こんなツイートもありましたが、フレディと他のメンバーとのエピソードでまずりんさんがお気に入りのものを教えてください。
初来日と日本での熱狂をもっと描いてほしいという声はよく聞くが、私はフレディとロジャーが古着屋を共同経営してるところが観たい…きっとかわいい… #ボヘミアンラプソディ
まずりん:ブライアンとロジャーが音楽性の違いで口論になって、誰も手をつけられないほどになってしまった。
揉めた2人が勢いでフレディの楽屋に入ると、そこには座ってブリーフ一丁でコーンフレークを食べるフレディがいて、すぐに口論が終わったというエピソードです。ブリーフ一丁でコーンフレーク…かわいいの極み…。
あと好きなのは、「フレディマーキュリー(Freddiemercury)」と名付けられた小惑星があるという話。
この小惑星はフレディが亡くなった1991年に発見され、その後2016年のフレディの70歳の誕生日に国際天文学連合によって「フレディマーキュリー」と名付けられました。
フレディ作詞作曲の「Don’t stop me now」に「僕は空を飛び回る流星だ」という歌詞がありますが、本当にフレディは星になりました。
リアルタイムで追いかけられることの幸せ…
--昔のまずりんさんのように、周りに趣味を共有できる相手がいなくて、どこかくすぶってるという人には何と伝えたいですか。
まずりん:前述したとおり、私はフレディが亡くなったあとにクイーンそしてフレディを好きになって、でもフレディはこの世にいないというどうしようもない事実に打ちひしがれました。
その後、大学に進学し、スマッシング・パンプキンズやいろいろなバンドを好きになってライブやフェスに行くようになり、リアルタイムで好きなものを追いかけられることがどんなに幸せか実感しました。
限られた人生の中で本当に好きなものに出会えるというのは巡り合わせであり奇跡です。そう考えたら、周りに同じ趣味の人がいないからくすぶってるとか、そんなくすぶる暇なんてないですよね。追いかけろ!って話です。行動力もつきますしね。

私は今も1人でライブやフェスに行ったり、好きなアーティストが来日したら遠征したりしています。
まあ、今はSNSがありますから。学校や職場で同じ趣味の人がいなくても、外に目を向ければ簡単に同志が見つかりますよ~。
若いファンが増えることでクイーンが永遠の存在になる
--映画がヒットして、若い層も映画館に行き、連日満員状態が続いています。ずっと好きでい続けたファンとして、より多くの人に認知されることについて率直な思いをお聞きかせください。
まずりん:『ボヘミアン・ラプソディ』をきっかけにクイーンの音楽を聴く人が増えたのは本当に嬉しいです。
私の漫画にもクイーンが散りばめられてますが、「『独身OLのすべて』でクイーンを知って、『ボヘミアン・ラプソディ』を観に行ったらすごく感動しました、ありがとう」というリプライを何通かいただいて、「わ~よかった、こちらこそありがとう」って思いました。
「わいは昔から知ってたんよ~(どや顔)」の気持ちはほとんどないです。私は20年来のファンですが、世の中には50年近くのファンが多くいらっしゃいますから、私なんてにわかのにわかです。
好きなものに出会うきっかけというのは偶然が重なって生まれるものですから、早いも遅いもないんじゃないでしょうか。若いファンが増えることでクイーンが永遠の存在になるので、これからどんどんクイーンの音楽を聴きまくってほしいです。
絶対に聴いてほしい2枚のアルバム
--今回の映画をきっかけにこれからクイーンの世界を覗いてみようという人たちに、オススメのアルバムや聞き方の順番を教えていただけますか。
まずりん:クイーンはメンバー4人が全員作詞作曲ができるヒットメーカーなので、音楽性も多様です。ベスト盤が何枚か出てますので、それをまず聞いて、好きな曲があったらそれが入ってるアルバムを買うのがいいのかなーと思います。
クイーンのベスト盤を流すと、各々の一番好きな曲が見事にバラけるんですよね。それだけいろんな方向性の曲を作ってるということなんです。
ロック、オペラ、ゴスペル、クラブミュージック、いろんな要素が入ってて、それでもクイーンの曲ってわかる、それがクイーン。シングルになっていない曲にも名曲が多いので、アルバムをぜひ聴いてほしいな~。
個人的には、「オペラ座の夜」と「華麗なるレース」は絶対聴くべきだと思っています。この2枚は対になる作品と言われており、1枚のアルバムの中で1つの壮大な世界観が作られています。
映画中で使われた「Bohemian Rhapsody」「Love of My Life」は「オペラ座の夜」に、「Somebody to Love(邦題:愛にすべてを)」は「華麗なるレース」に入っています。
また、日本語の歌詞で歌っている「Teo Torriatte(Let Us Cling Together)」も「華麗なるレース」に入っているのでぜひ!
また、ネタバレになってしまうので詳しくは言えないんですが、エンドロールの最後に流れるあの曲。クイーンファンは最後の最後に流れたあの曲で、金縛りにあったように座席に縛り付けられてしまったくらいです。
私もこの曲が映画館で流れた時、ただただ涙があふれました。あの曲にはフレディの生き様がすべて詰まっています。
映画を観て、これからクイーンをじっくり聴くぞっていう方には、ぜひあの曲の歌詞と、あの曲が作られた壮絶な背景を知ってほしい。そしてまた映画を観ると、さらに深みが増すので、ぜひ調べてみてください!
