酒を飲み「気が付けば朝…」の繰り返しーー。『アル中ワンダーランド』著者まんきつ、記憶を辿り描いた日々

    トークショーに出たと思ったら翌朝になってた話がすごい。

    ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」でブレイクし、2015年には自身のアルコール依存症体験記『アル中ワンダーランド』を刊行した漫画家のまんしゅうきつこさん。

    現在は「まんきつ」に改名し、サウナと水風呂に通う日常を描いた漫画『湯遊ワンダーランド』も人気となっている。

    いまやお酒とは距離を置いた生活を送っているというが、このほど『アル中ワンダーランド』が文庫化されたタイミングで、壮絶な飲酒体験について振り返ってもらった。

    漫画にしようにも、飲んだあとの記憶がない

    ーー今回『アル中ワンダーランド』が文庫化ということなんですけど、大ヒットしたからこその文庫化なんですか。

    まんきつ:いや、それが最初の単行本が市場になくなって、また刷るとお金がかかるので文庫のほうが刷りやすい、ということみたいですね(笑)。

    ーーそんなコスト的な理由が。最初に出されたのはもう5年前ですね。

    まんきつ:そんなに前ですか、5年前…。当時は実はリアルタイムでアル中だったわけではなく、治療が終わってから描きだしました。

    だから弟に電話して、酔っ払ったあとのことを聞いたりだとか、周りの人にも「あの時どうだった?」とか聞きながら、なんとか描いてました。

    ーーお酒で記憶を飛ばした日のことを聞いて描くって辛そうですね。そもそもなんでアルコール依存症に関する漫画を描こうと思ったんですか。

    まんきつ:きっかけは普通にお酒の失敗談を、「こういうことがあったんだよね」って編集の高石さん(『湯遊ワンダーランド』など作中にもたびたび登場するあの編集者)に話してたら、「じゃあその経験を漫画にしませんか?」って言われて、「いやいやこれは無理でしょう」って。

    だって、漫画にしようにも飲んだあとの記憶がまったくないわけですから。

    でも会うたびに「ネームください」ってすごい熱心だったんですよ。取り立ての人みたいに「ネームできましたか?」と言うので高石さん流のギャグなのかな?と思ってました。

    最後のほうはもう「発売日も決まりました」みたいなこと言うんですよ、まだ1ページも描いてないのに。

    それで大変だ!と思って描きだしちゃったんですよね。

    トークショーに出たと思ったら翌朝だった

    ーー『アル中ワンダーランド』を読んでいると、ものすごい壮絶な飲酒経験がこれでもかと続きますね。「気づいたら次の日の朝だった」っていうやつが。

    まんきつ:いっつもそうなんですよ。

    二度と飲まないってその時は思うんですよね。

    恐る恐る昨日何してたかとか、周りの人に聞くんです。そうするともう、想像を絶するとんでもないことをしていたりするんですよね。

    ーーやっぱりそれは凹みますか?

    まんきつ:すごく落ち込んでそのあと寝込んじゃう。

    でもそれもね、お酒の常習性って怖いですよね。2日ぐらいするとまたお酒が飲みたくなってしまう。

    ーートークショーに出たと思ったら翌朝だったというエピソードもありました。

    まんきつ:緊張するとダメなんです。あのときは本当に初めてだったんですよ、人前で顔を出してしゃべるというのが。

    友達とは何時間もしゃべれるんですけど、どうしても人前でしゃべるのは苦手なので、酔っ払ってればなんとか乗り切れるんじゃないかと。

    ーーそしたら朝。しかも片方のおっぱいを出していた。

    まんきつ:そうなんです。乳まで出して…。

    酔っ払って記憶がないままキャバクラで働いていた

    ーー飲酒で一番やってしまった経験というと、どんなことがありますか。

    まんきつ:やっぱり酔っ払って記憶がないまま、キャバクラで働いていたことですね。

    翌朝、気づいたらちゃんとお給料までもらってました。

    あれは新潮社のパーティーで緊張のあまり飲んでしまい、挨拶している社長に「よっ!」とか「いいねえ」とか掛け声かけたりして…。

    周りの方はヒヤヒヤしたみたいです。連れてきてくれた編集者の方にタクシーにグッと押し込まれ(笑)。

    おそらくその後、赤羽でタクシーを降りたんです。赤羽の飲み屋さんでもう1杯飲んで帰ろうとしていたんでしょうね、きっと。

    そうしたら気づいたらキャバクラに入ってて、お客さんの相手までしていたという…。

    ホステスの方に話を聞いて欲しかったんでしょうね。自分のことを何も知らない人のほうが、悩みを話しやすかったりするんですよね。

    またいつお酒を飲んでしまうかわからない

    ーーいまは断酒に成功しているんですか。

    まんきつ:いえ、断酒はできていないんです。文庫版には加筆で、スリップ(アルコール依存症の人が再飲酒してしまうこと)していることを描いているんですけど。

    『アル中ワンダーランド』文庫版では「その後のアル中」としてのちに起きた出来事を書き下ろしてます。アルコール依存は本人のせいだけでなく育った環境や遺伝、自分ですら気付かない深いところに原因があることも知りました。色んな人に読んでもらえたらと思います。 https://t.co/BIFe2DRBOr

    断酒約200日後ですね、7か月目ぐらいに飲んでしまいました。それからも年に1回ぐらいスリップしちゃうんですよね。

    アル中の人は基本スリップするらしく、それで一生治らない病気みたいに言われていますね。

    普通の酒飲みに戻れるのが1000人に1人なんですって。

    ーー狭き門ですね。

    まんきつ:いまは飲んでないですが、またいつスリップするかわからないんですよね。